エムアップは17日、電子書籍の新レーベル「デジタルブックファクトリー」設立を発表した。同レーベル第1弾作品として、作家の伊集院静氏らによる『なぎさホテル』(伊集院静 著/ 宮澤正明 写真/ 井上陽水 音楽)を発売する。
デジタルブックファクトリーは、活字・音楽・写真・映像を融合させた、新しい表現の電子書籍の確立を目的として設立。運営はエムアップが行い、写真家の宮澤正明氏が監修を務める。同社代表取締役の美藤宏一郎氏は、設立のきっかけが「電子書籍にしかできないことって、まだまだたくさんあるはずなんだよね」という伊集院氏の言葉だったと説明。同社では、携帯およびインターネットにより音楽配信やアーティストのファンサイトなどのコンテンツサービスを展開していることから、「会社の特徴を活かし、電子書籍で音楽や映像と活字との架け橋になれるのではないかと考えた」と、設立への想いを語った。
また、同レーベルでは、「作家や写真家、アーティストが意欲的な創作活動を行える環境を作りたい」(美藤氏)という想いから、印税率を40%~55%に設定。美藤氏は、「(この印税率で)黒字化できる勝算はないのが本当のところ」と明かし、「音楽配信やアーティストのファンサイトなどのコンテンツで(当社は)回っている。印税率の設定は、新しいソフト・コンテンツに対する投資の意味や、"ものを作る喜び"というのが大きい」と話した。写真集などと音楽のコラボレーションなども考えているとのことで、「音楽業界にとっての新しい表現の形が確立できれば」とも。
年間で10冊程度を展開していく予定としている。現在はiPhone/ iPad向けの配信のみだが、Android搭載端末へも対応する予定だ。
設立のきっかけを作った伊集院氏は、同レーベル第1弾として、宮澤氏と歌手・井上陽水氏とのコラボレートによる『なぎさホテル』を発表。かねてから「活字に音楽や映像がつけられれば面白い」と考えていたという伊集院氏は、本作について「従来の書籍の作り方ではすぐには実現できなかったと思う」と述べ、「エムアップでは、(従来の紙の書籍とは)発想や作り方が全く違う。これからの時代に向けての可能性を感じた」と話した。売上については、「利益が出るほど売れないかもしれないと思っている。赤字になるかもしれないが、時代に先駆けて最初にやることが大事。いち早くやることが、将来レーベルとしての信頼につながる」とも語った。
なお、『なぎさホテル』は、伊集院氏が作家デビュー前に約7年暮らしていた「逗子・なぎさホテル」での思い出を綴ったエッセイ。宮澤氏が約20年前に伊集院氏の依頼を受けて撮影したなぎさホテルの取り壊し直前の写真と、井上陽水氏が主題歌として提供した楽曲『TWIN SHADOW』との融合によって、作品の世界観を作り上げている。また、伊集院氏が約20年ぶりにホテル跡地を訪れ、夏目雅子さんとの思い出を語ったインタビュー映像なども収録している。
伊集院氏は現在、次回作となる『男の流儀入門』を製作中。冠婚葬祭のマナーや博打の打ち方、京都・祇園での遊び方といった"男の流儀"を映像なども交えて指南する内容だという。