仕事をちょっと早めに切り上げて、都心の銭湯でゆっくりしてから、夜の街へと出かける──。今年の夏は、そんな節電&暑さ対策のライフスタイルが人気となるかもしれない。少なくなったとはいえ、都心にも銭湯はまだ残っている。熱い湯でひと汗流し、さっぱりしてから一杯、というのは、この上ない贅沢だ。おすすめ銭湯をいくつか紹介しよう。

江戸時代からの歴史を誇る「蛇骨湯」

浅草ふれあい通りの看板。向こうに東京スカイツリーが見える

浅草、浅草寺から徒歩約5分、裏路地に入ると「天然温泉 蛇骨(じゃこつ)湯」の看板が見える。インパクトのある名前は、「昔、この地に蛇の骨が出たから」など、銭湯ファンにはささやかれているが、真偽は定かではない。確かなのは、ここに「蛇骨長屋」があったこと。

蛇骨湯は、江戸時代からの歴史があり、あまたの著名人にも愛されてきた都内屈指の温泉として知られている。「場所柄、昔は役者さんなんかも多かったですね」。そう話す室塚志津子さんは、今年88歳。蛇骨湯とともに70年を歩んできた。

お湯は、黒褐色の天然温泉。体の芯まで温まり、湯冷めしにくいのが特徴だ。1年半前に改修工事を終えたばかりで、脱衣場などは真新しい。

午後1時オープンなので、浅草観光のついでに寄ってみるのもいい。すっきりとしてから、神谷バー名物「電気ブラン」を味わうというのは、浅草ならではの楽しみ方。

入口はバリアフリーとなっている

ゆったりとした広さの脱衣所。マッサージチェアもある

入浴料のほかに200円の利用券を購入すれば、サウナにも入ることができる

露天風呂や水風呂も用意されている

浅草の歴史を蛇骨湯とともに見てきた室塚さん。とってもお元気

昭和はじめ頃の蛇骨湯の写真。フロントの前に飾られている

蛇骨湯
住所:台東区浅草1-11-11
営業時間:13時~24時(23時40分浴室退室)
休業日:火曜日(祭日の場合は営業)

タイル画は銀座の景色「銀座湯」

ホテル西洋銀座の裏手、高速道路のすぐ脇にある「銀座湯」は、銀座の真ん中に残っている2つの銭湯のうちのひとつ。さりげない佇まいなので、見過ごしてしまわないように。

高速道路のすぐそばに銀座湯の建物は建っている

この銭湯がユニークなのは、男湯が2階にあること。入口からフロント横を通り階段を上がっていくと、白を基調としたシンプルな脱衣場があらわれる。

そして、さらに「銀座湯」ならではの光景が……。タイル画が定番の富士山ではなく、銀座の街、和光ビルの眺めなのである。これは「銀座湯」オープン当時から変わっていない。これを目当てにやって来るという客もいるらしいが、その気持ちもよくわかる。壁の絵が違うだけで、こんなにも雰囲気は変わるものなのだ。

銀座でおしゃれに(?)飲むのなら、湯に浸かりながら銀座気分が満喫できる「銀座湯」でひと汗流していくのが、やはりオススメ。

入口を入ると、男湯へ続く階段が目の前に

客は地元の住民の方々のほかに、やはりサラリーマン層が多い

この銭湯ならではの、洒落た雰囲気が楽しめるタイル画

懐かしいタイプの体重計も置かれていた

銀座湯
住所:中央区銀座1-12-2
営業時間:15時~23時
休業日:日曜日、祝日

嵐の二宮和也も入った「熱海湯」

神楽坂の路地裏、昔のままの風情が漂う「熱海湯」は、中も時間が止まったかのような世界。「これぞまさに銭湯」と誰もが納得するはずだ。1954(昭和29)年に建てられた建物は、さまざまな映画やドラマ、CMなどの舞台として使われてきた。

堂々とした屋根の構えが見事。細い路地を歩いていると、突然、目に飛び込んでくる

最近では、2007年1月から3月にかけてフジテレビで放映された『拝啓、父上様』。主役を務めた嵐の二宮和也もここでロケを行った。「昔は、芸者さんが来てにぎわっていたものですよ」とご主人。神楽坂の古き良き時代がよみがえってくる話だ。

また、この界隈にはフランス人が多く、しばしばやって来るという。マナーはとてもいいそうだ。「いろいろな人たちが集まって、知り合いになるのも銭湯ならではだね」。もともと銭湯は社交の場でもある。それは今も変わらない。ふれあいの場としての銭湯の魅力にも触れてほしい。

入口の靴箱から懐かしい世界へと誘ってくれる

「昭和」の空気が漂う脱衣所。飾り立てることのない「普通さ」がうれしい

ロケによく使われたというのも納得できる銭湯の定番といった浴場

脱衣所からは金魚が泳ぐ小さな庭も見える。湯上り後もゆっくりと過ごしたくなる場所だ

熱海湯
住所:新宿区神楽坂3-62
営業時間:15時~24時30分
休業日:土曜日

銭湯情報は東京都浴場組合のサイトで

銭湯を探すにはどうすればいいか。手っ取り早いのは、東京都浴場組合(東京都公衆浴場業生活衛生同業組合)のサイトでチェックすることだろう。

地図上で銭湯の場所が確認できるだけではなく、銭湯に関するさまざまな情報も知ることができる。偶数月刊行の情報誌『1010』についても紹介されているので、よりディープな銭湯ライフを目指すこともできる。

なお、銭湯にあまり馴染みがないという人は、別途、銭湯のマナーなどについての記事も参照していただきたい。

『美の壺 銭湯』(NHK出版)によれば、関東大震災後、新しい銭湯がつくられ、その周囲に住宅が建てられ、町が形成されていったという。敗戦後も、銭湯は人々の心のよりどころだった。今回の震災でも、お湯に浸かることがどれほど大切なことなのか、被災地にいなくても知ることができた。

銭湯は、いつも日本人を支え続けてきたのである。