皆がひとつの目的に向かう映画の現場が好き
――殺陣というか襲撃にシーンがとにかくリアルでした。無様というか、暗殺や立会いも、非常にみっともない。映画的に画になる殺し方というのもあるはずですが、本作では、無様でみっともない殺し合いが描かれています。
佐藤「この作品で、段取りとしての殺陣はやりたくなかったんです。当時の様々な資料を調べると、暗殺自体は3分から5分の間の出来事だったらしいんです。大人数がそれだけの時間の間、暗殺者側も、殺される側も、そんな見映えよく斬り合えるわけがない。暗殺といっても、実際には酷く混乱してみっともない現場だったと思うんです」
――暗殺を成し遂げた浪人たちの逃亡する無様な姿も描かれています。決して、大儀を成し遂げた憂国の士というようには描かれていません。
佐藤「彼らが本当に憂国の士だったのかどうか、わからない部分もあります。歴史的に見て、暗殺された大老 井伊直弼が、あの時代に開国した事は間違いではなかったと思うんです。あの開国で、一番恩恵を得たのは、実は井伊直弼を『売国奴』と罵っていた長州藩・薩摩藩なんですよ。あの時、開国していなければ、明治維新も起こらず、日本の近代化も成し得なかった。現在の日本の姿も、変わっていたはずです。見方によっては、殺された井伊直弼の方が憂国の士だったのかもしれません」
――現代の桜田門の姿と国会議事堂が、唐突に映し出されるのも、印象的でした。
佐藤「かつてこの場所で起こった暗殺、テロリズムによって、確実に現代の日本への流れが出来たという認識を示したかったんです。ただ、現代において暴力によって国家や社会を変革するという方法論について、あくまでも僕は否定的です。やはり体制を変えるのは、国会で成されるべきだと思います。それにしては今の国会は頼りない。国会議事堂を映したのは、それだけのものをしっかりと背負うべきだというメッセージもあります」
――佐藤監督は、監督として長いキャリアをお持ちで、現在79歳とのことですが、その尽きない創作意欲というのは、そこから出ててくるのでしょうか。
佐藤「やっぱり映画の現場が大好きなんですよね。ひとつの目的に向かって大勢のプロが集まり自分の役割をしっかりとやる。そういう作業形態の積み重ねでひとつの作品が完成していく。僕自身、何で映画監督をやっているのか色々考えるのですが、やっぱりそれが好きで、映画に執着しているというのはありますね」
――年齢と共に、映画化する題材の興味は変わってきていますか。
佐藤「やはり男女の好いた惚れたよりも、状況、歴史、国家、体制などに挑む人間の姿や行動に興味がありますね」
――『新幹線大爆破』(※映画『スピード』の元ネタになったといわれている作品)のようなアクション映画や、『実録安藤組』のように暴力を描いた作品は、もう監督されないのでしょうか。
佐藤「暴力シーンを撮るのは、けっこうエネルギーが必要なんです。ただ、恋愛などの感情よりも、人間の行動が好きなので、肉体的に厳しくいても、良い題材があればアクション映画もまたやりたいですね」
インタビュー撮影:石井健