オーストリアWikitudeのPhilipp Nagele氏

ナビゲーション系のアプリケーションは、スマートフォンアプリで人気カテゴリの1つ。今回、同カテゴリに興味深い新アプリが登場した。そのアプリとは、カーナビ用にAR(拡張現実)を利用したユニークなAndroidアプリ「Wikitude Drive」だ。7月19日に欧州に加え北米でローンチ、スマホアプリやカーナビ分野に新風を吹き込むかもしれない。

Wikitude Driveを開発したのは、従業員が20人以下というオーストリアのベンチャー企業、Wikitudeで、現実世界を映した画面上にオンライン百科事典のWikipediaからの情報を重ねるARブラウザ「Wikitude World Browser」の開発のため2009年に設立された。Wikitude World BrowserはiPhone/Android/BlackBerry/Symbian/Badaをサポートしている。Wikitude Driveは同社の最新のアプリとなる。

Wikitudeでパートナー担当ディレクターを務めるPhilipp Nagele氏はまず、ARの定義として、「物理的な現実環境とコンピュータが生成する仮想世界をマージした混合現実世界」とする。大切なことは、現実環境に情報が追加されるという点だ。コンセプトそのものは新しいものではないが、スマートフォンはARを実現するための技術をサポートしており、ホットなトピックとなっている。Wikitudeのアプリが必要とする技術は、GPRレシーバー、ジャイロスコープ、コンパスの3つ、とNagele氏は説明する。これらを備えたスマートフォンとWikitudeアプリにより、「スマートフォンは魔法の窓になる」とNagele氏。

ARの最大のメリットは、わかりやすさだろう。Googleローカル検索でウィーンのホテルと検索した場合と、ARを使って現実世界に情報を映した場合とでは、ユーザーの情報の受け取り方が異なる。「地図でも同じことが言える」とNagele氏。通常のナビゲーションは地図上にルートを表示するが、目の前の道路の上に情報が表示されれば、デジタル地図を利用するPND(簡易型ナビ)などの既存ナビシステムではわかりにくいというドライバーも、瞬時に把握できそうだ。もう1つのメリットが安全性だ。運転手はデジタル地図を見るのではなく、現実を映した画面を見ているので、前方から目を離すことはない。さらには、「ARナビなら運転は楽しくなる」とNagele氏は胸をはる。

Google検索(左)とARブラウザ「Wikitude World Broswer」(右)でウィーンのホテルを検索した結果

通常のカーナビ(上)とARナビの「Wikitude Drive」(下)。目の前の画像にルートを示す矢印が重ねて表示される

Wikutude Driveの利用イメージは以下の動画で確認できる。アプリ自体は、2010年12月にドイツ、オーストリア、スイスでローンチ。今年に入り、フランス、英国、イタリアなどの欧州国を追加、7月19日に米国、カナダ、メキシコ版をローンチした。価格は9.99ユーロで、Android Marketからダウンロード可能だ。今後提供地域を増やしていくが、日本市場については明らかにしなかった。


Nagele氏はARを強化していくにあたり、ソーシャル、モバイル、ローカルの3つを重視していると語る。同時に進めているのが、API「Wikitude ARchitect」の開発だ。これにより、外部開発者がWeb技術を使ってインタラクティブなARコンテンツをWikitude Drive向けに開発でき、エコシステムを構築できる。Wikitude ARchitectは、2011年夏にローンチの計画という。

「ARは位置情報サービスと地図を変える」とNagele氏、高度な技術や機能をコンパクトに収納するスマホにより、ARのマス化が加速しそうだ。