新たなUIや各種サービスの展開も世界中で進む

LTEなどの新たなインフラができ、スマートフォンやタブレットといった新しい端末が登場してきたが、さらに細かな仕様変更や、これらの端末をさらに改善するといった技術も登場している。例えば、英国のベンチャーInput Dynamicsは携帯機器を軽く叩くたけでそれがコマンドとなるユーザーインタフェース(UI)技術を開発した(図4)。携帯電話機のどこを叩いてもその違いを検出するため、拡大・縮小・回転などのコマンドを多数設定できる。これはマイクロフォンから音を拾いコマンドに対応させるもので、携帯電話のどこを叩いても信号に変換できるので、画面の小さな携帯電話にも使える。

図4 Input Dynamicsが開発したタップによるコマンド入力画面。画面は2回タップの場合を行っている様子

あるいは音声認識ソフトウェアメーカー、仏Nuance Communicationsは、スマートフォンに音声認識ソフトを入れ、ブラウザの検索に音声入力を利用する技術を開発してきたが(iPhoneにも使われていると言われている)、今回のMWCでは「キヤノンカメラ」と発声すると、キヤノンのカメラカタログ一覧表を表示するデモを見せた。単なる音声入力から、一歩進んだ先のデータを示そうという訳だ。

AppleのiPhoneやiPadを使って、血圧と心拍数を測り、そのデータを例えばiPhoneに自動的にとり込み記録するソフトとハード(ドッキングステーション)を米iHealthが提供しているが、同社はこのデモを見せていた。毎日の体調変化や状態を常に自動的に記録できるため、具合の悪い数値や調子の悪い状態が続けば医者にデータを伝送し、病院で詳しく診察してもらうことができる。医師も患者の正確なデータを知ることができ、病気を的確に診断できる。

組み込み分野での3G/LTE化も進む

3Gネットワークを利用するM2M(machine to machine)データ通信サービスでも必要なソフトやハードが登場している。さらに高速性が必要ならLTEネットワークにつなげても良いが当分は3Gでことが足りそうだ。ハード的には、通信モジュールやSIMカードを携帯電話以外に入れ、機械の中のデータを送受信する。

M2Mを用いることで、自動販売機に取り付けてビールやジュースがあと何個残っているかを把握し、いつ補充するのが最適になるのかを知ることができる。電力メーターに取り付けるとスマートメーターになる。デジタルサイネージと呼ばれる新しい広告ボードにもM2Mを使う。あるいはアルツハイマー病などにかかり徘徊するようになってしまった人の衣服に縫い付けると見失うことがなくなる。Amazon.comの電子ブックであるKindleやメディアタブレットに内蔵するといつでもインターネットからコンテンツをダウンロードできる。輸送車両に取り付け、そのトラッキングによって流通状況を把握するという応用もある。さまざまなモノに取り付けることで通信できるようにするのがM2Mである。

しかし、いくらハードウェアにそうした機能があってもそれを自由に動かすことのできるソフトウェアが必要になる。好きな時に情報を引き出し、あるいは情報を送り、業務に生かしたり効率を上げたりするのを助けることなどを目的としたM2M用のソフトウェアの開発に注力しているソフトベンダもいる。

M2Mに必要なソフトウェアやハードウェアを使って、M2M通信のエコシステムを構築しようという動きが英国を中心に起きている。SME(small and medium enterprises:中小企業)と呼ばれるベンチャーのような企業がこういったエコシステムを形成する。

例えば、英Signageliveは、M2Mを取り付けたデジタルサイネージの広告ボードに流すコンテンツを管理するソフトウェアを開発している。9時から10時まではパソコンの広告、10時から10時半までは食品メーカーの広告、あるいは1時間内に交互に流す、といったプログラムを音楽プレーヤーのプレイリストを作るような要領でコンテンツを並べていけるソフトだ。広告コンテンツの放送をいとも簡単に制作できる。

同じく英国のduddiは、高齢者が自由に動いきまわれるようなM2Mモジュールを開発している。高齢者がもし転倒したらMEMSセンサによって転倒情報をM2Mによって送信することで遠く離れていても見守ることができる。GPSを内蔵して位置をモニタすることも可能だ。

さらに英Stream CommunicationsはM2Mと遠隔操作を利用してネットワークを校正するMVNO事業者であるが、「Oasys」と呼ぶソフトウェアを使って、M2MモジュールやSIMカードを管理し、M2Mを利用するメンバーの支払いも管理する。SIMの設定からサービス入会退会管理、請求書のダウンロードなどを行う、運用ソフトである。

こういったそれぞれ専門の企業同士からなるエコシステムを作り上げることで、M2Mの普及と利用が進むことになる。