東京にいながら、地方の商品に触れられるアンテナショップ。今、東日本大震災で被災した県のアンテナショップを訪ねる人が増えているという。被害が特に大きい、岩手/宮城/福島3県のアンテナショップを取材した。

被災情報提供、義援金受付も

3県いずれのアンテナショップでも共通しているのは、やはり空っぽの棚が目立つこと。交通網の問題や、商品の生産地の被災など、その理由はさまざま。それでも、道路など少しずつ復旧が進んできているので、早く以前のように商品が並ぶことを祈るばかりだ。

普段に比べれば購入できる商品は限られているものの、客はひっきりなしにやってきていた。また、被災地の情報や義援金の受付なども行われている。どのアンテナショップでも、予想以上の義援金が集まっているとのことだった。

いわて銀河プラザ

現在、工事が行われている歌舞伎座の斜め前にある「いわて銀河プラザ」。南部鉄器や岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)などの工芸品も充実している。岩谷堂箪笥は、奥州藤原氏が産業を奨励した平安時代末期に始まったとされる歴史がある。南部鉄器は、最近、ヨーロッパなど海外でも人気が高い。

一番人気の商品は、岩手県産豚を使用した「ショルダーベーコン」。現在、入荷はされていない状況だが、販売の再開が待ち遠しい。「三陸海宝漬」は、あわび、いくら、めかぶ、シシャモの卵などを漬け込んだ贅沢この上ない逸品。

「毎朝、岩手から運ばれてくるお弁当もまだ再開されていませんし、海産物については、この先の見通しが立っていません。それでも、商品を買っていかれるお客様もいらっしゃいます」。岩手県東京事務所主任の大竹幾子(ちかこ)さんは、そう話した。

いわて銀河プラザ。観光PRキャラクターの「わんこきょうだい」が出迎えてくれる

どっしりとした風貌でぬくもりも感じられる岩谷堂箪笥

まさに三陸の宝がふんだんに使われた三陸海宝漬

交通状況や避難状況を詳細に記した地図も張り出されている

宮城ふるさとプラザ

池袋駅東口から徒歩約2分。「宮城ふるさとプラザ」の入口では、この日、鴨団子といわし団子の販売会が行われていて、店内には威勢のいい掛け声が飛んでいた。「震災後は、普段よりお客様が多くなりました。義援金も多くの方にご協力いただき、本当に感謝しています」と、宮城県物産振興協会主事の大蔵国孝さんは話す。

宮城県といえば、まず思い浮かぶのは「牛タン」。店の奥にはレストランも併設されていて、いろいろな牛タン料理を味わうことができる。レトルトなどの商品ももちろん充実している。気仙沼産の「フカヒレ濃縮スープ」も目を引いた。

人気商品のひとつとして大蔵さんが紹介してくれたのは「白石温麺(うーめん)」。400年ほど前、胃病の父親に親孝行の息子が、油を使わない消化の良いものをと考え、つくったとされ、白石城主の片倉小十郎が、その温かい思いやりの心をたたえて「温麺」と名付けたと伝えられる。恥ずかしながら筆者は知らなかったが、こういう発見があるのも、アンテナショップならではのことだ。

宮城ふるさとプラザは、牛タンが味わえるレストランも併設されている

プラザ内のレストラン「伊達の牛たん本舗」。定食やシチュー、カレーなどが用意されている

牛タン、ふかひれなどのレトルト商品もたいへん充実している

白石温麺。中には戦国BASARAとコラボレーションしたパッケージもある

福島県八重洲観光交流館

「福島県八重洲観光交流館」があるのは、八重洲ブックセンターのすぐ近く。東京駅八重洲口から徒歩5分ほどだ。館長の鈴木裕(ゆたか)さんは、「普通に商品を買い求められるお客様はもちろんのこと、応援に来られる方もいらっしゃって感激しています」と話す。わざわざ義援金のために足を運んだり、商品を買うことで応援の気持ちを表す「応援購入」をする人は少なくないという。

数年前に会津地方をめぐったことがあるが、ホタテの貝柱でとったダシ汁にサトイモやしらたきなどの具がいっぱい入った「こづゆ」や「鰊(にしん)の山椒漬」など、懐かしい商品に目を引かれた。ふるさとの素朴さと贅沢さが詰まったような味わいが思い出される。

「こちらもなかなか貴重なんですよ」。鈴木さんが教えてくれたのは「きてくたされ」という名前のお菓子。会津坂下(ばんげ)に本社がある太郎庵のミルク金時まんじゅうなのだが、福島県でも会津地方でしか販売されていないものだ。それが、ここでは売られている。そういう意味で本当に貴重な商品なのである。

福島県八重洲観光交流館。ショーウインドーには、いろいろな工芸品も陳列されている

交通機関情報もあり、こちらの確認に来ている人も少なくなかった

こづゆや鰊の山椒漬は、昔から知られる福島県の名産品

「きてくたされ」のパッケージには、福島県出身の野口英世と母シカの肖像が描かれている

これからも、見守りたいという気持ちに

今回、3つのアンテナショップを訪ねて感じたのは、「いかに自分がこれらの県を知らなかったのか」ということだった。なんとなく名物は思い浮かぶ、漠然とだがイメージも持っている、しかし、それはテレビや雑誌などの情報によるものばかり。もちろん、アンテナショップを訪ねたからといって、その県や地方を知ったことにはならないが、必ず発見があるに違いない。

訪ねたことがない人には、ぜひ足を運ぶことをおすすめしたい。もちろん、何かを購入するのがいいかもしれないが、商品を眺めるだけでもいい。取材に応じていただいたお三方はどなたも、「たくさんの人に来てもらえるだけで励みになる」と言っていた。

アンテナショップに行けば、その県はぐっと身近に感じられる。今は空っぽの棚も、次第に元の姿を取り戻していく。時々立ち寄れば、その復興への実感が共有できる。これからも、それぞれのアンテナショップを見守っていきたいと感じた。