当たらなければどうということはないスペースデブリ
1つの衛星にデブリがあたる確率はどの程度だろうか。仮に高度700kmで、面積20m2の衛星1機が5年間で衝突する可能性は、1cm程度の大きさのデブリで0.01個。衛星の寿命は通常5-10年だし、その程度のデブリには耐える設計になっていることを考えれば、問題ないレベルだ。しかし、全体の6%が運用中の衛星ということを考えると、1万7000個のデブリのうち、1000個弱程度が該当し、その内の1つは1年のうちに当たる計算になる。これはすべての衛星が同一軌道上にあるという仮定のものなので、現実はその通りとはならないが、それでも看過してよい割合ではない。
1cm程度のデブリでわざわざ大げさに騒ぐなんてと思うなかれ。運動エネルギーに換算すると、仮にアルミ製の1cmのデブリが10km/sの速度で飛来、衝突した場合、実に400ポンド(約181kg)の金庫が時速60マイル(約97km/h)で衝突するのと同程度のエネルギーとなる。「普通の衛星であれば、全損するほどのダメージ」(同)とのことで、決して無視してよいレベルの話ではない。
単純計算だが1週間に1回はデブリが再突入する現在
では、デブリは増え続けるだけか。何も対策をしなければそうなるが、少なくとも、各国の宇宙機関は連携して新たなデブリを発生させない努力や協力関係を構築して、衛星やロケットにもそうした工夫を施しているし、運用上発生してしまうデブリについても、紐をつけるなどして、宇宙空間に無造作に放り出すということを辞めている。
また、運用を終了した衛星を早く、その軌道上から外すという努力も求められている。高度1000km程度の軌道では、地球の希薄な大気の影響を受けて、徐々に地表に向けて高度を下げていくが、実に1000年オーダーの話で、悠長に待っていると、その間もデブリは確実に増えていくこととなる。そのため、運用を終える瞬間に、その軌道から外れ、再突入をするか、より高い高度に逃げるかのどちらかができればよいが、そんな燃料があれば、運用に回したいというのが本音というところで、妥協点として、ミッション終了後25年以内に高度2000km以下、および静止軌道±200kmを保護領域とし、そこから除去する、というガイドラインを設定している。
軌道から除去するということで、再突入を行い、大気との摩擦熱で燃やしてしまうという手が考えられるが、各国機関同士の取り決めによる設計基準値は、再突入1回につき、地上での障害確率を1万分の1以下に抑えることとなっている。
この地上での障害確率の数値が、UARS、ROSATでは誤解を招くものとなっている。UARSの時は、3200分の1と言われていたが、これは3200人に1人という確率ではない(もし、そうだとすると、日本の人口約1億3000万人のうち、どれだけの数が被害を受けることになるかという話になる)。
この値は、地球の総人口約70億人の誰か1人が、落下物に当たって負傷する確率を表す。ただ1人、自分に当たる確率は例えばUARSでは3200分の1をさらに総人口数で割った値となり、2000分の1と言われている今回のROSATだが、特定の個人に当たる確率にすると実に26兆分の1という値となる。
そこでこの1万分の1(10-4)という値がどの程度の危険性なのか、事象が異なるので一概に数値だけで判断はできないが、隕石の落下による年間死亡予測数は3.6×10-1人で、日本で交通事故に遭遇する確率は0.9×10-2人/年であることを踏まえると、だいぶ低いことが分かる。
とはいえ、人間が宇宙に打ち上げたさまざまなものが再突入することは日常的に発生しており、この20年間程度の期間で多い年で1000回、少ない年でも200回程度、何らかのデブリが再突入しており、大きな衛星やロケットのボディなども年50個程度は再突入していることを考えると、毎週、何らかの大型物体が再突入を果たしていることとなる。
しかし、その多くが再突入時に、そのほとんどが燃え尽き、地上に到達することはないので、日常的に再突入が起きても、それほど問題視はされてこなかった。今回のROSATや前回のUARSが問題となっているのは、数t規模の比較的大きな重量の衛星で、かつ燃え残って地上に到達するであろうと予測される物質の総量がかなり多いことである。
UARSは5.6tの衛星で560kgが地上に落下すると予測され、今度のROSATは2.4tでその内1.6~1.7t、約30個の破片が地上に落下すると予測されている。UARSよりも質量が少ない割に、落下物の質量が多いのは、衛星のミッション上、溶けにくい材質が多く使われていることに起因する。特にX線望遠鏡のミラーは熱に強く、その周囲に燃えやすいCFRPで保護されている。そのため落下中にCFRPは燃えるが、ミラーは残るということで、1.7t中1.5t程度はこのミラーが占めるとみられている。
どこに落ちるのか予測しづらい点も課題ではある。衛星は地球の周辺を飛び回っており、言ってしまえば、どの地域の上空もいつかは飛んでいく。しかし、それまで希薄だった大気の影響がだいたい高度100-200km程度のところで一気に濃くなり、大きなブレーキへと変化する。この大気が濃くなる高度は太陽活動などの影響で微妙に変わってくるので、どの場所でそうした影響を実際に受けるのかは、その地点に入ってみるまでわからないため、2日程度のマージンを持たせることとなっているという。
目指すべきは障害確率ゼロであるが、JAXAでも木部氏らがデブリの掃除に向けた提言を10年以上前から行っており、捕獲衛星を使って、廃棄された衛星を軌道から除去しようというプランも進められている。実際に軌道からの除去する方法としては、捕獲衛星から対象衛星に向け衝突後、蒸発してしまう程度の氷の塊を角運動で回転する対象衛星にぶつけることで回転を止め、軌道から移動させるための加速(減速)機構として、導電性テザーを当てることで、地磁気との相互作用により高度を徐々に下げて、最終的には再突入を果たす仕組みが検討されているほか、小惑星探査機「はやぶさ」でも用いられたイオンエンジンから出る粒子を対象衛星にぶつけることで、軌道から除去する方法なども考えられているという。
なお、「今、世界規模で、デブリに対する危機意識を持つようになってきている。このまま行けば地球はデブリの雲で覆われることになる。我々もデブリの研究者として、2020年を目標として評価機を打ち上げ、大型のデブリを除去できることを実証したい」と木部勢氏は語っており、そうした取り組みと並行して、JAXAから国、そして世界的に議論を広げる取り組みをしていければとしている。