田中杏奈さん(※5月13日撮影)

東京・銀座に昨年5月オープンしたヤマト運輸の「銀座紺屋橋センター」。黒を基調にしたスタイリッシュな造りの店舗では、荷物の集配受付のほか、携帯電話充電や道案内などのサービスも提供している。この新形態の店舗でパート社員として働いているのが田中杏奈さん(26)。外国人の利用者に得意の英語で対応。観光客に英語で道案内することも多い。「実践あるのみ」とふだんから積極的に英語を使うことで「使える英語」を身につけてきたという。

英語で広がったつながり

田中さんは専門学校で歯科技工士の資格を取っている。学生としてドイツでセミナーに参加、ドイツ人の学者に片言の英語で質問し答えてもらった。「通じるって楽しい」。もっといろんな国でいろんな人と話がしてみたい―。19歳で英語に"目覚めた"。その後は歯科材料関係の会社に就職。英会話スクールに通い、海外旅行にもよく出かけるようになった。

旅行先はアメリカやオーストラリアといった英語圏が多い。旅先では友だちを"現地調達"。オーストラリアで韓国人の友だちと仲良くなり、その友だちに呼ばれて韓国を旅行したこともある。つながりはどんどん広がった。いろんな文化、いろんな考え方に触れることがとにかく楽しかった。自分の世界が広がっていく感覚もたまらない―。間違いを気にせずどんどん英語を話しているうちに、自然に外国人の友人が増え、気がつくと日常会話には困らなくなっていた。

歯科材料関係の会社は2年半ほど勤めた後、体調を崩したこともあって退職。街でスカウトされたのをきっかけにモデルの仕事などをしながら、英語の勉強を続けた。そして昨年春、ふと目にしたのが「銀座紺屋橋センター」のスタッフ募集広告。この仕事なら英語のスキルを生かせるかもしれない。これまでになかった新しいタイプの店。その立ち上がりから関われる点も魅力だった。

パーフェクトじゃないからこそ丁寧な言い方を

接客する田中さん(※5月13日撮影)

「銀座紺屋橋センター」の台車には英語・韓国語・中国語で「銀座の街をご案内します」と書かれている。「銀座という街に貢献する取り組みです」と教えてくれたのは、ヤマト運輸東東京主管支店生産性向上推進専任者の大橋猛史課長。同センターで働くスタッフは、通常の集荷・配達・営業活動以外に、「銀座の街への地域貢献活動」を行う「プレミアムキャスト」と呼ばれ、特別講習を受けている。道案内やゴミ拾いも積極的に行う。英語、韓国語、中国語で対応できるスタッフもいる。

田中さんの担当は店の受付業務。日常会話には自信があった田中さんだが、仕事で英語を使うのは初めてだ。「pickup(集荷)」「perishable(生もの)」など、使いなれない単語も多かった。会社のイントラネットで入手した日英対応表を使って日常業務で使いそうな表現を繰り返し確認した。

実際に外国人の来店は多いという。銀座周辺で購入した商品やプレゼントを海外や成田空港に送ってほしいという依頼が多い。道に迷い店を訪ねてきた外国人に道案内することもある。

英語を使うときには相手に失礼な言い方にならないよう、特に気をつけている。「Please」「Would you~」などの丁寧表現は必須だ。「完ぺきな英語じゃないですし、ニュアンスとかも間違っているかもしれません。だからこそ話している表情とか声のトーンとか、ものの渡し方とか、すべてに気を配って接客しています」。

「銀座紺屋橋センター」の台車

黒を基調にしたスタイリッシュな造り

店内にはミニギャラリースペースも

Facebookには親しい外国人が20人

田中さんの英語は外国人旅行者や友人から「ナチュラルで分かりやすい」と言われるという。どんなふうに英語と向き合ってきたのだろう。

まるでカフェのような「銀座紺屋橋センター」の外観

ヤマト運輸での仕事のほかに、モデルとしての仕事も多い。忙しい毎日だが、週に2回は英会話スクールに通っている。机に向かって英語の学習本を開くということは「どちらかというと苦手」。分からないときに辞書を引いたり、文法書を開いたりする程度だ。英語学習に役立っているのがFacebook。外国人の友だちと毎日英語で近況を伝え合っている。英語の表現について質問して教えてもらうこともある。旅行先で知り合った友だちなどを含め、登録されている親しい外国人の友だちは20人もいる。

休みの日にはDVDで洋画を楽しむ。キャプションは英語に設定する。「この場面ではこんな表現をするのか」と意識しながら観るようにしている。最近のお気に入りは「お買い物中毒な私!」。ファッションも大好きで1週間で10回以上も観た。「高校のときから洋楽も好きです。映画も洋楽も楽しみながら英語の勉強にもなるのがいいですね」。

実際に会って食事をしたり、飲みに行ったり、映画を見たり…。東京にいる外国人の友だちも5人はいるそうだ。出身国はさまざまだが、共通語は英語。「下手でもどんどん英語を話しているうちに友だちが増えました」。

人とつながりあうのが大好きだから

「つながりって本当に大事だと思うんです」。そしてそのつながりを世界中に広げてくれる英語が大好きだという。「英語を話す人の話は、英語で理解できたほうがいいでしょう?」。

これまでは「通じること」にこだわり、資格試験や文法の勉強はしてこなかった。最近は自分の英語力を客観的に知るためにTOEICを受けてみようと考えるようになった。日常会話ができるようになったからこそ、政治や経済の話ももっとわかるようになりたいし、単語力ももっと高めたいと思う。一緒に受付の仕事をしているメンバーの中には、留学生も多い。「大学院で火山の勉強をしている中国人の留学生もいるんですが、日本語はもちろん、英語も本当にうまいんです。すごいなあっていつも刺激を受けるんですよ。私もがんばらなきゃって」。そういって目を輝かせた。