実は激動の1年だった

今年、COMPUTEXでは、Android 3.0(Honeycomb)を搭載するタブレットが数多く展示されている。多くは昨年のCOMPUTEXの時点で発表されたもの。今、昨年から今年のCOMPUTEXまでを振り返ると、実は大きな変動がおきていたことがわかる。

今年のCOMPUTEXでは、Honeycombを搭載するタブレットが数多く展示されていた

そもそもの始まりは、Netbookである。インテルのAtomプロセッサを使ったNetbookは、2008年から世界的なブームを巻き起こした。低価格のノートPCは、これまでPCを共有していた人たちに個人が占有するPCを提供した。

こうした動きに対して、昨年1月にApple社はiPadを発表した。低価格のNetbookに対抗するApple社の回答というわけだ。また、同じ1月に、Android陣営は、改善されたAndroid 2.0を発表し、Google社自身がNexus oneというスマートフォンの販売に踏み切った。ここにきて、Androidは、第2世代となり、iPhoneに肩を並べるようになる。

「iPad」を発表するApple社のSteve Jobs氏

また、マイクロソフトも2010年1月のCESで、タブレットコンピュータであるSlate PCの構想を披露した。この時点で、PCメーカーを含め、多くの企業がタブレットに注目し始める。

その後2月のMobile World Congressでは、Intel社はNokia社と組んでそれまでMobilinと呼ばれていたLinuxベースのOSをMeeGoとした。NOKIAは、このMeeGoを使ってスマートフォンの開発に乗り出すとしていた。インテルは、このとき、Atomに2つの方向を持たせていた。消費電力は大きいものの、安価なNetbook用のものと、スマートフォン用のものである。Netbookがあまりに流行ったためか、低消費電力のPC/MID向けとしていたMenlowに関しては、あまり力をいれることができなかった。

2010年の3月にiPadの出荷が始まると、その評判に各社が注目した。また、Googleは、昨年4月頃、タブレット用のAndroidを開発中と報道される。これで、PC系メーカーも一気にタブレットへと傾いてく。

ところが、この動きは、インテルの戦略と一致しなかった。当時もNetbookはブームが続いており、Atomの生産が続いていたが、限られた能力をスマートフォン向けのMoorestownへと注いだのである。Moorstownは、Atomではあるが、スマートフォン向けに限定され、当初は、Windowsのサポートはおこなわない方針だった。おそらく、携帯電話メーカー向けと、PCメーカー向けの製品を明確に分けるのが目的だったと思われる。しかし、このために、マイクロソフトのいうスレートPC、タブレットPCに利用できるデバイスは、Atomの第一世代であるZ500シリーズに限られていた。

PCメーカーは、タブレットに関しては、WindowsもAndroidもという二股戦略に出た。スマートフォンの状況を考えると、Androidは無視できないし、iPhoneは、互換機を製造することもできない。しかし、Windowsでは、スマートフォンにはシステムが大きすぎる。また、Windows 7でタッチに対応したとはいえ、タブレットで利用できるようなユーザーインターフェースとも言い難い。

しかし、PCメーカーは、得意とするWindowsをやらないわけにもいかない。また、企業などでは、アプリケーションの問題からWindowsを指定される可能性もあった。

また、ここにきて、ARM系のプロセッサの性能向上は著しかった。ARM社のCortex-A8では、インオーダー構造ながら、複数の演算器を並列に動作させるスーパースケーラーを取り込む。さらに後継のA9では、アウトオブオーダーを取り込んだ。

そのほか、携帯電話のチップセットで著名なQualcomm社の独自アーキテクチャ(ソフトウェアはARM互換)であるScopionコアを使うSanpdragonは、2010年には、多くのスマートフォンに採用された。1GHzという高いクロックのSanpdragonは、ある意味スマートフォンの性能を押し上げる役割を果たした。

スマートフォンが高性能になると、タブレットという期待も増える。そういうわけで、PCメーカーもAndroidのタブレットにも大きくリソースをさくことにした。

Androidでは、各バージョンの開発に特定のメーカー1社が参画する。メーカーを選ぶ理由は、お金なのか、コネなのかはわからないが、少なくとも、Androidの最新バージョンを最初に発売するメーカーは1社に決まっており、Android 2.0以降は、モトローラがその地位にある。Android 3.0もモトローラが第一のメーカーになっていた。

このような仕組みだと、最初のメーカーが採用するプラットフォームに合わせることで、その他のメーカーは自社ハードウェアへの移植が簡単になる。そして、モトローラがタブレット用に選択したプロセッサがNVIDIAのTegraだったのである。

そこで、各社ともTegraの採用を決めた。自社でCortexプロセッサを開発できるSamsungまでもが最初のHoneycombタブレットにTegraを採用したぐらいである。

もう1つの動きは、MicrosoftのWindows Mobileだ。もともとWindows CEと呼ばれるOSをベースにしていたWindows Mobileは、開発方針や体制の失敗もあって、シェアを大きく失っていた。それをカバーするためにマイクロソフトが用意したのがWindows Phone 7である。

Windows CEは、複数のプロセッサアーキテクチャに対応可能で、もちろん、x86系でも動作する。しかし、マイクロソフトは、Windows Phone 7を短期間で開発、製造するために、ハードウェアスペックを固定し、それをターゲットにソフトウェア開発をおこなった。このときに選択されたプロセッサが、QualcommのSnapdragonである。

TegraやSanpdragonなどのプロセッサは、周辺回路を含む「SoC」、System on a Chipであり、集積しているグラフィックスや周辺回路、I/Oの割り付けなどが違っている。I/Oの基本的な割り当てや用途が決まっているPCとは違って、システムの最適化は、どのSoCプロセッサを使うのかによって違ってくる。そういうわけで、HoneycombタブレットやWP7マシンでは、特定のプロセッサへの集中が起こった。

2011年、1月のCESでは、マイクロソフトが、次期WindowsをARMプロセッサにも対応させるという発表を行う。これまで、x86のみだったWindows(厳密にはNTの初期にRISCプロセッサに対応したことがある)が、他のプロセッサアーキテクチャでも動作することになった。

CES 2011にて。Microsoft社のCEO、Steve Ballmer氏が次世代Windowsについて、ARMを含むSoCへのサポート拡大を発表

Cortex-A9とAtomプロセッサ(Bonnelコア)は、ドライストーンベンチマークなどをみると、クロック周波数あたりの性能がほぼ同等。ただし、Atomのほうが最高クロック周波数が高く、実際の製品としては高速である。しかし、A9では、標準設計で4コアまでのマルチコア化が可能だ。さらに、クロックあたりの性能を高めたA15もすでに開発が始まっている。そういうわけで、ARMでWindowsを実行することはむずかしくないのである。

また、2月になると、今度は、昨年MeeGoでインテルと提携したNOKIAが、マイクロソフトと組んで、Windows Phone 7でスマートフォンを開発するとの発表を行う。ここに来て、業界全体が、ARMへと動き出したわけだ。

インテルも、何もしなかったわけではない。Moorestownへの行き過ぎに気がついたのか、ZシリーズをWindowsタブレット向けなどに使う「Ork Trail」プラットフォームを今年4月のIDFで発表。さらに後継のCloverTrailを来年出荷する予定だ。

COMPUTEX期間中にマイクロソフトは、次期Windowsの操作環境について発表を行い、従来のGUIだけでなく、マウスを使わないタブレット用のユーザーインターフェースが組み込まれることを発表した。これにより、タブレットという形のコンピュータは、ある程度定着することになりそうだ。

今年のCOMPUTEXで発表のあった、Windows 8で採用されるタイルベースのスタート画面

今回のComputexでは、メーカーブースには、ノートPCに加え、x86系のWindowsタブレット、ARM系のAndroidタブレットが同居してるのを多く目にする。また、インテルブースでは、Windows 7、MeeGo、AndroidそしてChromeOSなどがAtomを使ったタブレットで動作していた。しかし、現状からみると、Windows 8とAndroid(そしてiOS)が2012年のメインストリームだろう。ChromeやMeeGoは、採用するメーカーもあるだろうが、現状では、多くのユーザーが選択する「理由」を持たないからだ。

タブレット・コンピュータは、先行するApple/iPadを、Android/Googleが追いかけ、さらにWindowsが来年これに続こうとしている。しかし、ハードウェアはARM系とx86系(期間中にAMDもタブレット用のZ-01を発表した)が競合状態にある。タブレットやスマートフォンでは、CPUが高性能であることも必要だが、バッテリ駆動時間なども重視される。こうしたとき、メディアプロセッサなどで、音楽、動画処理を行い、全体の消費電力を下げるという手法が使われる。つまり、SoCとして高性能であることが必要で、それは、単にCPUの性能だけではないのである。QualcommやNVIDIAといったメーカーが存在感を増しているのも、このようにSoCとしての強みが評価されたのだと思われる。

インテルは、明確に言わないがAtomプロセッサは、ARM対抗のプロセッサである。しかし、その投入は、結果的には、ARM陣営の拡大という結果になった。ARM版のWindowsが出荷されれば、タブレット以外にもノートPCのようなクラムシェル型も登場することになる。そうなると、ネットブック対抗として2009年にQualcommの提唱したSmartbookも現実を帯びてくる。

サーバーやデスクトップ、そしてノートPCでインテルは大きなシェアを持っているものの、タブレットという分野では、1プレーヤーに過ぎない。そのインテルがどう巻き返すのか、そして他社はどう対応するのか、このあたりが、来年のComputexまでの「見所」である。

2010からCOMPUTEX 2011までのタブレットを巡る動き

2010/01 アップルiPad発表
Android 2.0(Nexus one)
2010/02 Intel/NokiaでMeeGo
WP7発表
2010/03 アップルiPad出荷
2010/04 タブレット用Android開発中との報道(NewYorkTimes)
2010/06 COMPUTEX 2010で台湾メーカー各社タブレット発表
2010/10 WP7出荷
2011/01 Honycombデモ
W8のARM対応発表
2011/02 Google Honeycomb正式発表
2011/02 Nokia WP7へシフト
2011/03 アップルiPad2発表/出荷
2011/04 モトローラXoom出荷
2011/05 Android 3.1/2.3.1発表
マイクロソフト次世代WP7 mango発表
2011/06 Windows 8がタブレット用UIを持つことが発表される