講談社は14日、電子書籍初の「作家個人全集」となる『五木寛之ノベリスク』の7月配信スタートに先駆けて、野間省伸社長と五木寛之氏による発表記者会見を開催した。
『五木寛之ノベリスク』は五木氏の著作を電子化して定期的に刊行するプロジェクト。iPhone、iPad向けにはApp Storeでダウンロードできる無料のビューワアプリ内で配信し、その他PC、アンドロイド端末にも各電子書店を通じて対応する。第1期配信作品は『青春の門』や『親鸞』などの長編と、『さらばモスクワ愚連隊』をはじめとした短編あわせて32タイトル。
登壇した五木氏はまず、「最初はこんなにたくさんの方がお見えになるとは思わなくて……東電の記者会見みたいですね」と笑いを取って場を沸かせた。「電子書籍には興味もあり、批判もある」という氏は非常に早い段階から電子書籍に興味を持っていたという。期待する点として、以下のように語った。
「Kindleなどの電子書籍リーダーは文字を拡大して読める。これが高齢者にはありがたいんですね。また、ひと月のうち、10日から20日は旅をしているため出先で原稿を書くことが多い。そこで必要になる膨大な参考書を1つのデバイスに詰め込んで持ち歩けると聞いたときは是非やりたい! と思いました。そして、読者に読んでもらいたい作品がどんどん絶版になっており、今書店に並んでいるのは全作品の2%ぐらい。地上から愛着のあるマイナーな作品が消えていくのがいちばん辛いんです。でも電子書籍になれば、そういった作品も読んでいただけるのではないかと。これが電子書籍に期待する最大のポイントですね」。
しかし、電子書籍の現状は氏を満足させるものではないようだ。
天地の余白など、デザインに注文をつけても「規格」が決められており自由に出来ない点に触れ、「今はメカニズム、エンジニアリングが優先され、エンジニアがアートを作る時代に入ってきている」と苦言を呈した。スティーブ・ジョブスの発言を例に取り、「本当はアイデアの時代。最後は企画力なんです」と断言し、メカニックの知識のない人文系物書きとしてテクノロジー産業に参加していきたいと意欲を見せた。
また、電子書籍のはらむ問題点として、「電子書籍を読む人たちは基本的にタダを期待しているんじゃないかと思いますね」と切り込んだ。「その中にビジネスを持ち込むのがどれだけ難しいことかとずっと考えています。今回、講談社が差し出してくれた器の上に乗っかるというのは光栄でもありますが、ある意味では捨て石になるような気持ちでもあるわけです(笑)」と語り、これには野間社長も苦笑いだった。
『五木寛之ノベリスク』では『青春の門』1冊が350円、『親鸞』上下巻それぞれ1,200円、短編および短編3作を1セットとした短編集が115円という価格に設定されている。6月末にアップルへアプリケーションを申請し、審査を通過次第、配信を開始する。App Storeでの配信に合わせ、ほぼすべてのスマートフォン、PC向けの電子書店でも発売される。