2011年3月に最新版のInternet Explorer 9が公開されたが、早くも次バージョンであるInternet Explorer 10の開発途中バージョンを、Platform Preview(プラットフォーム・プレビュー)として、昨日開催されたWebサイトや同アプリケーションの開発者向けのイベント「MIX11」で公開した。
Internet Explorer 9でも、HTML5やCSS3といったWeb規格への対応や、GPUやマルチコアといったハードウェアリソースの活用が行われたが、Internet Explorer 10はそれらを推し進め、更なるWeb規格へのサポートや、パフォーマンスの向上が進められる予定である。
現在公開中のInternet Explorer 10 Platform Preview 1(以下、PP1)は、最終版に実装されるすべての機能を満たしているわけではない。UI(ユーザーインターフェース)もシンプルなウィンドウにとどまり、数あるCSS3プロパティへの対応が拡充された程度だ。
Test Drive経由で入手可能なInternet Explorer 10 PP1は、Windows 7のみ導入でき、既存のInternet Explorer 9環境に影響を及ぼさないので、誰でも試すことが可能である。だが、Internet Explorer 10 PP1はエンドユーザー向けではなく、Webサイト開発者向けに新技術の実装を試せるプラットフォームだ。
そのため本レビューでは、Internet Explorer 10 PP1の使い勝手などは棚上げし、現時点で実装された部分をクローズアップしよう(図01~02)。
CSS3サポートを大幅に強化したIE10
Internet Explorer 10 PP1で、CSS3の対応が拡充されたのは前述のとおりだが、Test Driveでは、CSS3を用いたデモンストレーションが多数用意されている。「Fishball Benchmark(金魚鉢)」は、HTML5 Videoタグで水の動きを背景として映し出し、水槽の丸みはフレームとマスク処理で対応。そこに金魚の動きを加えたベンチマークである。
レビュー環境(Intel Core 2 Quad Q9550/メモリー8GB/NVIDIA GeForce GTS450/ドライバーバージョン267.59)で実行したInternet Explorer 10 PP1では、金魚の数を750匹まで増やすとフレームレートが50fps前後まで落ちたが、Internet Explorer 9では同等の状態で30fps前後しか出なかった。これだけでもInternet Explorer 10 PP1のパフォーマンスが向上していることをおわかり頂けるだろう(図03~04)
CSS3にはボックスの段組みを行うBox-orientなどのプロパティが用意されているが、それを試すのが「CSS3 Flexbox Flexin」というデモンストレーション。Internet Explorer 10 PP1では正しく表示されているが、Internet Explorer 9では旧世代のWebブラウザーで最新のWebページを開いたようにレイアウトが崩れてしまう。格子(こうし)をレイアウトに用いるgridプロパティのデモンストレーション「The Grid System」も結果は同様だ(図05~08)。
また、背景画像などにグラデーションを用いるradial-gradient(-ms-radial-gradient)などもサポート済み。「CSS Gradient Background Maker」では、選択したグラデーションに合わせてCSSコードを出力するデモンストレーションを試すことが可能だ。このほかにもCSS3 TransitionsやCSS 3D Transformsなどもサポートされている(図09~10)。
Internet Explorer 10 PP1におけるもう一つの注目点は、ECMAScript 5サポートの拡充である。そもそもECMAScript(エクマスクリプト)はJavaScriptの元となる仕様であり、リッチなWeb UIに欠かせないスクリプト言語だ。このECMAScript 5(次世代JavaScript)のStrict Mode(これまでの記述よりもより厳密な記述を要求するモード)をInternet Explorer 10 PP1はサポート。
JavaScript記述に陥りがちな誤った記述を禁止し、コーディングレベルでエラーを発見しやすくなると同時にJavaScriptエンジンの性能向上にもつながるといわれている。
既にMozilla Firefox 4.0が、ECMAScript 5 Strict Modeをサポートしているため、Web技術としては目新しくないが、Windows OS標準WebブラウザーであるInternet Explorerが同モードをサポートする意義は大きいだろう。
IE10はHTML5の完全サポートを目指す
前述のとおりInternet Explorer 10 PP1は開発途中のソフトウェアであり、今後どのような仕様変更や実装が加わるか予想するのは難しい。Microsoftが公開している開発者向けガイド「Internet Explorer Platform Preview Guide for Developers」にも、現時点での変更点しかまとめられていない。
ただ、Internet Explorer 9で行われた改良はHTML5やCSS3関連の部分的なサポートにとどまり、同10ではそのアプローチを加速化させるのは確実だ。HTML5は現時点でドラフトレベルだが、2012年3月の最終勧告の前に今年夏の最終ドラフトが予定されている。これを踏まえると、Internet Explorer 10はHTML5の完全サポートを目標に開発を進めているのだろう。
また、MicrosoftはHTML5をベースに新技術を開発するHTML5 Labsを運営しているが、ここで研究中のFileAPI(WebブラウザーからローカルディスクのファイルにアクセスするAPI)や、Media Capture API(Webカメラなどのメディアデバイスから動画や音声をストリームデータとして取り込むAPI)を実装する可能性は低くない。
今後、Internet Explorer 10は品質の安定性を計るため、12週に一度(Internet Explorer 9 Platform Previewの場合は8週に一度)のタイミングで公開していくという。本サイトでも大幅な変更が加わったタイミングで続報をお送りする予定だ。ご興味のある方は是非ご覧頂きたい。
阿久津良和(Cactus)