XMLがコンテンツ制作のポイントになる理由とは?
さて、このQuarkXPress 9発表のタイミングに合わせて来日し、記者発表やPAGE 2011の会場でセミナーを行ったPGバートレット氏は、現在のQuark社の中で製品開発および製品マーケティング業務をすべて指揮する人物である。もともとエンタープライズ市場向けの自動パブリッシング分野で手腕を発揮し、とくにXMLを使った出版物制作には造詣が深い。
とはいえ、XMLをパブリッシング市場に持ち込むということは言葉で言うほど簡単なことではない。とくに日本では、XMLを使った出版物制作は特殊な分野でしか例のないことだろう。では、欧米ではどのような状況なのだろうか。
「これは私が見てきた印象ですが、技術文書の作成に関してはXMLが使われることがほとんどですね。XMLベースのオーサリングに動きつつあるなと感じてはいますが、まだそれは始まったばかりです。たとえば、米国政府は諜報情報の取得と編纂にXML文書を使用しています。これは、情報の中からいかに重要なものをピックアップするかに主眼を置いているので、タグを付けて情報の取捨選択が行えるXMLが向いているということですね。また、アイルランド政府では現在8,000人ほどの人が『XML Author』を使用されています。その中には、首相も含まれているんですよ。ただ、マーケット全体で見るとXMLの普及率は1~2%といった具合でメジャーなものではありません。誰が使うかと聞かれると、やはりライターやコンテンツ作成者が使うべきなのでしょうね。そうして出来上がったXMLデータをデザイナーが受け取れば、レイアウトもスムーズに進めることができます。そのため我々は、WordにXML Authorを対応させることにこだわって製品開発を行いました。何か特殊なツールを使わないとXML文書を作成できないとなると、ライターの方は使うことができませんよね」
XML文書によるテキストは、いわばレイアウトに紐付けされた自動化のベースになる。見出しや本文、キャプションと言った要素すべてにタグを付け、デザイナーに渡せばあとは読み込むだけで初期段階の作業が終了してしまう。
「XML AutherではWordの機能の中にある見出しや本文と言った要素を使用しているので、実際にライターの方が普段行われている作業の中でXML文書を作ることができます。見た目は単なるWord文書ですが、然るべきソフトで開けばきちんと構造化文書になっているというしくみです。そのため、印刷物を作るという目的以外でも、XML文書によってひとつのコンテンツをさまざまに活用するときにも必要な情報を抽出して組み上げることができるわけです」
とはいえ、これまで「紙」という固定された媒体のためにレイアウトを考えてきた私たちにとって、いきなり電子出版、情報を抽出してパーソナライズ出版を行うと言われても取り組むことは難しい。
「たしかに、XML文書の活用は次のステップと言うことになるでしょう。まずは電子化を進めること。これは単にデジタルデータとしてコンテンツを残すだけではなく、次に使える形を意識した電子化への対応ということです。たとえば図鑑的なものから必要なページだけを抽出したファイリング的な冊子を作るといったカスタマイズを行うことは今すぐでも可能かもしれません」
Quark Publishing Systemを軸にXML Autherで文書を作成しQuarkXPress 9でレイアウト。その上で「App Studio for QuarkXPress」でiPad用アプリを作成したりEPUB形式に書き出したり。単にQuarkXPressをレイアウトソフトとして完結するだけでない、その先の配信までを考えているのが、新たなQuark社の大きな柱となっている。
これまで活用されてきたQuarkXPressによって生まれた資産をどのように活用するか、そのためにQuark社は何をするべきなのか。これを真摯に考え今回紹介されたのがQuark社のパブリッシングソリューションである。「コンテンツを作るアプリケーションは、QuarkXPress以外のものでも構わない。使う人の環境を変えずに、Quark Publishing Systemであらゆるメディアに対応するものに作り替える」という発想は、クローズになりがちなソフトウェアメーカーにこれまで無かったものと言えるだろう。新しいQuarkXPressの登場と合わせて、さらに注目が高まっていきそうだ。