パソコンに熱は大敵だ。いわんや、夏は目の前である。一方で、パソコンを冷却する内部ファン等は、基本的には機械部品であるので、経年による多少の劣化は避けられないし、最近のパソコンは、高性能化・高機能化にともなってシビアな熱設計がなされている例も見られる。

これがデスクトップPCであれば、自らの手で冷却ファンを交換したり、改良したりする余地も残されるだろう。しかし、これがノートPCとなると、本体"内部"にまで手を入れるのは、上級者であってもハードルが高い。そこで目を付けたのが、タオエンタープライズが取り扱うノートPCクーラー「FIT NB-FT1」である。今回は、その実力を試してみたいと思う。

ノートPCクーラー「FIT NB-FT1」

そもそも、パソコン内部の熱を抑制することには、非常に大きな意味がある。読者の中にも、暑い環境で使っていて、熱でパソコンがハングアップしてしまった経験をお持ちの方もおられることだろう。ノートPCであれば、常に手が触れるパームレスト部が高温状態になっていると、単純に不快だという問題もある。

また、パソコン内部の電子部品、特にコンデンサなどは、寿命が温度環境に左右されるのはご存知のとおり、低温であればもちろん寿命が長くなる。細かなところで言うと、パソコンの頭脳であるCPUは、センサーで発熱を常時監視しており、熱暴走を起こさないよう、高熱時には動作速度を落とす機能が備わっている。つまり、場合にもよるが、内部の温度上昇を抑えることは、そのまま、パソコンの性能自体を向上させる結果に繋がることも期待できるのだ。

そこで、今回紹介する「FIT」である。ノートPCクーラーと言えば、一般的にはノートPCを乗せて使う大型のスタンドタイプのものを想像されるだろう。FITはと言うと、一見マウスのようなコンパクトな製品となっており、ボディの中にはブロアーファン×1基を内蔵している。FITは、その本体をノートPCの排気口付近に設置し、PC内部から熱を吸い出すタイプのノートPCクーラーとなっている。

設置は非常に簡単。ノートPCの排気口にFITの吸気口をあわせて置くだけ。小さいのでオフィスで使っていても変な目で見られない!?

最大の利点は見た目のとおり、簡単に持ち運べる、ということだろう。ポケットに入れてもかばんに入れても邪魔にならない。給電もPCのUSBポートからなので、モバイル性の高さは際立ったものだ。またその設置方法から、スタンドタイプのものがノートPCのサイズにあわせてサイズを選択しなければならないのに比べ、ノートPCのサイズを問わず、これ一台で様々なタイプのノートPCで利用可能というのも特徴だ。

本体サイズは非常に小さい55×85.3×25mmで、重量も60.5gと軽い。ノートPCクーラーだが、小型マウスと見間違えるかも

こちらは付属品。内容は、USB給電用のコードと、FITの吸気口の形状を調整するゴム製アタッチメントが3種類、それら全てとFIT本体をまとめて収納できるポーチ

FITの吸気口の形状を調整するゴム製アタッチメントは、こんな風にFITに装着して利用する。ノートPCのサイドに傾斜があるような場合などは、これで隙間をカバーできる

本体下部に折りたたまれた"足"で、角度や高さの調整もできる。様々なノートPCに対応できる秘密がこれだ

実際に高さと角度を付けてみた場合はこんな感じ。前述のアタッチメントをあわせて使えば、だいぶ大型のノートPCであっても対応できるだろう

なお、この"足"。写真のようにノートPC側に開いて、ノートPCを乗せてしまえば、設置時の安定性向上にもなる

対して心配になるのは、その冷却性能である。小型であるだけに、冷却能力が十分では無いのではないかという危惧がある。仕組みとしては、スタンドタイプの多くのノートPCクーラーと異なり、ノートPCの排気口からダイレクトに吸引するため、冷却効率が高いとされている。また、テレビ番組で暑い夏を乗り切るオススメのPC周辺機器として紹介された実績もあるそうだ。

どうやら冷却能力も問題なさそうな雰囲気であるが、やはり、百聞は一見に如かず。実際に自分で試してみないことには……ということで、「FIT NB-FT1」のパッケージ製品を一台入手。特別な機材や環境などは用意せず、筆者が日々働いているオフィス(震災に関連する節電運動のためエアコン停止中/室温24度)内で、筆者が普段使っているノートPCを使って、ありのままのFITの実力検証を行ってみた。

FITにはブロアーファンが1基内蔵されている。カタログスペックでは、定格速度が3,500(±15%)RPMで、騒音レベルが25dBA以下となるが、その実力は如何に

用意したノートPCは、Core 2 Duo T5500を搭載する「ThinkPad X60」と、Core i5-520Mを搭載する「ThinkPad T410s」の2台。前者は2006年購入の12.1型モバイルノートで、後者は2010年購入の14.1型パフォーマンスノートだ。ともに、熱設計が優秀なCPUを搭載しているだけでなく、内部の冷却機構にこだわりを持っているメーカーの製品なので、その上で、FITがどの程度の効果が出せるのかは楽しみなところだろう。

Core 2 Duo T5500を搭載する「ThinkPad X60」(左)と、Core i5-520Mを搭載する「ThinkPad T410s」(右)の2台を用意

さて、それぞれ動作時の温度を測定することで冷却性能を見ていくわけだが、今回は、ベンチマークソフトの「3DMark 06」を実行中の、BIOS読みによるCPUなどの温度測定と、非接触温度計を利用した外側からの各所の温度測定を試みている。なお、T410sの方は、購入時のカスタマイズにて、大きな発熱源となってしまうHDDでは無く、低発熱なSSDを搭載し、その代わりではないが、ディスクリートのGPUとしてNVIDIA NVS 3100Mを搭載している。

一般的なモニタリングソフトを利用したBIOS読み測定のほか、写真の非接触温度計で外部温度を測定した

まずはThinkPad X60で測定した結果からご紹介したい。非接触温度計による測定ポイントは以下の写真に示す。結果はその下の表組みにまとめているが、写真内/表組み内のそれぞれの数字が、測定ポイントとその結果に対応している。なお、測定ポイントのうち(5)のポイントについては、FIT装着時はFITの排気口のプラスチック素材部分の温度を、FIT非装着時はヒートシンクを覆っているスリットのプラスチック素材部分の温度を測定したものだ。

非接触温度計による測定ポイント

FIT非装着 FIT装着
非接触温度計(1) 36度 33度
非接触温度計(2) 34度 32度
非接触温度計(3) 34度 31度
非接触温度計(4) 38度 36度
非接触温度計(5) 45度 40度
BIOS読みCPU温度 73度 69度

続いてはThinkPad T410sで測定した結果だ。先ほどのX60と比べると、内部パーツのレイアウトや構成が異なることから、熱源の位置や数も異なり、温度の高い部分と低い部分の傾向にやや違いがあるが、測定の方法はX60の時と同様になっている。また、ディスクリートGPU搭載モデルのため、こちらでは、そのBIOS読み温度の測定も追加している。

非接触温度計による測定ポイント

FIT非装着 FIT装着
非接触温度計(1) 34度 33度
非接触温度計(2) 33度 31度
非接触温度計(3) 34度 31度
非接触温度計(4) 29度 29度
非接触温度計(5) 50度 42度
BIOS読みCPU温度 90度 83度
BIOS読みGPU温度 78度 69度

さて、結果をまとめてみると、特にCPU温度やGPU温度では、思っていた以上にFIT NB-FT1の効果が実感できる結果が出ていることがわかる。さらにCPU/GPU温度では、上記の測定結果では示していなかったが、ベンチマークソフトの動作を停止させ、負荷の低い状態に移行した際の、温度の下がり方の速度もFIT NB-FT1装着時の方が早いという効果を体感することができた。きょう体各部の温度を非接触温度計で測定した結果でも、それぞれ、およそ2度前後の温度低下が実現している。体感で2度というのは、特に長時間のノートPCの利用時には無視できない数字だろう。

これから夏を迎えれば室温はどんどん上がっていくだろうし、また、今回は割と新しい世代のノートPCで試しているが、これが冷却機構の経年劣化が進んだ古いノートPCであったりすれば、FIT NB-FT1の価値はさらに高まることだろう。ノートPCクーラーの冷却能力に興味を持ったものの、大きさや使い勝手に二の足を踏んでいたようなユーザーには、最適な製品と言えよう。

■参考: FIT販売店舗
タオダイレクト(直販)
amazon.co.jp
ヤマダ電機各店
ツクモ各店
ビックカメラ各店
ヨドバシカメラ各店
PC DEPOT各店
エイデン(コンプマート)各店