『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを飾り、2004年初の長編作品『雲のむこう、約束の場所』で毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した新海誠監督。『秒速5センチメートル』では、日々誰もが感じている「現実」をアニメーション表現の中に描き出すことで、アニメファン以外の層にも支持を広げ、国内外で高い評価を受けてきた。

そんな新海監督が『秒速5センチメートル』から4年の月日を経て放つ最新作、劇場アニメ『星を追う子ども』が、2011年5月7日より、シネマサンシャイン池袋・新宿バルト9ほかにて公開開始となる。劇場公開を直前に控える今回は、4月26日に東京・有楽町のよみうりホールにて開催された特別試写会での舞台挨拶の模様を紹介しよう。

新海誠監督の最新作『星を追う子ども』は2011年5月7日の公開予定

特別試写の興奮さめやらぬ会場のステージには、アスナ(渡瀬明日菜)役の金元寿子、モリサキ(森崎竜司)役の井上和彦、そして新海監督が登場。まず新海監督は「このアニメーション映画はたくさんの人で作りました。今日は僕はそれを代表して一人、登壇させていただいていますが、僕の後ろに人が200人ぐらいいると思って聞いてください」と挨拶する。

(写真左より)井上和彦、金元寿子、新海誠監督がステージに登場

新海監督の作品に参加し、「本当に最初は緊張しました」という金元。「監督の作品はすごく繊細で柔らかいイメージがあったので、私にそんな心の動きとかが表現できるのかなって緊張していたのですが、アスナをやらせていただいてから、だんだんと監督の作品にのめり込んでいって、途中からは本当に楽しくやらせていただきました」と笑顔を見せる。監督の印象について金元が、「アニメの監督さんといったら厳しいのかなって思っていたのですが、監督は"怒"というものがないくらい本当に優しくて柔らかい方だったので、とてもリラックスさせていただきました」と話すと、新海監督は「ありがとうございます」と少々照れ笑い。

一方、『雲のむこう、約束の場所』以来、2度目の出演となる井上は、「今回監督は厳しかったですね。まさかアフレコ現場にムチを持ってくるとは……。冗談です(笑)」と会場の笑いを誘いつつ、「一言一言にこだわって、こだわって、こだわりぬいて収録を進めていったので、何回も同じシーンを繰り返して録ったりしたのですが、そのたびにどんどん良くなっていくのを感じました。監督の作品に対する想いの強さがすごく出ていて、普通何回もやるとへこんだりもするのですが、全然そういうこともなく、もっと良くしよう、みたいな欲にかられました」と収録当時を振り返る。

『星を追う子ども』がついに公開にいたり、「誰かに見てもらうためにこの2年間ずっと作ってきましたので、ようやく仕事が終ったかなという気持ちになれました」と安堵の表情を見せる新海監督だが、先ほどの井上の発言に対しては、「アフレコで何度も何度もしゃべっていただいて、すいませんでした」と平謝り。

完成した作品を観た感想について、「一度目は正直、自分の演技にダメ出しをしなら観てしまったんですけど、2回目からは作品に入り込み、アフレコのときにはわからなかった情景や場の雰囲気などがよりリアルに感じられて、先を知っているんですけど、最後までどうなるのかなって思いながら観てしまいました」という金元。一方の井上は、「モリサキは最初出てこないのですが、映画が始まった瞬間にめちゃくちゃ絵がきれいで圧倒され、自然の中にいるみたいに癒されて、いつの間にか僕が出てきて、喋っているのですが、最後にタイトルで井上って出てきたのを観て、僕もやっていたんだ、って思うぐらい、自分がやっているのを忘れて観ていました」と語った。

金元演じるアスナ

また、それぞれの役を演じた感想については、「アスナは子どものわりにはすごくしっかりした子で、自分とはけっこうかけ離れた子ども時代だなって思ったのですが、途中からはだんだん子どもらしさが戻ってきて、だんだん生き生きしてきたのが、私はすごく印象的でした」という金元。一方、新海監督が脚本を書いた当初から井上の声をイメージしていたというモリサキだが、井上は、「僕の中にはあまりそういう(モリサキのような)ところがないので、とても難しかった」と苦笑しつつ、「男としての切なさを感じながらやらせていただきました」との感想を述べた。

『星を追う子ども』は、監督が小学生のころに読んだ本から着想を得ているとのことだが、「ただ、その本が作者の方が途中で亡くなってしまって、未完だったんですよ。それで、ほかの方による補足のエンディングが書かれていたのですが、子どもながらに、どうもちがうなと、読みたい話じゃないなとずっと思っていて、自分だったらどういう物語が観たいんだろうって思い続けていたのがひとつのきっかけになった」という新海監督。「人が死ぬというのはどういうことなんだ、やり続けてきたことが途中で終わってしまうというのが人が死ぬということなんだっていうのに初めて触れたのがその本を通してだったので、そういう意味では子どものころからずっと作りたい話だった」。

井上演じるモリサキ

なお、脚本を書き始めたころはロンドンに滞在中だった新海監督。「冒険モノを作りたいけれど、空にどこまでも上っていくような、何かを掴むような話というのは、書きたかったんですけど、どうしても書けないと思い、結果、地の底に、自分の足元にずっと沈みこんでいって、その底で、何か大事なものに気づくとか見つけるとかだけでもせめてできて、また地上に戻って来られればいいかなと、そういう気持ちで書き始めた」と語り、「ロンドンのどよんとした空気も影響しているかもしれないし、僕自身のそのときの気持ち、今でも上に行くよりは下に下がってしまうという気持ちは持続しているのですが、そんな気持ちで作り始めた作品ではあります」と振り返る。

一方、最初に脚本を読んだときの感想についてキャスト陣は、「最初はすごくいろいろなテーマ性があるなと思い、私はアスナの視点で読ませていただいたのですが、ほかのキャラクターからは全然違う風にこの旅が見えているのかななんて思いながら、何回も読み返してしまいました」(金元)、「人ってひどいなって思いました。人の生き様、人はどういう風に生きたらいいんだろうっていうようなことをすごく考えさせられて、たくさんのキャラクターが出てきますが、それぞれのキャラクターが生き生きとしていて、本当にそこに存在しているという風な感じを受けました」(井上)。

そして、「きっと観るたびに、毎回いろいろなことを感じられる作品だと思いますので、一杯見てください(笑)」という井上に対し、新海監督も「何が一番大切なことかを言わずに一本のアニメーション作品を作りたいと思って作った作品ですので、難しいなと思うこともたくさんありました。観ていただいて、上手くいっているかどうかもわかりませんが、そんなところも考えながら、もう一回観ていただけるとうれしいです」と続けた。

ここでは、舞台挨拶の最後に語られた出演者からのメッセージを紹介しておこう。

井上和彦「本当にすばらしい作品だと思います。そして、この後、何年も何十年もいろいろな方に観ていただきたい作品だと思います。それが5月7日から始まります。皆さん、ぜひたくさんの方に観て頂けるように、伝言ゲームをお願いします」

金元寿子「普段はなかなかストレートに考えられないことをすごくストレートに考えさせてくれる作品で、こういったテーマ性、生とか死についてというのは、なかなか触れられないことなので、本当にいろいろな人や身近な人と観て、『ああだったね、こうだったね』って話していただけるような作品なのではないかと思います。私もぜひ家族や大事な人と観にいきたいと思います。なので、皆さんもぜひぜひもう一回観にいっていただけたらと思います」

新海監督「僕は10年近く前、自主制作の『ほしのこえ』という作品を一人で作って、50人の小さな劇場から始めたんですね、アニメーション作りを。今、スタッフが、全部あわせると今回も200人ぐらいいてくれて、こんな風に作品を作らせ続けていただけたのは、『ほしのこえ』の頃から支えてくださっている皆さんや、周りの作らせ続けてくれる、お金を出してくれる(笑)、スタッフや皆さんのおかげです。全力で放ったボールのつもりですので、これを受けてどのようにお感じになったか、ぜひネットなどに書いてください。検索してみますので(笑)。今日は本当にありがとうございました」

新海誠監督の最新作となる劇場アニメ『星を追う子ども』は、2011年5月7日より、シネマサンシャイン池袋。新宿バルト9ほかにて全国ロードショー。公開劇場などの詳細は公式サイトをチェックしてほしい。

(C)Makoto Shinkai/CMMMY