民間で初めて月面に行って地球に映像を送る――このミッションを達成したチームに懸賞金を出すというのが「Google Lunar X PRIZE」である。これに唯一日本から参戦しているのが欧州との混成チーム「White Label Space」だ。8月29日には記者会見が開催され、開発中の月面ローバーのプロトタイプが公開された。

左から、ローバー開発担当の吉田和哉教授、WLSジャパンの袴田武史代表、中村貴裕COO

史上最大の賞金レース

「Google Lunar X PRIZE」(GLXP)は、米国のX PRIZE財団が主催する宇宙開発コンテスト。民間による宇宙開発を促進することを目的としており、国の宇宙機関は参加することはできない。

ミッションの内容は以下のようなものだ。

  • 月面に着陸して、撮影した写真やビデオを地球に送信
  • 月面を500m以上走行して、再び写真やビデオを送信する

米Googleがスポンサーになっており、賞金総額は3,000万ドル(1ドル=80円換算で24億円)。ミッションを最初に達成したチームに2,000万ドルが与えられ、2位には500万ドル、そしてそのほかオプションのミッション(「水の発見」「越夜に成功」「アポロの撮影」など5項目)にも合計500万ドルのボーナスがかけられている。期間は2015年末までだ。

同財団は1996年にも、民間宇宙機開発に懸賞金を出して「Ansari X PRIZE」を開催。2004年に米Scaled Compositesの有人宇宙船「SpaceShipOne」が高度100kmの宇宙飛行に成功して、賞金を得ていた。米Virgin Galacticは、これをベースに大型化した機体「SpaceShipTwo」を使って、宇宙旅行サービスを提供する計画。

Ansari X PRIZEでは、SpaceShipOneがミッションを達成した

X PRIZE財団は宇宙分野以外にも賞金を提供している

財団のピーター・ディアマンデス代表は、リンドバーグが大西洋無着陸飛行で得た賞金「Orteig Prize」に着想を得て、X PRIZEを始めたと言われる。これを契機に航空機産業は急速に成長、本格的な航空機の時代が到来した。X PRIZEは、宇宙でもそれと同じ事をやろうとしているのだ。

最大の「壁」は技術よりも資金?

GLXPには、世界18カ国から28チームがエントリー。Ansari X PRIZEには残念ながら、日本から参加したチームは1つもなかったのだが、GLXPには日欧の合同チーム「White Label Space」(WLS)が出場する。

Google Lunar X PRIZEには、米国を中心に世界中からの参加が

WLSでは、減速用ステージとランダー(着陸機)を欧州側が、ローバー(探査車)を日本側が開発する。ロケットで打ち上げた後、3日ほどで月には到着。減速用ステージのエンジン逆噴射で減速してから、ランダーが着陸、それから日本のローバーが月面を走行して画像を撮影する計画だ。

減速用ステージと分離するランダー(想像図)

ローバーはランダーのスロープを降りて月面へ

技術的な課題はもちろんあるが、まず問題となるのは資金力。WLSのプロジェクトには50億円(打ち上げ費込み)が必要とされており、この資金をどこから調達するか。ロケットだけでも数10億円はかかると見られており、これがないとそもそも打ち上げることすらできない。

WLSでは、個人からの出資金と、企業からの広告費の両方を期待する。個人に対しては、ルナマイレージという制度を提案。「ローバー操縦権」などの特典を用意する。ファンミーティングやクラブイベントなどの開催を通して一般の認知度を向上させ、それによって広告価値も高める戦略だ。

ルナマイレージという特典プログラムを用意する。企業とのコラボも計画

開発プロセスをオープンにして、個人や企業を巻き込んでいく考え

WLSジャパンの袴田武史代表は、「この挑戦により、宇宙開発は大幅に発展することになるだろう。だからこそ、我々はこの壮大なプロジェクトに力を入れている。このワクワクするプロセスをみなさんと共有していきたい」と述べ、広く応援を求めた。

今後、WLSチームは2012年にロケットを決定、2013年にローバーを完成させ、2014年に打ち上げを実施する計画。