本稿では、auから発売される話題のスマートフォン「HTC EVO WiMAX ISW11HT」の実力をヘビーユーザーの視点から端末を紹介している。前回はベンチマークでHTC EVO WiMAXの実力を検証した。今回はWiMAXとテザリング機能を見ていく。

HTC EVO WiMAX ISW11HT

WiMAXとテザリングの予備知識

まずはWiMAXの部分だ。これについてテザリングと合わせて基本情報を紹介していく。これまでにも紹介されているように、HTC EVO WiMAXでは通常のauのパケット通信料金に加え、月額525円をプラスすることでWiMAXが利用できるようになっている。これにより、WiMAXを利用できるエリアではWiMAXを、WiMAX圏外のエリアでは3Gを利用することで、定額かつ快適なネットワーク環境を利用できる。

ホームページを左側に移動すると、各種機能をオン/オフするスイッチ用ウィジェットが配置されている。WiMAXの自動オン/オフがうっとおしいと思ったら、ここで一時的にWiMAX機能をオフにしよう

次にネットワークの接続順序だが、HTC EVO WiMAXでは次のように設定されている。

Wi-Fi > WiMAX > 3G >1x

つまり、Wi-Fiネットワークの接続が最も優先され、次にWiMAX、さらに3Gから1xと、現在のネットワーク状況をリアルタイムでチェックしつつ優先ネットワーク順に接続が行われる。ただしテザリングで「Wi-Fiホットスポットモード」を利用している場合、HTC EVO WiMAXからWi-Fiネットワークへの接続はできなくなる(A-GPSによる素早い位置情報取得も利用できなくなる)。基本的にはWiMAXへと優先接続し、それをテザリングで周辺端末と共有する形態になるだろう。また音声通話はWiMAX接続時でも3Gが利用される点に注意したい。

バッテリ状態はステータス画面で確認できる。テザリング使用時は特に残量に気を付ける必要がある

このほか、テザリングについてはいくつか注意点がある。まずWiMAXから3G、あるいは3GからWiMAX接続に移行する際に、ネットワークの接続セッションがいったん切断される点だ。WiMAXと3Gは別会社が運営する別のネットワークのため、当然といえば当然なのだが、これによってダウンロードが一旦停止したり、ストリーム放送が中断する、インスタントメッセンジャー(IM)の接続が遮断されるといった現象が発生する。テザリングを行っているHTC EVO WiMAXではともかく、それに接続するPCなどではこの状態を把握できないため、再度接続し直しといった手順が必要だ。つまり移動中でWiMAX圏内外を頻繁に出入りする状況、あるいはWiMAXの電波が弱く接続が安定しないところでは、テザリングする際に注意が必要となる。もしくは、接続が不安定になることを見越してあらかじめWiMAX接続を切断しておき、必ず3G接続になるように調整しておくのも手だ。またテザリング中など、いちどWiMAXから3G接続になると、なかなかWiMAX接続に復帰しない現象が発生する。HTCによれば、信号強度をみてWiMAXへの自動復帰を判断する仕組みになっているということで、WiMAXへの再接続が行われないわけではないようだ。この場合、手動でWiMAX接続を設定することで強制的に復帰できる。適時使い分けたい。

テザリングについてもう1つ注意したいのは、バッテリ消費が激しいことだ。詳細は後述するが、HTC EVO WiMAXのWi-Fiテザリングを常時オンの状態で、満タンから4~5時間程度でバッテリが空になる。使用度が激しければさらに消耗が激しくなるし、仮に接続をまったく行わない状態でも半日持たせるのが限度だ。そのため、外出時には予備または外部バッテリがほぼ必須だ。お勧めはエネループのMobile Boosterで、特に大容量タイプの「KBC-L2BS」をお勧めしたい。

バッテリ駆動時間が短いと感じたら、エネループのMobile Booster「KBC-L2BS」がお勧め。駆動しながら充電も可能

これ1つでHTC EVO WiMAXをおよそ1.8回分フル充電可能で、1日の使用には十分だろう。またPCを接続するときなどは、できるだけPCのUSBポートにHTC EVO WiMAXを接続して充電しながら利用するようにしたい。充電しながらもテザリングで電力を消費し続けるため、なかなか充電が進まないと思うが、少なくともバッテリが減り続けることはないのでつねに充電するクセをつけておくとよいだろう。

KDDIによれば、HTC EVO WiMAXはモバイルユーザーだけでなく、自宅でPCを利用するようなユーザーにもテザリングを使って電話回線契約なしのインターネットをガンガン利用してもらいたいという。また、ユーザーを積極的にWiMAX回線へと誘導することでトラフィックの分散が可能だと説明しており、WiMAXの利用可能なエリアではスピード的にもユーザーにメリットのあるWiMAXを極力利用するよう呼びかけている。自宅や出先でじっくり腰を据えて作業するときはWiMAX、それ以外の場所や移動中では3Gという形で、適時使い分けていきたい。

ネットワークのパフォーマンスを測定してみた

実際にWiMAXはどの程度のパフォーマンスが期待できるのか。3月下旬の2日ほどを使って都内山手線圏内を簡単にリサーチしてみた。筆者の日本での作業スペースは窓際ならWiMAX電波がかろうじて入る圏内で、長時間通信を行っているとたまに自動的に3G接続になっている感じだ。また本原稿の一部を執筆していたのはJR京葉線の海浜幕張駅前のカフェで、こちらはWiMAX電波がHTC EVO WiMAXの表示で2~4本ほど見える比較的電波の強いエリアだ。実測範囲で下りが4~5Mbps、上りが2~3Mbpsほどで順調に使える。YouTube動画や大容量ファイルのアップロードも問題ない。そしてその足で京葉線から東京駅に入って山手線を一周、さらにJR中央線や地下鉄の都営大江戸線、日比谷線などを駆使して移動してみた。

計測に利用したのはSpeedtestのAndroidアプリで、これはAndroid Marketからダウンロードが可能。近隣のサーバに接続してネットワーク回線の上り/下り速度を測定する。Speedtestは連続使用するとサーバへの接続がしばらくできなくなるようなので、主要駅を中心に数分おきにパフォーマンスの増減を検証した。

ネットワークの速度テストに利用したSpeedtestアプリ。Android Marketからダウンロードできる。ping、ダウンロード、アップロードの3つを測定できる

結論からいえば、京葉線などの郊外型路線では市川など工場地帯を除いてほぼWiMAX圏内であり、上り下りともに4~5Mbps程度で安定していた。ただし地下移動中での利用は当然のごとく無理で、駅に到着したときだけ一時的に3Gが使える状態になる。東京駅は地下も含めてWiMAX圏内ということだが、手動でWiMAXに切り替えない限りは3Gになることが多いようだ。山手線では一部のエリアを除いてほぼWiMAXが接続状態で維持されており、さすがに都内といった印象を受けた。ただアンテナ感度こそ高いものの、必ずしもそれが速度に比例しているわけではなく、速度も下りで2~5.5Mbps、上りで900kbps~5Mbpsとばらつきがあった。また秋葉原や新宿などWiMAX利用者が比較的多いとみられる繁華街の中心部でのテストも行ってみたが、秋葉原では上り下りともに5Mbpsとかなり安定している一方、新宿は下限となる1~2Mbpsの数字が出やすいなど、やや偏っている印象を受けた。このあたりは調査タイミングでかなり変化すると思うが、秋葉原などの場所で思った以上にWiMAXのパフォーマンスが出るのはヘビーユーザーにとっては朗報かもしれない。

Result Browserの表示。これで過去の集計記録をスピードや時間だけでなく、測定場所を含めて調べることができる。0が表示されているのは失敗したテスト、また下り方向で1Mbps以下の速度が出ているケースの場合は3G接続になっている

一方で、地下や建物内が弱いというWiMAXのカバーエリアの問題は存在する。現在のところ、東京メトロおよび都営地下鉄の両方はWiMAXのカバーエリアにはなっておらず、どの駅でも3G以外での通信はできない。また建物内や地下街は場所による差が大きく、例えば東京駅周辺の地下はWiMAXが使える一方で、それ以外のほとんどのビルの地下はエリア外となる。建物内についてもやはりビルによる差が大きく、その場合は窓際に移動する必要があった。例えば毎日コミュニケーションズの入るパレスサイドビルでは、ビル内はWiMAX圏外のエリアが多い。だがビル内の電波が強いエリアもあるようで、前出の秋葉原などでは雑居ビルや高層ビルの中に入っても通信できる傾向があり、ほぼWiMAXで利用できる。HTC EVO WiMAXの場合、3Gでも通信が継続できるため、こうしたエリア間の移動であっても地下鉄移動中などを除けばほぼ通信が維持される点が大きい。3Gでは速度が不満、かといってWiMAXではエリアが限定的と嘆いていたユーザーには、1粒で二度おいしいHTC EVO WiMAXだといえるかもしれない。

バッテリの持ち具合は?

本稿の冒頭でバッテリ駆動時間について触れたが、おそらくHTC EVO WiMAX利用における最大の問題はバッテリにあると思う。HTC EVO WiMAXのバッテリは1500mAhで、Nexus Oneの1400mAh、バッテリが比較的大きいことで知られるiPhone 4の1420mAhと比べても大きい。だが実際の駆動時間は両者に比べても短いという印象がある。では実際にどうなのか、簡易ベンチマークとしてテザリング状態でのバッテリ駆動時間を計測してみた。

液状化の痕跡が生々しい海浜幕張のカフェでバッテリ駆動耐久テストを実施。ふだんはWebで調べ物をしながら原稿を書きつつ、たまにYouTubeで大画面動画を楽しんだりしてテザリングを積極的に活用する

まず標準状態ということで、PC1台とモバイル機器1台をHTC EVO WiMAXのWi-Fiホットスポットモードでテザリング共有し、PC側では通常の原稿執筆作業やWeb閲覧、たまにYouTubeでネコ動画の再生などを繰り返しつつ、iPhoneではTwitterやSNSへの返信、アプリのダウンロードなどをときどき行い、おそらく平均的な作業負荷を与え続けた。そして最大負荷状態ということで、今度はPCの接続1本に絞ったうえでつねに大容量ファイルのダウンロードを行う設定にしてみた。ここではiTunes Store経由で映画3本のダウンロードにiOSアプリ10本のアップデートを設定して、HTC EVO WiMAXのバッテリが尽きるまでに4GB分のファイルがダウンロードできたことを確認している。また最後にテザリングのみの軽負荷状態を測定しており、ここではテザリング設定を行いながら接続デバイス数は0という状態を維持している。ただしHTC EVO WiMAXの初期設定ではテザリング時に10分間接続デバイスが確認できないと、自動的にテザリングを終了して低消費電力モードに移行してしまう。そこで設定を変更し、つねにテザリングをオンにしてバッテリが尽きるまで動作を続けるようにした。その結果が次の表だ。なお、3つの状態ともにWiMAXでの接続を前提にしている。

高負荷時 通常時 軽負荷時
駆動時間 3時間弱 4時間半~5時間 12~13時間

軽負荷モードでテザリングの接続台数0の場合、デフォルトの設定ではすぐにテザリングが終了してしまう。そこでテザリングの設定メニューで「設定ボタン」を押して詳細設定を呼び出し、電源モードを「常にオン」に変更しておく

バッテリの消費状況をウォッチ。まず残り20%を切ると警告メッセージが出現してバッテリ色が黄色に変わり、充電をうながす。この警告メッセージは20%、15%、10%、5%と5%刻みに表示される

残り10%を切るとバッテリに×マークがつき、最後5%になった段階で自動的に本体の電源が落ちるようになる。この状態になるとバッテリがわずかに残っていたとしても、本体を起動直後にすぐに再度電源オフの状態へと移行する。すぐに充電を開始しよう

数字はおおよその目安としてほしいが、通常利用でもHTC EVO WiMAXをテザリングすると6時間はもたない。HTC EVO WiMAXをWi-Fiホットスポット端末だと考えれば、3~4時間程度しかもたないMiFiなどのデバイスに比べれば駆動時間も長く使いでがあるといえるが、やはり本格的に使うのは厳しいだろう。そのため、エネループのMobile Boosterのような外部バッテリとの組み合わせは必須となる。前述のようにKBC-L2BSであれば1.8回分の充電が可能なので、通常状態でも13~14時間程度は使用できることになる。実際に半日あれば十分だと思うので、HTC EVO WiMAXをテザリングなど高負荷で利用したいと考えるユーザーであれば、ぜひ購入をお勧めしたい。ほかにも外部バッテリはあると思うが、そのときは大容量タイプのものを選択してほしい。

KBC-L2BS。AC充電ケーブルのほか、USBケーブルも付属しており、USB経由でのエネループ本体の充電のほか外部装置への電源供給へも可能。Micro USBコネクタも付属しているので、そのままHTC EVO WiMAXに接続できる

最後に、昨今は東日本大震災により家や職場が被災した、あるいは東京電力の計画停電により家や職場が停電してインターネット接続が行えず、作業に支障をきたしているという方も多いと思う。筆者のまわりで停電中に周囲のWiMAXアンテナの感度が落ちたという話をいくつか確認できたが、それ以外は携帯の3Gアンテナともに通信はほぼ正常で、停電による基地局の動作停止などの現象は確認できていない。KDDI側でも停電によるネットワーク障害は現在のところ確認できていないとのことで、おおむね問題ないとのことだ。もし今後、夏などに向けて再び計画停電がスタートすることがあるのなら、PC道具一式を抱えてHTC EVO WiMAXとともに作業を継続してみるのはどうだろうか。停電中は電気がなくなるため、事前にあらかじめPCとバッテリの充電を済ませ、電気の有無に関係なく中断なしに作業ができる。その意味で、HTC EVO WiMAXはPCを前提としたヘビーユーザーにとって大きな選択肢になりえるだろう。