独SAPが米オーランドで開催した年次イベント「SAPPHIRE Now 2011」、最終日の5月18日はSAPが満を持して昨年発表した「SAP High-Performance Analytic Appliance(HANA)」が中心となった。

HANAに対する評判

独SAP CTOのVishal Sikka氏

基調講演のステージに立ったのは、CTOのVishal Sikka氏と、インメモリの可能性に目をつけ数年前からプロジェクトを進めてきた創業者のHasso Plattner氏。Sikka氏は顧客事例を中心にHANAの現状と提携戦略について話をし、Plattner氏はHANAに関する質問に答える形で紹介した。

HANAはインメモリ処理とカラム型データベースのアプライアンスで、2010年のSAPPHIREでベールを脱ぎ、12月にランプアップを開始した。ハードウェアでは、米IBM、米Hewlett-Packard(HP)、富士通など5社と提携している。

Sikka氏の基調講演はHANAを使っている10社以上の顧客企業の声が紹介された。たとえばヘルスケアのColgate-PalmoliveのCIO、Tom Greene氏は、営業コストと財務アプリの統合を進めていく中、必要なときに必要な情報をすぐに提供するという課題を感じていた。そこでHANAを知り、ラボで実際の運用データを使って試したという。その結果、クエリに要する時間が大幅に節約され、「77分かかっていたことが13秒で終了する」とGreene氏。

現在、メキシコで営業向けの収益性分析に使っている。「営業担当は情報を顧客の前で提示するが、HANAによりリアルタイムの情報を使うことができる。大規模なデータ環境で30倍高速にデータを提示できる」とGreene氏は満足顔だ。

Bosch-SiemensのCIOも、HANAのスピードに感動のコメントを寄せた。事実(データ)に基づく意思決定を推進する同社は、顧客の収益性に関するデータと製品データを組み合わせて分析している。この作業はこれまで、顧客データだけでも数時間かかっており、組み合わせると日単位を要していたという。HANAではこれが秒単位に落ちた。同CIOはさらに、システムにあるデータだけではなく、市場データなどさまざまな情報を入れてアドホックで分析できるようにしたいという。「顧客の需要に基づいた製品ポートフォリオの変更が可能になる。HANAは、ITがビジネスをサポートする可能性を広げてくれる」という。

これら世界中の大手企業に混じって、日本企業として野村総合研究所の声も紹介された。同社の場合、交通情報を得るため12000万台のタクシーの位置情報、つまりSAPにあるデータではなく非SAPのデータを利用してHANAで高速な解析を行っている。

同社の副社長中村昭彦氏はビデオで、これまでリレーショナルデータベースで数分かかっていたのが瞬時に処理できる高速性、リアルタイム性などのメリットを挙げた。「HANAは3億6000万のデータレコードをキャプチャし、1秒ちょっとで検索できる」と中村氏。

野村総合研究所は世界で最初にHANAを購入した最初の顧客でもあり、同社の事例は日本でHANAを推進するSAPジャパンにとっても追い風となっているという。

HANA、今後の展望(1) - アプリ開発

Sikka氏は今後の展開についても語った。

まずはアプリ開発側だ。

インメモリデータベースにより、ミドルウェアや統合、さらにはアプリケーションの設計方法も根本から変わってくるとSikka氏。フロントエンドが重要になる中、異なる開発環境やプログラミングモデルで作業する開発者が既存の技術を拡張できるようにしていくというものだ。

SAPは2010年、SAPと非SAP製品をコネクトする「NetWeaver Gateway」をローンチした。インフラのコンサンプションを簡素化するもので、Sybaseによりあらゆるアプリをモバイル化できる。「レガシーをオープンにするのがGatewayだ。外の世界と接続できるレイヤとなる」とSikka氏は説明する。今回、米Adobe Systemsと提携し、フロントエンドをさらに強化する。

具体的には、Adobeの「Flash Builder 4.5」をNetWeaver Gatewayに統合するもので、開発者はこれを利用して、SAPアプリケーションと連携するWebやモバイルアプリケーションの作成が可能になる。「SAPの業務ソフトウェアにコンシューマの要素を加えることができる」とSikka氏。

Sikka氏は続いて、「Duet Enterprise」という名称で米Microsoftと進めている連携についても話した。Duet EnterpriseはSAPと「Microsoft SharePoint 2010」の連携だが、今回これを開発分野に拡大し、.NET開発者がSAPアプリにアクセスできるようにする。「.NET開発者は既存の環境をSAPシステムにシームレスに拡大できる」(Sikka氏)。「Visual Studio」との統合、NetWeaver Gatewayの「Windows Azure SDK」向け拡大などを予定しているという。