まず、極めて実用的な機能から挙げると、地磁気センサーを利用した方位計測が挙げられる。かつてのPROTREKでは0~359°までの方位角や液晶表示の指針によって方角を知るものが主だったが、PRW-5000の場合はアナログ針を搭載していることを生かし、方位計測モードに切り替えると秒針が北を指すので、より直感的に方角を知ることが可能だ。

方位計測モードにすると秒針が北を指し、液晶部には方位が表示される

例えば、初めて降りた駅で周辺案内図を見るときなど、自分が今どの方角を向いているかがわからないと、地図は用を足さない。地図が掲げられている場所が駅の中であったり、夜で周囲の目印がわからなかったりすると、地図ひとつ読むのにも案外時間がかかるものだが、PROTREKがあれば一瞬だ。最近はGPSなどを搭載し地図を確認できるデジタル機器も多いが、わざわざポケットやカバンの中から取りだして、メニューをたどって操作するよりも、手元でワンプッシュするだけなので圧倒的に早い。

2年ぶりに訪れた大阪駅で、目的の訪問先へはどの出口から外に出るのが良いか迷ったが、地図の前で方位を計測してすぐに進むべき方向がわかった

海外へ出かけたときなどは特に役に立った。一般に交通網での案内表示は日本よりも簡素で、地名もわからない。空港駅のプラットフォームにすべり込んできた電車が西行きなのか東行きなのか、すぐに知ることができるだけでも便利だった

ちなみに、渡航先の時間帯をあらかじめ「ワールドタイム」に設定しておけば、到着時にモードを「ホームタイム(日本時間)」からワールドタイムに切り替えるだけで時差の修正が完了する。この操作体系は使いやすかった

実用性に加えて面白さを感じられたのが、気圧センサーによって実現される機能だ。

気圧センサーから気圧の値(液晶部に表示)を得られるほか、気圧変化を元にした天候予測(秒針が3時位置よりも12時寄り回復傾向、6時寄りなら下り坂)、高度計測も可能となっている

何より、この小さな時計で自分が今いる場所の高度が計測できるということ自体が新鮮だ。PROTREKの試用を始めて間もないころ、京都へ出かける機会があったので帰りの新幹線に乗る前に京都タワーを訪れ、高度計を見ながらエレベーターで展望台へ上がったところ、高さ約100mの位置での手元の高度表示は100~105mだった。

京都への出張の帰り、少し時間があったので駅前の京都タワーを訪れてみた

高さ約100mの展望台で、PROTREKの高度計は105mを指した。高度表示は5m刻みとなっている

その後も高さがわかる建物を訪れるときはまず地上で高度計をゼロにセットしてから上るようにしていたのだが、ほとんどの場所で誤差は1ステップ以内に収まっていた。この小さな気圧センサーではもっと大きな誤差が出ると考えていたが、これだけの精度が得られるというのは驚きだった。

そのほか、ここしばらくは海外へ出かける機会が多く、取材でシンガポールへ、観光でアラブ首長国連邦のドバイへ行ったのだが、もちろんPROTREKを持参した。いずれも訪れる場所は都市部であり、PROTREKのアウトドア機能が本来の意味で威力を発揮するシーンではないと考えられるが、出かける先々で方位や高度、気温などを測ってみると、これが意外と楽しい。

旅行から帰った後、単に高いところへ行った、旅先は暑かったと感覚的な思い出を語ることは誰でも可能だろうが、PROTREKの文字板を撮った写真を見返してみると、旅先のさまざまな記憶をよりリアルに思い出すことができる。そもそもPROTREKを持っていなければ、出かけた先で高さや方角に意識が向くこともなかったので、その意味では腕時計というツールが、自分の興味関心の幅を少し広げてくれたということが言えるだろう。

温度計測時は体温の影響を防ぐため腕から外して計測する。シンガポールは年間を通じて暑い

世界の観光名所の中でも最も有名な「がっかり」物件と言われるマーライオンだが、筆者が想像していたよりはずいぶん大きく、残念ながらあまりがっかりできなかった

PROTREKを持っていなければ、マーライオンがどの方角に水を飛ばしているのかなど気にすることもなかっただろう

世界で最も高い建築物であるドバイの超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」(828m)

展望台から見下ろすドバイの開発地域

残念ながら観光客が上れるのは高さ440mあまりの場所にある展望台まで。それより上はビル入居者専用だ

飛行機が高度35,000フィート付近を飛行中、試しに気圧を測ってみたら地上よりも2割以上低い値だった。筆者はどんなに目がさえているときも飛行機に乗るとすぐに眠くなってしまうのだが、もしかすると気圧が関係しているのかもしれない

筆者は以前、PROTREKの持つ機能を実際にフィールドで試すためのツアーとして富士登山に連れ出されたことがあった

普段は完全なインドア派で登山の知識もないため、PROTREKがどれほど実戦的な製品であるのかを正確に理解できたかは微妙なところだが、そのとき確かに実感できたのは、登山道のところどころに立っている「○合目 山頂まで△△m」という標識だけを見ながら登っていくよりも、自分が今いる位置の高度をリアルタイムで確認しながら、手元の数値が「3,775」になる地点を目指していくほうがより高い達成感を得られる――平たく言えば、きつい坂道を歩くのも楽しくなる――ということだった。

何十回もの富士登山の経験がある超ベテランが同行しているので、自分で高度や気圧を知らなくてもまったく不安はなく、本来であれば必ずしもPROTREKを身につける必要はない登山だったが、それでも自分が歩を運ぶのに従って数値が増減するのを見ると、登山道を行き来すること自体の楽しさが増えた。

慢性的な運動不足の筆者が富士山に登るのは体力面ではきつかったが、刻々と変化していく数字を見ながらだとゲームのような感覚で頂上まで楽しく歩いていくことができた

都会での日常生活でPROTREKを使う意味は、アウトドアの素人である筆者でも登山中に実感できたこの製品の面白さと同じようなところにあるのだろう。今回、PROTREKで測った方位と地図とを見比べるといった形で、都会においても実用的なツールとして使用できることが確認できたが、個人的な感想としてはそれ以上に、さまざまなデータをリアルタイムに得られるセンサーを、身につける形で常時携帯できること自体の楽しさを感じることができた。

おそらくそれは冒頭の、現代において腕時計にどんな役割を期待するかという問いにもつながる。高度なツールを身につけることで日常に楽しさがプラスされたり、それまでとは少し違った視点に気付いたりするといった点では、PROTREKはまさにこれでしか得られない魅力を持つ製品であり、実用的なアウトドアツールにとどまらない、さまざまな価値を提供してくれるアイテムということができるだろう。