Rearden Companies

昨今はモバイル端末などWi-Fi対応機器が増加したこともあり、人が多く密集する場所において通信に支障が出ることも少なくない。これは限られた電波帯域を多数の端末で共有するために実効レートが大幅に減少することによる。だがシリコンバレーのある起業家が発明した技術を使えば、こうした現象を回避して複数の端末が共存する環境でフルレートの無線通信が可能になるという。

この技術は「Distributed-Input-Distributed-Output (DIDO) Wireless Technology」と呼ばれ、クラウドでゲーム配信ビジネスを展開する米OnLiveの創業者兼CEOのSteve Perlman氏によって開発されたものだ。DIDOの存在自体は7月初旬に公開されて少し話題となったが、7月27日(現地時間)に正式にホワイトペーパー(PDF)が公開された。ホワイトペーパーはPerlman氏とRearden Companiesの主席科学者Antonio Forenza氏の連名によるもので、現在Reardenのサイト上で公開されている。Reardenは「Innovation Incubation」というキャッチコピーを冠しているように、新技術を開発してそれをビジネス化している組織のようだ。OnLiveもまたReardenのプロジェクトの1つだと同サイトでは説明している。なおDIDO自体は現在特許申請中となっている。

詳細はホワイトペーパーを参照いただくとして、ここでは簡単にDIDOの概要を紹介しよう。通常、Wi-Fiでの通信は複数の端末で空間を共有し、これを時間や帯域によって分け合う形で、他の端末が通信していない空き時間や帯域を使って無線通信を行っている。他の端末が同じ帯域を使って通信しているようであれば通信を行わずに待機し、通信が行われていないことを確認してから通信を開始する。これは、同じ空間内で同じ帯域を使った電波が共存することができないためで、相手の通信を妨害して電波の送受信を行ってしまうことのないよう、互いに空間や帯域を共有する仕組みが構築されているのだ。こうした空き状況の確認や送受信は非常に短時間で行われ、めまぐるしい速度でオン/オフが繰り返されているため、ユーザーの目にはあたかも常に通信が行われているかのように認識される。これがWi-Fiなど、無線LANでの通信の仕組みだ。

ところが、こうした通信方式はオーバーヘッドが大きくなるため、Wi-Fiの規格や機器の仕様などに記された実効レートを同じ空間内の端末の台数で割った速度よりも、さらに低い実効レートでの通信となる可能性が高い。これは信号の衝突を避けるために互いが譲り合う処理が発生すること、そしてパケット分割の際のオーバーヘッドなどによることが大きい。この傾向は通信を行う機器の台数が増えるほど高くなり、互いの干渉を避けるために実行速度はより低下することになるだろう。

だがDIDOでは、ある装置を通信の中継地点に設置することで、こうした干渉問題を避け、個々の端末がフルレートでの無線通信サービスを楽しむことが可能になるという。例えば、同じエリア内に複数の無線端末が存在するとき、個々の端末はそれぞれに別々の作業を行っており、接続する先のサーバやサービスもばらばらであることが多い。これを、無線通信のアクセスポイント(AP)とサーバの中間地点に中継サーバを設置し、すべてのインターネット通信をこの中継サーバを介して行うことで、いちどインターネット側からの通信内容をサーバに集約し、個々の干渉し合う可能性のある端末が同時に通信を受けられるよう最適化された形で再送信することで対応しようというのだ。個々の端末がバラバラにアクセスして全体の実行速度を落とすより、一度通信を集約してブロードキャスト風に最適化して再送信してしまったほうが効率が高いというわけだ。これをOnLiveばりにクラウドで提供する場合、DIDO Data Centerというところに集約サーバを置いてしまえばサービス化できてしまうというわけだ。

これは本来のWi-Fiの仕組みとは異なるため、効率を最大限に引き出すにはアクセスポイントや端末側に何らかの変更が必要になるとみられる。だがストリーミング放送の同時視聴や、OnLiveにおけるストリーミングでのゲーム配信など、一方的にストリームがインターネット側から落ちてくるタイプの通信の場合、多数の端末が同一ネットワーク内に存在しても、それほどパフォーマンスを落とさずにサービスを楽しむことができるだろう。アイデアとしては非常に面白いものだ。