セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。3回にわたる「アメリカ編」の最終回となる今回は、バンクオブニューヨークメロン証券 ヴァイスプレジデントの佐々木一成氏と中野氏が、新興国の成長も貪欲に取り込もうとするなどの、米国の強さについて語っていただいた。
人口増加による消費が米国の強さの源泉
中野 : これまで過去2回、米国の現状の問題点や影の部分についてクローズアップしました。佐々木さん自身は米国の金融機関で、米国の最新情報をがんがん仕入れている中で、米国の強さをいつも再認識していると伺いましたが、あらためて、米国の強さというものを語っていただけますか?
佐々木 : やはり前回触れた、人口が増えているということがあります。その人達が常に消費することで経済を押し上げていく、そのお金が銀行に回っていろいろな社会に還元されていく、この流れが途切れないようにうまくできているのが、米国の強みだと思います。
なおかつ決済インフラを含めて、ドルを中心に世界経済が構築されています。幸か不幸か米国の大半の人はそれをあまり意識せずに日々やっていて、それが当たり前だと思っているので、それが強みだと思っています。
ただ、9.11テロとかリーマン・ショックとか、想定外の話が来た時に、実はあまり打たれ慣れていないという所もあります。
オバマ政権が志向する「ジャイアンからの脱却」
中野 : そうですよね。僕はよく米国を「世界のジャイアン」と呼ぶんですけれども、ジャイアンである米国っていうのは、あまりいじめられることがないわけですから、たまにいじめられると、心が折れる。
佐々木 : 恐らく皆さん感じているかと思いますが、9.11以降の米国と、それ以前の米国は、行動様式というか、強さというか、感じるものが違っているような気がします。
中野 : そうした感じはすごくします。それがさらに進化したのは、ブッシュ政権からオバマ政権への移行であり、オバマ政権は今何を志向しているかというと、「ジャイアンからの脱却」ではないでしょうか。
逆に、ジャイアン化しているのが中国であって、米国は世界に対して、共存共栄というか、共生というか、価値観を共有して等しく世界経済を育てていこうという方向に軸をきっていますよね。この変化は、米国のどういう所から来ていますか?
佐々木 : 米国も財政不足に陥って、8月に債務上限の引き上げ問題でだいぶもめました。このままではデフォルトというのもちらつきました。大きな話になりますが、民主主義の形態というのは、経済成長を前提にできていると思います。税収が増えて人間の生活水準も上がって、お金を使ってまた税収が増えていくというサイクルだと思います。
ところが、欧州も日本も米国も成長が止まるということになってくると、世界経済を引っ張ってくれる所がどうも中国以外になさそうだということで、中国が台頭してきました。
当然経済力の膨張は軍事力の膨張になりますから、今まででしたら米国はこれを抑えたいと思うんですけれども、米国はそれを表立ってしていない。その部分は、面従腹背で、考えていることと、態度とは全く別だと思います。
中野 : グローバリゼーションという構造を認識した上で、中国がこれから元気に大きくなるなら、しっかり取り込んで栄養にしようと、その発想はすごくよく(米国によって)表現されていると思うんですよね。日本にある意味、欠けている部分ですよね。
佐々木 : そういう意味では、日本も貪欲(どんよく)になるべきでしょう。
中野 : グローバリゼーションという事に対して、どう立ち向かうかが競争のポイントですね。
佐々木 : GDPの話も出ましたけれども、2010年の数字で見ると、米国ほか6カ国の「G7」のGDPと、「BRICs+韓国・トルコ・メキシコ」の7カ国の新興国のGDPの比率は、五分五分なんですね。ですが、米国が抜けちゃうと、これが1 : 2になるわけですから、米国がいかに大きいか分かります。
米国の「お金を集める力」はダントツ
中野 : 米国は世界のGDPの4分の1を占めているわけですから、これがなくなれば世界経済は成り立たない。私自身も長期投資ということで、米国経済へのコミットメントというのが、すごく強いんですよ。これは中長期的にもずっと繁栄し続けるという意味で、ポートフォリオを見ています。
佐々木さんのおっしゃっていた、米国の金融市場の強さ、つまりお金を集める力、ここが違うと思うんです。GDPと金融市場の差ですね。
佐々木 : 株式投資をする時に、ベンチマークとなるMSCIのグローバル指数があります。そのグローバル指数の国別配分で見ますと、米国が4割ぐらいです。エマージング(新興国)株は15%しかありません。GDPの規模で比率配分すると、米国のGDPは世界の4分の1、エマージングはすでに4割を超えているわけですから、この(金融市場とGDPの)ギャップは見ていかなければなりません。
中野 : まさに、お金を集めるだけの成熟した力が米国の金融市場にあり、魅力もあるし商品もあると。そう考えると、エマージング経済の成長は発展段階ですが、まだお金を集めるだけの成熟した金融市場を持っていないということですね。
佐々木 : やはりまだまだ、米国の利点は大きいです。今のところ、代わりが出てくる可能性はありません。
中野 : 米国なしでは、新興国の経済成長も成り立たなくなるわけですよね。
佐々木 : 結局(新興国が)お金を調達しようとしても、自国建ての通貨で集めづらい。そうなると、やはり米ドルですよね。
米国の一国支配を前提にどう考えるか。まさにセゾン投信のファンドの中でのバンガードのポートフォリオのあり方も当然変わってきます。もしユーロがドルに代わりえないということであれば、ドルの比率が自然と増えていくでしょうし、場合によっては円が増えていくという資産配分の変化も考えられます。
中野 : 本屋に行くと、「米国経済の終わり」とか「ドル暴落」「米国債破綻」とかの本が売れていますけれども、冷静に世界経済を見ていただきたい。米国が依然として真ん中で、ドルを中心に世界経済が動いているという歴史的な事実が続いているんですね。
長期投資の中で、やはり客観的に世界を見て、その仕組みをきちんと投資運用の世界に取り入れていくことが原点だと思います。
米国がひっくり返るというのは、話題としては面白いですが、そういうことを喜んでいると世界経済が壊れちゃいますから、やはり米国を皆で応援していくという形で、ぜひ皆さん投資を続けていきましょう。長期投資を頑張って、世界経済を元気にしていきましょう。
ワールドインベスターズTV『セゾン投信社長 中野晴啓の世界一周の旅・第一回 アメリカ経済編(3)それでもアメリカが強い理由は?』の動画URLは以下の通り。
http://www.worldinvestors.tv/products/detail.php?product_id=1102