米Appleがサンフランシスコで開催した「iPad 2」発表イベント、壇上に現れたのは療養休暇中のSteve Jobs氏 (Apple CEO)だった。スタンディングオベーションで迎える聴衆に、まず「時間をかけて取り組んできた製品だったから、今日は欠席したくはなかった」と語った。しかし療養を中断して無理に参加しているような様子ではなかった。キーノート全体の半分以上を同氏が担当。iPad 2をアピールする姿はいつもと変わらず、iPad以外のタブレットの台頭に対しては「2011年はコピーキャット(猿真似)の年になるのか?」とJobs節を炸裂させていた。
iPhone出荷は1億台、App Storeから開発者への支払いは20億ドル
キーノートは、いつもと同じようにAppleのマイルストーン到達を紹介する情報アップデートから始まった。
iBookstoreでの本のダウンロード数の累計が"1億冊"を突破。またRandom Houseの同ストア参入を発表。これにより6大出版社が揃った
iTunes Store、App Store、iBookstoreを利用するためにクレジットカードを登録しているApple IDアカウント数が"2億"に到達。Amazonが同様のデータを公表していないが、「クレジットカード情報を備えたアカウント数では、おそらくインターネットで最多だろう」とJobs氏
App Storeを利用している開発者に支払った額の累計が"20億ドル"を突破
iPhoneの出荷数が1億台に到達
続いて、この日の本題であるタブレットに話題が移った。昨年1月末にJobs氏が同じ場所で自信満々にiPadを「マジカルで革新的な製品」とアピールしたときには、失笑するような反応も見られた。ところがiPadは、2010年に発売から9カ月間で1500万台が売れた。これは過去のTablet PCの販売台数の累計よりも多いそうだ。売上高は95億ドル弱。そしてタブレット市場において90%以上のシェアを獲得した。iPadが残してきた数字をふり返ると間違いなく「2010年はiPadの年だった」(Jobs氏)。
2011年に入ってライバルがこぞってタブレットを投入し始めたことに話題を広げたところで、前述の「2011年はコピーキャットの年になるのか?」という皮肉を込めた一言。「Appleは何も(心配してはいない)……たぶん少しは、まぁちょっとぐらいかな。なぜなら、ほとんどのタブレットはまだ初代iPadにも追いついていないからだ」と断言し、そして「我々はさらに、とどまることなく先に進む」と述べてiPad 2を発表した。
65,000対100、歴然としたプラットフォーム力の差
iPad 2の仕様や機能については「AppleiPad 2発表、高速・軽量に - 日本発売は3月25日」や「iPad 2速攻レポート(前編) 新しいiPadは薄いぞ! 軽いぞ! 速いぞ!」を読んでいただくとして、本稿ではキーノートにおいてJobs氏がいかにライバルのタブレットに対するiPad 2の優位性を説いたかにスポットライトを当てる。
iPad 2はカメラを搭載し、A5プロセッサの採用で処理能力が大幅に向上した。しかしハードウエア仕様だけを比較すれば、発表済みのAndroid Honeycombタブレットを凌駕するような内容ではない。むしろ採用企業の多いAndroidに早晩逆転されそうな様相になってきたように思う。それにも関わらずJobs氏がiPadのリードを確信しているポイントは2つ。「ポストPCデバイス」と「タブレット用アプリ」だ。
同氏はiPadを「第3のポストPCブロックバスター製品」と表現した。第1の製品は2001年に登場したiPod、第2の製品はiPhoneである。では、Androidタブレットは何なのかというと「タブレット市場に参入してくるグループは、これ(タブレット)を"次のPC"と見ている。ハードウエアとソフトウエアを異なった企業が手がけ、そして相変わらずPC時代と同じようにスピードやフィードの話ばかりをしている」とした。ポストPCデバイスは技術がユーザーのためのソリューションとなるような製品であり、ハードウエア/ソフトウエア/アプリケーションがシームレスな相乗効果を生み出す。PCよりも使いやすく、直観的に使用できるものであるべきだとした。
Jobs氏が指摘したポストPCデバイスの利用体験は、11日に登場するiPad用の「iMovie」(4.99ドル)と「GarageBand」(同)によく現れている。iMovieではビデオクリップを指先でトリムしたり、移動させたり、伸ばしたりしながら音楽や効果音も付けたビデオ作品に仕上げられる。GarageBandでは、たとえ楽器を弾けなくてもスマート機能を活用して誰でも上手に演奏でき、タブレット上で8chの演奏をミックスできる。どちらもプロ向けやハイアマチュア向けのアプリケーションではないものの、アマチュア離れしたビデオや音楽をだれでも簡単に作れるのがポイント。同じことをPCでもできるだろうか? 時間と努力を重ねれば可能だが、やはり一手間であり、一般ユーザーの多くにとっては始めるのに少し覚悟がいる。ビデオ編集や音楽制作のような専門色ただようエンターテインメントを、汗をかかずに簡単・身近に楽しめるところが、iPadがポストPCデバイスたる所以である。
「1GHz動作のデュアルコアプロセッサ」は、いまや驚くような仕様ではない。高機能なアプリがスムースに動作するタブレットは他にも存在する。だがiPad 2は同時に、8.8mmの薄さ、最長10時間のバッテリー駆動時間、iMovieやGarageBandなどに見られる直観的な操作を実現している。バランスのよい優れた利用体験は、まだまだライバルの追随を許していないというわけだ。
キーノートでは全体の3割ぐらいの長い時間がiMovieとGarageBandのデモに費やされた。Appleがソリューションを重視しているからだろう。ハードウエアスペックからでは、その製品がユーザーの必要を満たしてくれる製品、または便利な製品であるかは分からない。iMovieやGarageBandのようなハードウエアとOSの能力をアプリが十分に引き出す具体例を見せることでソリューションの可能性が伝わる。
iMovieとGarageBandはAppleによるアプリケーションだが、iPad 2で実現するソリューションの幅を広げるのはサードパーティのアプリである。現在App Storeでは350,000本以上のアプリが配信されているが、そのうちiPadに最適化されたアプリがすでに65,000本を超えている。Jobs氏によるとAndroid 3.0 Honeycomb向けのアプリは、せいぜい100本程度。プラットフォームとして比べると、タブレット市場におけるiOSとAndroidの差は依然として離れている。