前年と同様、バーゼルワールド会場にほど近いバーゼル・バディッシャー駅前のカフェレストランを貸し切り、新作の発表・展示を行ったグラハム。担当者によれば、F1スポンサーとしてのイメージを展示・商談・飲食提供スペースを通じて作り込みたかったのがその狙いとのこと。実際、それは十分な効果を上げていたと思われる。しかも、「人があふれる本会場ブースより落ち着いて商談ができる」と、来場者にも好評だったようだ。バーゼルワールドの出展料を含むブース設置費用は、規模によっては数億円ともいわれるだけに、こうした動きは今後増えてくるかもしれない。
そんなグラハムの新作に目を向けると、クロノグラフモデルをラインナップする「シルバーストーン」から、初めてクロノグラフを持たないプロダクツが発表された。「シルバーストーン・タイムゾーン」だ。ちなみに、「シルバーストーン」はイギリスのサーキットに由来するもので、その名からもレーシングイメージを投影したシリーズであることがわかる。
「シルバーストーン・タイムゾーン」は、時分針と同一軸上にGMT針を設置。第2時間帯表示として、他国で行われるレースの現地時刻や転戦を強いられるドライバー、スタッフのための自国時間、さらには次回移動先の時間帯を表示する。グラハムらしいキャッチーなカラーリングと誇張された12時と6時のインデックスレターも健在。クロノグラフではなくとも、そのレーシングスピリットはしっかりと受け継がれているのだ。
38万円(税抜)という戦略的価格設定も大きなトピック。購入のハードルを下げ、より多くの人にグラハムの時計を知ってファンになってほしいという思いが込められている。ムーブメントは「G1714」。ケースはSS製で42mm径、50m防水。ダイヤルはブラックカーボンとシルバーの2パターン。ストラップはブラックカーフのみだが、モデルごとにブルー、レッド、グレーのステッチが入る。同商品は3月に発売されている。
スポンサーシップ製品としては、「メルセデスGP タイムゾーン」を発表。前述の「シルバーストーン・タイムゾーン」のバリエーションモデルで、「MERCEDES GP PETRONAS Formula One Team」の公式タイムキーパーを務めるグラハムをアピールする役割を担う。仕様および価格は「シルバーストーン・タイムゾーン」に準じるが、ベゼルにモールディングが入り、ストラップがタイヤトレッドを模したラバー製となるため雰囲気ががらりと変わって興味深い。もちろん、ダイヤルには「MERCEDES GP」のロゴが入る。4月発売。
そのヒットが現在のグラハムの路線を決定づけたと言われる定番「クロノファイター」からは、「クロノファイター・フォートレス」が発表された。
グラハムの象徴ともいうべきユニークな大型リリースレバーを装備。これはイギリス空軍のパイロットからの提案を腕時計に体現したもので、高高度飛行中でも、手からグローブを外さずに時間を計ることができる。また、人間工学上、操作は人差し指で行うより親指で行うほうが0.2~3秒早く反応するという理由もある。そこで、左サイドに巨大なクロノグラフプッシャーとリュウズを同軸に配し、このレバーだけでスタート/ストップ機能を簡単に行えるようになっているのだ。
「クロノファイター・フォートレス」は、人気のクラシックラインであり、ケース径も43mmと日本でもっとも受け入れられるサイズであることから、かなりの注目作となることは間違いない。ムーブメントは「G1742」。ブラックダイヤルとブラウンカーフのストラップが、鈍色のSSケースに良くマッチする。100m防水。価格は80万円(税抜)。2011年3月発売。
最後に紹介する「シルバーストーン・トゥールビヨグラフ」は、グラハム新作の最高峰。その名のとおり、トゥールビヨンとクロノグラフを内蔵した精緻を極めたモデル、と書くと、あまりにデリケートすぎて実用不可能にさえ思えるが、そこはグラハム。数々のテクノロジーによって驚異的な耐衝撃性能を実現、“日常使いでも問題のないトゥールビヨン”に仕上げている。
ムーブメントは「G1780」。ケース径は48mmで、材質はブラックPVD加工のSS、18KRG、ブラックPVD加工のSS+18KRGの3種類。ブラックとホワイト、2種のダイヤルカラーとの組み合わせで、計4モデルがラインナップされる。ストラップはすべてクロコダイル。50m防水。
価格設定に関しても挑戦的だ。スイス製高級時計のトゥールビヨンといえば、1,000万円近い価格設定も珍しくない。しかし、「シルバーストーン・トゥールビヨグラフ」は470万円~630万円(税抜)という、トゥールビヨンとしては非常に求めやすい価格となっている。2011年6月発売。