2011年5月7日より全国ロードショーとなった新海誠監督の最新作『星を追う子ども』だが、6月9日(木)には、東京・池袋のシネマサンシャイン池袋において、「星を追う子どもスペシャルナイト Vol.2 『星を追う子ども』を語る」が開催された。
6月2日に行われた「Vol.1」に続く今回は、ゲストにニッポン放送アナウンサーである吉田尚記氏を迎えてのイベント。「日本で一番アニメが好きなアナウンサー」と新海監督に紹介され、少々照れ笑いの吉田アナだったが、その言葉を証明するかのように、ディープな視点から『星を追う子ども』について感じたことを新海監督にぶつけていく。
吉田アナの「ラピュタは好きですか?」という質問からスタートした今回のイベント。『星を追う子ども』の試写を見たときに、吉田アナは「ジブリ以上にジブリだ」という感想を真っ先にツイートしたという。そしてここから新海監督と吉田アナによる熱いジブリ論が展開される。
ジブリ作品は、「正しいことが描かれている」という新海監督だが、「強い意志を持った少年少女、温かい共同体、人との絆といった、観念の中にしかない本当のことが描かれているからこそ、僕たちはそれを見たときに、あんな風になりたいという気持ちを強く持てる」と語りつつ、「しかし、そのメッセージは、『少年少女はまっすぐな強い意志を持っていなければならない、人と人は強い絆で繋がっていなければならない、温かい共同体に所属しなければならない』といった風に反転しうる」とし、「それはキツい人にはキツいのではないか」と続ける。そして、「ジブリ的な入りやすさがあったうえで、少しジブリとは違うメッセージを届けられる作品を作りたいという気持ちから、『星を追う子ども』を作った」と説明する。
さらに、最近のアニメ作品も好きだと前置きしつつ、「今のアニメは、すごく複雑なメッセージ、マイノリティの人間にとっても力強いメッセージを伝えてくれているのですが、それは文脈がわかっていないとわからないことが多い。たとえば、魔法少女とはどういうもので、それはジャンルムービーだから、こういうスタイルのアニメなんだよとか、そういうことを知らないと見られない作品が多く、本当の素人の人には敷居が高い」と言及する。「最先端のアニメにも豊かなメッセージはあるけれど、敷居が高くてなかなか入っていけない。しかし、入り込んでいかないとメッセージを受け取ることができない」といった視点から、今回の『星を追う子ども』では、「一番普遍性を獲得していて、誰にとっても抵抗のない絵柄」を選択したと語る。
また、吉田アナが新海作品における「空」の描写を絶賛すると、「空には思い入れがあって、唯一、僕が自信を持って見てほしいと言えるところ」と胸を張る新海監督。「夕日といえば赤いだけじゃない。青空が残っていて、だんだん夕日になっていくわけだし、どこまでも微分していくことができないグラデーションがあるわけですよ、時間帯の移り変わりには。日が沈んだ直後は、夜なのか、昼間なのか。今回の作品は太陽の位置がどこにあるのかを常に意識して描いています。山の向こう側に隠れた直後なのか、隠れてどれくらい経ったのか……。時間帯の感覚、朝の感覚、昼の感覚、季節の感覚。そういったものを映像の中で感じていただきたいです」。
そして最後に吉田アナから問いかけられた「次はどんなものを作るのですか?」という質問に、新海監督は次のように語ってイベントを締めくくった。
新海監督 明確なアイデアはないのですが、何か今いるところから思い切って、強い意志で外に飛び出すという話を作りたいと思うんですね。どんなに美しい郷土があって、共同体があったとしても、その場所にいられなくなってしまうことってあるじゃないですか。若いときは、どんなにいい場所であってもそこから飛び出したいという気持ちがある。でも僕みたいに年をとってくると、なかなかそういう気持ちはなくなってきて、居心地のいい場所に居続けてしまうのですが、年をとってからでも、そこから出なければいけない状況を肯定的に描く、故郷を捨てることを肯定的に描くような作品を次は作りたいなとぼんやり思っています。
『星を追う子ども』のモリサキは『秒速5センチメートル』で初恋を手に入れることができた「貴樹」だと思って見ていただけると、いかに強い愛があって、だからこそああいった行動に出たかが見えてくるのではないか、という新海監督のコメントに吉田アナも大きく頷く |
今回第2回目を迎えた「星を追う子どもスペシャルナイト」だが、次週6月16日(木)には第3回が開催される予定となっている。次回は、大妻女子大学教授で「深読み映画論」の著者である大野真氏を迎えてのスペシャルナイト。参加方法などの詳細は公式サイトをチェックしてほしい。
イベント名 | 星を追う子どもスペシャルナイト Vol.3『星を追う子ども』を読む |
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日程 | 2011年6月16日 (木) |
時間 | 20時10分の回上映終了後 |
場所 | シネマサンシャイン池袋 |
ゲスト | 大野真 (大妻女子大学教授 /「深読み映画論」著者) |
内容 | 監督×ゲストを招いてのティーチイン |
※日時などの詳細は変更になる場合があるので、必ず公式サイトでの発表をご確認ください |