とんでもない映画がオランダからやってきた。

これまでに数多くのキワモノ映画を見てきたが、間違いなくその中でもトップクラスに狂った映画である。とはいえ発想の源が狂っているだけで、ホラー映画としてはむしろかなりしっかりとした作りになっているだけに、また何とも言えない気持ちにさせられてしまうのだ。うぐぐ……。

『ムカデ人間』

『ムカデ人間』――それが超問題作である本作のタイトルだ。

勘の鋭い方ならこのタイトルだけでピンとくるかもしれない。「なんか、ヤバいぞ」という危機感が働くかもしれない。それは幸運なことである。

しかし当然、タイトルからは特に何も感じなかった方もいるだろう。というかそっちが多数派かもしれない。本記事では、そんな純真なあなたのために、「ムカデ人間」がどうヤバいのかということをつぶさに解説していこうと思う。くれぐれもご飯時には読まないことをおすすめする。

それにしても商業原稿でのレビューというと、普通は面白いところや見所なんかを紹介しつつ「オススメですよ!」みたいな締め方をするのがまあ定番流れだろうと思うが、今回に限ってはさすがに"良かった探し"を放棄するしかない。この映画を見たせいで、僕は今年見た他の映画の内容が何本か脳みそから吹っ飛んでしまった。もうほんと、勘弁していただきたいものである。

博士の異常な妄想……?

さて、『ムカデ人間』は、一言でいうなら狂気にとらわれたマッドサイエンティストの物語だ。主人公はヨーゼフ・ハイター博士。予告編ではあろうことか、ホラー・サスペンス映画を代表する名キャラクターを引き合いに出し、「レザーフェイス、ハンニバル・レクター、ジグソウ……そしてヨーゼフ・ハイター博士」みたいな感じに、まるで彼らとハイター博士が同列であるかのような雰囲気でしれっと並べている。

ヨーゼフ・ハイター博士

さすがにこれには笑ってしまったが、しかし確かにヨーゼフ・ハイター博士は、彼らと同列どころか、大きくリードしたと言えるかもしれない。……もっともそれは、彼らとはぜんぜん別の次元に向かって突き抜けてしまった、という意味でだが。

物語の舞台となるのはドイツ郊外。ニューヨークからやってきた二人の美しい女性、リンジーとジェニーはレンタカーを借りてドライブ旅行を楽しんでいたが、途中で道に迷い、しかも運悪くタイヤがパンクして立ち往生してしまう。

博士の家に迷い込んだ2人の美女の運命は……?

仕方なく車を降りて当てもなく歩き出した二人は、森の中で一軒の大きな家にたどり着く。その家こそ、かつてシャム双生児の分離手術のエキスパートとして知られた外科医、ヨーゼフ・ハイター博士の邸宅だった。

ハイター博士はリンジーとジェニーに睡眠薬を使って拘束し、さらにその後、日本人男性のカツローを拉致してくる。そして自らの野望を語るのだが、その内容が凄まじい。

ムカデ人間の設計図……その酷さは想像できるだろう

「ムカデ人間を作りたい」というのだ。

ムカデ人間とは、3人の人間を四つん這いにして並べ、先頭の肛門と2番目の口を縫い付け、さらに2番目の肛門と3番目の口を縫い付けて、3人を一つにつなげた状態のこと。こうすることで、先頭が食べた食物が排泄物となって2番目の体内に自動的に入り、それがさらに排泄物となって3番目の体内へと入っていくというわけだ。

……書いてるだけで気持ち悪くなってきた。

日本人俳優が出演!

ということでここから先は映画館でご覧いただければと思うのだが、ちょっと面白いのは拉致されてきた日本人男性の存在だ。まさか日本人が出てくるとは思わなかったので、最初は彼の流暢な関西弁がアテレコなのかと思ったが、もちろんそんなことはない。単に日本人が日本語で喋っているだけである。

そんな気になる彼の正体は、ハリウッドでも俳優として活躍する映画監督の北村昭博氏。この映画のキーパーソンは間違いなく彼であり、ムカデ人間の"先頭役"として最後まで非常に良い演技を見せてくれる。特にムカデ人間と化した後、後ろにいるジェニーに排泄物を送り込む際の謝罪のシーンは本作のハイライト! 日本人ヤクザの"アレ"を金髪美女が死にそうな表情で食すという、おそらく今後の人生でそうは見る機会のないレアな疑似体験ができるチャンスである。おえっぷ。

北村昭博の演技には注目してみよう

それにしても、冒頭にも書いた通り、カルトなコンセプトとは裏腹に映画としての筋は意外なほどきっちり作られている。オランダの映画ではあるが、ハリウッドを彷彿とさせる脚本術でストーリーが構成されているため、日本人にも馴染みはいいだろう。ともすればネタとして消費されるだけになりがちなこのタイプの映画で、これだけ骨組みがちゃんとしているというのは好印象である。

ただし、本作での一番のツッコミどころは、これが3部作の第1弾であり、「さらに多くの人間が繋がれるというシリーズ第2作『The Human Centipede II (Full Sequence)』もすでに製作が開始されている」(公式サイトより)というところだろう。いったいどこにそれだけの需要と情熱を見出したのか、何がそこまで監督を突き動かすのか。もし会う機会があれば全力で問いかけたい。

……でもまた何だかんだで「気持ち悪い」って言いながら見ちゃうんだろうな。悔しいっ。

映画『ムカデ人間』は7月2日より、どういうわけか東京・渋谷のシネクイントで公開中だ。