今年の1月、レノボ・ジャパンは、NECパーソナルプロダクツのPC事業部門(NECパーソナルコンピュータ)との提携に基づく合弁会社「Lenovo NEC Holdings」の設立を発表した。さて今回、日本最大のPC事業グループが間もなく誕生するタイミングに、Lenovo本社のシニア・バイスプレジデントで、全世界の同社マーケティング活動を統括するCMO(Chief Marketing Officer)の立場にあるDavid Roman氏にお会いすることができた。マーケティング責任者の視点から、Lenovoが"PC"の展開で何を考えているのかを語っていただいた。
さて、Roman氏、Lenovoに入社してまだ1年弱なのだというが、それ以前はHewlett-Packard社でもマーケティングの責任者を務め、さらにその前はNVIDIA社や、Apple社でもマーケティングの責任者を歴任してきたという人物だ。ところで、そんなRoman氏がレノボに移籍してまず最初に印象的だったというのが、ThinkPadの拠点である大和事業所のスタッフとの出会いだったのだそうだ。
-- 大和事業所の存在は、特に日本のハイエンドユーザーにはよく認知されています。来日されてから、真っ先に大和事業所を訪れたそうですが、どのような印象を持ちましたか?
Roman氏: 日本の大和事業所で創られる「ThinkPad」は、日本のヘリテイジ(伝統)を受け継いできたすばらしい製品です。大和事業所と、そこで働くスタッフを見て、ThinkPadがなぜ素晴らしいのかはすぐにわかりました。
大きく変わるレノボ"ブランド"
Roman氏: 私は、素晴らしい会社に、非常にエキサイティングな時期に加入することができたと思っています。レノボは今よりも更にグローバルなブランドになることができ、そうして行こうと注力しています。というのも、レノボの現在の成長は著しく、「レノボ(Lenovo)」というブランドに対してユーザーが持っているイメージを超えて、レノボという会社が成長しているからです。
-- 確かに、レノボは市場シェアの高さだけでなく成長率の高さでも注目されていますね。日本市場でも、世界市場でも、最近の高い成長率が話題となっていました。
Roman氏: レノボは、今でている2010年末までのデータですが、日本市場では6期連続の成長率1位を獲得し、世界市場でも5期連続の成長率1位を達成することができました。このような、ユーザーの既存のイメージを超えて、高い成長を遂げている時期というのは、ブランドのイメージを大きく進化させる好機となるのです。新しいブランドの形成が、急成長の時だからこそやりやすい。
Roman氏: ですので、我々は今年、3つの大きな優先目標を設定しました。まずは「レノボ」というブランドの強化、そして「コンシューマ」分野のブランドイメージの強化、さらに、レノボの製品に、「若者」にも関連づけられたブランドイメージを追加したいという目標です。
-- 「レノボ」というブランドの強化というのは?
Roman氏: 過去、例えばThinkPadとIdeaPadは製品ロゴが違う、製品の見た目も違う、違うプロダクトラインであり、広告キャンペーンまで違う、まるで別会社の製品の様に見えていました。これからは、「レノボ」ブランドを全面に出して、これは「レノボ」の製品であるという共通のイメージを創り出して行きたいと考えています。もっとひろい、もっと強力なブランドを目指します。
-- と言うと、ThinkPadの位置づけはこれまでと変わってしまうのでしょうか? 私自身、伝統的なThinkPadのファンの一人として、非常に気になります。
Roman氏: ThinkPadというプロダクトブランドは既に強力に確立されています。これからのブランドの強化の中でも、ThinkPadがレノボの中心であるということは再確認したい。レノボ製品で、新しい技術や新しいデザインを先導していくのは、これからもThinkPadだと位置付けています。今後も、ThinkPadはベリーストロング、これまで以上に強力な製品を投入していきます。
Roman氏: それに、そもそも、私もThinkPadのファンの一人なのです(笑)。もちろん今年も、これまで以上に、ThinkPadにとってもすばらしい年になります。
-- 「コンシューマ」の強化と言うのは、Idea製品を強化するということでしょうか?
Roman氏: ThinkPadのビジネスのような、これまでやってきたことは、これからも続けますが、IdeaPadなどでは、これからの新しいこと、これまでレノボが取り込めていなかった市場を目指していくのです。直近の四半期の業績では、確かに法人向けのThinkPadも好調だったのですが、もっと凄かったのがコンシューマ向けのビジネスでした。まだまだ伸ばすことができると考えています。
Roman氏: そして、コンシューマ向けのコンピュータ・テクノロジは現在、"PC"という境界すら越えようとしています。今年のCES(1月に開催された2011 International CES)でもたくさんの製品を出展しましたが、タブレットやスマートフォンなども、我々の「コンシューマ」ブランドの製品として登場しています。これからのレノボのブランドイメージは、パーソナルなコンピューティングデバイス全般をさすものになっていく方向が考えられるでしょう。
Roman氏: ただ、ノートブックPCのイメージは残り続ける。すぐに、当たり前の用に、ユーザーは様々なパーソナルデバイスを複数所有するようになるでしょう。そして、生活の中でそれをどう利用していくのか、時間をかけて収束、洗練がおこるでしょう。そこで様々なデバイスの収束、洗練の要となるのは、やはり"PC"なのだと考えています。
-- 「若者」にも関連づけられたブランドイメージというのは?
Roman氏: 日本の東京の若者と、米国の都会の若者を見てみると、その"若者の世代"が興味深い。大学生などを想像してみてください。彼らに注目した時に、とても面白いことが見えてくるのです。一例を挙げると彼らは、同じ音楽CDを聴いている。国が違うのに、音楽の趣味が似通っているのです。東京に住んでいる別の世代よりも、世界中の同じ若者世代の方が共通項が多いのです。だから我々は、グローバル市場は狙えるな、と考えますし、若者に注目しているのです。
Roman氏: 若者には、どんな市場であっても何かしらの一貫性があると考えています。北米の若者でも、アジアの若者でも、テクノロジの使い方、コンテンツやアプリケーションの利用形態の類似性を見出すことが出来る。過去には、ローカルごとに特殊な要望があり、それぞれ特殊な市場が形成されていたのですが、今では、テクノロジがそれを超越してしまったんですね。こういったことは、レノボのようなグローバル企業にはチャンスです。
-- 若者が好むようなデザイン、機能を備えるレノボ製ノートブックPCがたくさん出てくるのかという期待が持てますね。これまでのレノボにない新しいイメージで、楽しみです。若者世代といえば、最近のレノボの特徴的な活動として、FacebookやTwitterといった、SNSを活用したものがありますね。あれも"若者"を意識したものなのですか?
Roman氏: 新しい挑戦なので、当然、まずはユーザーともっと関係を持たないといけない。まずは、ユーザーからレノボにフィードバックして行くという関係、コミュニケーションの場所を構築したいという考えがあるのです。ユーザーとのコミュニケーションは良好な展開をするのに必須なのです。
NECとは長期的なパートナーシップを
-- NECとの合弁会社設立について現時点でお話いただけることはありますか?
Roman氏: これは、短期的にシェアをのばしたいとか、そういった提携ではありません。一番大事なのは、これはパートナーシップであるということです。では、今テーブルに何がのっているのか。レノボのグローバル規模のサプライチェーン、NECの日本市場でのブランド力、そしてNECならではの技術と、お互いの強みを活かして生きたい。パートナーシップの深化には時間がかかるかもしれませんが、様々な挑戦をして行きます。長期的に、ユーザーに価値を届けられるようにして行きたい。
-- レノボの製品も強いブランドとして存在していますが、NECというブランドも非常に強力です。2つのブランドを並列でどちらも活かしていくというのは、とても大変な作業になるかもしれませんね。
Roman氏: だから私のような人間がいます(笑)。PCの業界は非常に大きな業界ですし、両社にとって、伸ばしていける余地はまだまだあると考えています。
"PC"はレノボの要であり続ける
-- ブランドの再構築やNECとのパートナーシップなど、間違いなく、レノボは大きく変わります。では、将来の「レノボ」はどうなっていくのでしょうか?
Roman氏: 要には変わらずに"PC"が存在し、それにさらに、様々なパーソナルデバイスが加わっていくでしょう。PCには常に信念を持って取り組んでいます。PCは将来にわたってレノボの中心であり続けます。
-- 私はIT関連のWebメディアの仕事を始めて、まだ数年ですが、それでも何度も「もうPCの時代は終わった」の様な論調の話を聞かされて来ました。
Roman氏: 私は確か25年間ほどこの業界にいるのですが、その間に何度も「PCはここまでで終わりだ」といったことを言われ続けてきましたよ(笑)。でも、それでもいつもPC自体が進化を繰り返して、常に要でありつづけたのです。
Roman氏: PCというのは、あくまでも"道具"なのです。それを使ってユーザーが何かを実現できるものでなくてはいけない。NIKEのランニングシューズと同じです。道具として使った時に、ユーザーに"何か"が生まれる。何かをしたいと思った時に、それが実現できる道具であるというものが、レノボのPCなのです。
-- 納得しました。これからは、ランニングシューズが無くなったか? と反論する様にします(笑)。本日はありがとうございました。
Roman氏: ところで、貴方はNECとのパートナーシップの話についてもっと聞きたかったのでは? レノボ・ジャパンの責任者とも話して欲しいですね。
さて、この後日になるが、レノボ・ジャパンの厚意により、実際に同社代表取締役社長のロードリック・ラピン氏の話を伺う機会も得ることができた。その内容は稿を改め近日中に掲載予定だ。