先月末、ASUSTeK ComputerがUltrabook「ASUS ZENBOOK」を発表した(当日のレポート記事はこちら)。その際、短い時間ではあったが、発表会にあわせて来日したASUSTeK Computer会長のJonney Shih(ジョニー・シー)氏に直接インタビューする機会があったので、本稿では、その模様をお伝えしたいと思う。
台湾ASUSTeK ComputerのJonney Shih会長。1990年代前半の社長時代には、当時のASUSを大手企業に飛躍させたエンジンビジネスであった、PCマザーボード製品の開発にも携わっていたことで有名で、経営者であるとともに技術者としても知られた人物。2008年から現職 |
ZENBOOKのコンセプトは"禅"
Shih会長によれば、ZENBOOKには明確な製品コンセプトが存在し、ZENBOOKにおいては、そのコンセプトが、ボディデザインや、性能目標、最終的には使われ方や、ZENBOOKで実現するユーザーのライフスタイルに至るまで適用されているのだという。そのコンセプトのキーとなる言葉が、「禅」なのだそうだ。
この「禅」とは、日本人にはなじみの深い、いわゆる仏教の「禅」を示している。そもそもZENBOOKの製品名もこの「禅」から来たものだという。『禅というのは、中国人と日本人なら誰でも知っており、欧米人にも理解する人が多い、人間に内なる平穏をもたらすものです。現代の人々は多忙で、平穏を得がたい。そのような中で、ZENBOOKは、人々に内なる平穏をもたらす製品にしたいと考えました』(Shih会長)。
ZENBOOKの設計で、性能とデザインという相反しやすいバランスを考える際にも、この禅の考え方をベースにしたそうだ。『ASUSのデザインチームには、左脳(論理)だけで考えてはいけない、右脳(感覚)も使わなければいけないと指示をしています。デザインのために使いづらくてもいけませんが、例えば筐体内部の熱処理ためや、Wi-Fiアンテナの配線のために、オーディオ性能をないがしろにしてはいけない。ZENBOOKでは、ユーザーが五感で求めるニーズを盛り込めるよう、アーキテクチャ全体に禅の精神でのバランスを求めました』(Shih会長)。
やや抽象的な話になっているが、実際に製品として完成したZENBOOK自体を見てみると、その「禅」の話も少し理解しやすくなる。ZENBOOKのボディはアルミ板一枚から磨き上げたユニボディとなっており、天板には特徴的な"円"を描くスピン加工のデザインが施されており、これらは禅の精神の"和"をイメージしたものだ。最薄部で3mm、最軽量で1.1kgの本体に、高性能なCore i7と最長8.1時間のバッテリ駆動を実現したバランスの到達点なども、禅のコンセプトに基づいたものだとされる。
ウルトラブックとタブレット、ASUSが注力するのは?
さて、現在までに、コンピュータデバイスのパーソナル化が非常に進んでおり、個人がコンピュータデバイスを所有することは当たり前で、さらに個人の使い方に即して様々な形態のコンピュータデバイスが世の中に登場している。その中で近年注目なのはモバイルデバイスであり、スマートフォンやタブレットといったデバイスは、その最たるものだろう。
UltrabookであるZENBOOKは、ノートPCのアプローチから、個人が携帯するコンピュータデバイスのメインストリームに名乗りを挙げる製品だ。現在でこそ、ハードウェアの制約などから、使い道が異なりある程度の住み分けができている、デスクトップ、ノート、Ultrabook、タブレット、スマートフォンといったコンピュータデバイスだが、目指すところがコンピューティングパワーの向上や、モビリティ、パーソナライズなど共通点がある以上、いつかは集約され、競合していくのではないかと見ることもできる。
ノートPCユーザーが、タブレットの必要性に懐疑的だったり、タブレットユーザーが、ノートPCの役割をタブレットで代替しはじめている例は、現在でも散見される現象だ。では、そういったコンピュータデバイスを、ほぼ全てラインナップしているASUSの舵をとる立場であるShih会長の場合は、デバイス単位であれば何を重視しているのか。『その答えは非常に簡単です。まだまだ、全てのデバイスにイノベーションの可能性、余地が大いにあるからです。まだ、どのデバイスもユーザーの求める全ての要求に応えているわけではなく、ベッドではタブレットの方が使いやすいし、ビジネスにはノートPCでしょう?』(Shih会長)。
『大切なのは、全てのデバイスでイノベーションを起こしていかなければならないということです。UltrabookのZENBOOKはイノベーションですが、これももっとイノベーションを進めなければならない。さらに、一方だけではだめで、同時にタブレットのイノベーションも進めなければ、ユーザーへ、新しいデジタルライフのイノベーションは提供できないのです。タブレットかUltrabookか、という話ではなく、両方のデバイスが有望です。ASUSは両方のイノベーションを同様に重視しています。本当にユーザーのニーズに応えるためには、ASUSは、全てのデバイスでのイノベーションを求める必要があると考えています』(Shih会長)。