インターネットとホームページ・ビルダーの歩み
1991年、CERN(欧州原子核研究機構)がWWW(World Wide Web:ワールド・ワイド・ウェブ)を世界に公開してから早20年。Webは個人の情報発信から企業の情報提供まで、現在のインターネットを取り巻く環境に欠かせないシステムとなっている。当初はWebページを構成するために欠かせないHTMLを、テキストエディターで直接記述する「手書き」が一般的で、HTMLに関する解説書が多数出版されたのは、当時を知る方なら懐かしい一時代だろう。
しかし、HTMLのバージョンが更新されることに機能は拡充され、手書きでタグを書くのが面倒になりつつあった。コンピューター本来の目的である自動化を体現するように登場したのが、Webオーサリングツール。いわゆるWebページ作成ソフトウェアである。HTMLやCSS(Cascading Style Sheets:HTMLやXMLの要素を修飾するための仕様)の文法や構造を知らなくとも、視覚的にWebページを作成できるため、手軽なツールとして重宝されてきた。
そのWebオーサリングツールのなかでも老舗(しにせ)に分類される「ホームページ・ビルダー」の初バージョンがリリースされたのは、W3C(World Wide Web Consortium:各種技術の標準化を推進するために設立された標準化団体)がHTML4.0を勧告した時期よりも一年早い1996年。日本IBMの大和開発研究所が開発し、現在はジャストシステムが開発・販売を行っている。
多くのユーザーがWebページ作成を行い、企業でもWebページ作成に用いられるホームページ・ビルダーの進化は、インターネットの新技術や流行(りゅうこう)、HTMLの進化と歩みを共にしてきた。バージョンナンバーが示す数字を見てもそれは明らかだろう。
最新版では、ジャストシステムが展開するサービスにより、数ステップでWebページを作成する「かんたんホームページ・デビュー」。TwitterのツイートボタンやFacebookのいいね!ボタンなどを追加するソーシャルネットワークとの連動。CSSテンプレートや画像データの拡充も行われた。本稿では最新版となる「ホームページ・ビルダー16」のベータ版を試用し、その利便性を追求する。
「ホームページ・ビルダー16」の新機能
まずはホームページ・ビルダー16の新機能を確認してみよう。同バージョン最大のポイントは、Webページの作成から公開に至るまで発生する作業を一連のウィザードで実行できる「かんたんホームページ・デビュー」の搭載。
同機能はジャストシステムが運営する「ホームページ・ビルダーサービス」と契約し、Webページのコンテンツを保存する領域の確保や独自ドメインの契約と設定、FTPによる転送設定などを自動で設定するというもの。ユーザーはメールアドレスとパスワードを入力し、ウィザードからテンプレートや基本情報を選択するだけでWebページが作成できる。
本来Webページとは個人・企業のカラーを打ち出すものであり、好みに応じたコンテンツを並べることに存在意義があることは誰も異論がないだろう。この観点から見れば「かんたんホームページ・デビュー」によって作られたWebページは画一的なものとなってしまうため、同機能が魅力的に映らないかも知れない。
しかし、それは早計である。デザインやWebページとしての機能を強化するためには、やはりHTMLに関する知識が必要だからだ。ツールに頼って作成しても応用性が乏しいため、結局は詳しい解説書に頼らなければならない。その一方で、基本的な要素を満たした同機能は、自身のイメージを具現化する場面では十分働いてくれる。
なお、ホームページ・ビルダーサービスは有料サービスであり、ディスク容量10GB/独自ドメインありといったベーシックプランは1,480円/月。ディスク容量を50GBに拡大してデータベース機能が使用できるビジネスプランは3,480円/月となる。もちろん既に契約しているプロバイダーやレンタルサーバーを用いて、かんたんホームページ・デビューによるWebページの作成も可能だ(図01~04)。
この簡単ホームページ・デビューや「フルCSSテンプレート」から呼び出せるページデザインは、CSSを大幅に活用したコードで記述されており、通常版では27種類、バリューパックは59種類、ビジネスパックは67種類も収録されているため、ひな形としては必要十分である。
以前のバージョンから携帯電話向けWebページへの変換機能は備わっていたが、新たにスマートフォン向けテンプレートを元に、既存ページをスマートフォン向けに変換する機能が用意された。通常は個別に修正・拡張を行うものだが、ホームページ・ビルダー16では、PC向けWebページと同期するため、作業も一方に対してだけ行えば済む。
もちろんクライアントの情報を取得して最適なページにナビゲートするコードも自動的に組み込まれるので、多くのユーザーに対してアピールしたいWeb担当者や個人には有益な機能となるだろう。なお、スマートフォン向けテンプレートは通常版が5種類、バリューパックおよびビジネスパックは11種類となる(図05~07)。
進化や流行(りゅうこう)の移り変わりが早いインターネットに合わせるように、ホームページ・ビルダー16は、様々なソーシャルネットワークサービスに対応。TwitterのツイートやFacebookの「いいね!」ボタンなどをサポートし、自身のWebコンテンツに挿入することができる。手書きでタグを書く場合、コードを追加するのは面倒なので、既存Webページの拡張を目的としているユーザーにも便利だろう。
また、Facebook OGP(Open Graph protocol)をサポートすることで、ボタンクリック時のメッセージもカスタマイズ可能。今では多くのユーザーが目にするFacebookだけに、細かいアピールポイントを押さえるという意味では有用な機能だ(図08)。
なお、背景画像やイメージカットして使用する写真だが、ホームページ・ビルダー16ではネット経由で写真を購入できるストックフォトサービスから、通常版は100点、バリューパックは500点、ビジネスパックは900点を用意。これらの写真は無償使用可能だが、写真によっては使用許諾内容が異なっているのでその点は注意してほしい(図09)。
ホームページ・ビルダーシリーズは、Web制作に明るくないユーザー向けというイメージが以前にはあった。本バージョンを見る限り、必要最小限レベルながらも視認性の高いコードが生成されている。もちろん、日々Webページのコーディングを行っているWebデザイナーからすれば、至らない部分があるのかもしれない。だが、効率的にWebページを作成し、維持しているというレベルであれば、十分合格点に達している。Webの仕組みに明るくないが、Webサイトを立ち上げたい、と考えているユーザーにホームページ・ビルダー16は強い味方となりそうだ。
阿久津良和(Cactus)