2月4日から劇場公開されているオリバー・ストーン監督の映画『ウォール・ストリート』には、本物のヘッジファンドマネージャー、クリスチャン・バハ氏が出演している。前回は、スーパーファンドの創立者であるバハ氏に、映画に出演した経緯などについて話していただいた。今回はさらに、「リーマン・ショックに端を発する"金融危機"とは何だったのか?」などについてインタビューした。

スーパーファンド創立者兼オーナーのクリスチャン・バハ氏に、「金融危機とは何だったのか?」などについて聞いた

「ウォール街」を見たことが、ヘッジファンド創立の契機に

――オリバー・ストーン監督の「ウォール街」(1987年に米国で公開)を見たことが、ファンドマネージャーを目指す1つのきっかけとなったとおっしゃっていました。スーパーファンド設立にあたっての理念について、お聞かせいただけませんでしょうか?

スーパーファンドの最大の投資家は私自身であり、私は投資商品をまず自分のために作りました。自分が本当に必要と思う商品を、広く一般に開くことによって、多くの人たちに提供したいという思いで、ファンドを立ち上げました。理念は、個人投資家でも機関投資家でも、あらゆるポートフォリオのリスクを軽減し、同時にリターンを上昇させることです。

――スーパーファンドは、個人投資家に間口を広げているのも特徴ですよね。

それまでのヘッジファンドは、富裕層に対してしか提供してなかったのですが、それは個人投資家に対して不公平だと思っていました。ヘッジファンドの戦略にもよりますけれども、リスクを低下させてパフォーマンスを上昇させることができる可能性を持っています。にもかかわらず、それが富裕層にだけしか提供されないのは、やはりおかしいと思いまして、一般の投資家にも手が出せる形のものを作ろうと思いました。

――スーパーファンドのもう1つの大きな特徴として、システムでの運用が挙げられますね。これも、投資理念にかなうものですか?

私の投資理念を実現するためには、人間の感情を排除する必要がありました。そのためには、完全にコンピューター化されたトレーディング・システムでなければ、実現することは不可能なのです。市場の動きは非常に速いですし、人間が投資の判断をする、つまりファンドマネージャーが自分の考えによって売り買いするということですが、それ自体を信頼していません。コンピューターであれば、過去に起きたことについて実際にバックテストすることができますが、人間ではできません。ルールを決めてアルゴリズムを使って取引を行い、ロスカットも含めてセッティングがなされていれば、きちんとした取引ができます。コンピューターは、嘘をつかないのです。

――「ウォール街」を見てヘッジファンドマネージャーになろうと思ってから、何年で夢を実現できましたか?

1992年に警察官を辞めて金融ソフトウェアの会社(TeleTrader)を作り、1995年にスーパーファンドを設立しましたから、6~7年でしょうか。設立当初も、テクニカル分析を基にした取引を行ってはいましたが、最終的な投資判断は人間が行っていました。現在のように完全に自動化されたトレーディング・システムは、1997年の10月からスタートしました。

主人公のジェイコブ・ムーアを演じたシャイア・ラブーフ氏(左)とクリスチャン・バハ氏(写真提供:スーパーファンド)

政府による「紙幣の増発」は金融危機の1つの要因に

――スーパーファンドは、今や世界に展開していますね。

世界に14のオフィスを構えています。国の数では、12カ国に展開しています。その中でも日本と米国は重要な市場として挙げられます。ヘッジファンド会社の中では、最も世界各地で展開しているヘッジファンド会社の1つだと思っています。その理由として、まず個人投資家向けに門戸を開いたということが挙げられます。また、金価格に連動させた商品を2005年に初めて提供し、投資の世界に「ゴールド・スタンダード」を復活させました。

――スーパーファンドが、さまざまな点で従来のヘッジファンドを異なっていることはよく分かりました。一方、リーマン・ショック後の金融危機においては、金融機関の責任が指摘されています。危機を引き起こした金融機関は、何が問題だったのでしょうか?

あの危機が起きたのは、本当にいろんな要因が重なっているので、一口には言えませんが、(1)各国の銀行の負債が高まっていて、当時クレジットということで、信用がどんどん市場に出回った、(2)政府が紙幣を増発した、(3)政府が破綻した企業を救うためにお金をたくさん使い、その結果として金融システムそのものがかなり疲弊している状態になった、ことなどが挙げられます。

ただ、私の見解としては、リーマン・ショックとその後の金融危機は、比較的まだ小さいものであったと考えています。この先も米国のいくつかの州や欧州各国で、銀行破たんや財政危機のような状況が起きるかもしれないと思っています。

――リーマン・ショックは、小さい危機であると?

はい。ですので、個人投資家にとって一番信用できる資産としては、金・銀の現物を保有するべきだと思っています。そのほかに投資すべき対象としては、(1)金・銀の現物のほかに、(2)農業ができるような土地ですとか、養鶏ができるような土地ですとか、実際に自分の口に入れることができるものを栽培したり育てたりということが可能な土地、を買うのもいいと思います。

3つ目として、定量的な分析に基づくファンドであり、特にスーパーファンドの株式マーケットニュートラルファンド(スーパーファンド・ブルー・ゴールド)をおすすめしたいと思います。私は自分で良いと思うものしかおすすめしませんし、私自身の資産配分もこのようにしています。

筆者の下手な英語での発言にも、バハ氏は笑顔で応じてくれた

――スーパーファンドは、2008年のリーマン・ショックを、どう乗り越えましたか?

2008年は世間では一般的に非常に悪い年でしたけれども、マネージド・フューチャーズ戦略を使ったファンドは、ボラテリティの違いで変わってくるのですが、Aは前年比プラス35%、Bはプラス50%、Cはプラス74%と、高いパフォーマンスをあげました。これらの商品は、世の中で大きく物事が変わる時に、収益を上げるタイプの性格を持っています。株式マーケットニュートラル戦略を使ったファンドも、前年比プラス24%でした。

――スーパーファンドは、リーマン・ショックを逆にチャンスとしたわけですね。今後また、リーマン・ショック以上の危機が起きるとさきほどおっしゃいましたが、それを避けるために、世界の金融機関や政府は、今後どのような行動をとるべきでしょうか?

まず、金融業界全体で負債を減らしていくべきだと考えます。紙幣の増発はやめて、政府自体が国債を買い戻すようなこともやめるべきです。本音を言えば、政府が破綻した銀行などを救済する必要もありません。というのも、銀行の救済にはお金がかかることですし、そのためには、またお金を増発していかなければなりません。増発が続けば、その結果として、日本国債、米国債、ドイツ国債の価値が失われてしまうことにもなります。

現在の日本の株式市場には、力強い投資家のみ

――日本市場については、今後、どうなると思いますか?

さきほど申し上げたように、スーパーファンドにとって日本は重要な市場です。日本の会社の中には、非常に良い企業がたくさんあり、世界的に展開していて、ブランドも確立している企業が多いです。私は株式を全く持っていませんが、もしどこかの株式に投資しなければならないような状況になった場合には、欧米の株式ではなく、日本株を選びます。

――それはなぜですか?

日本株、特に日経平均を見ると、過去20年間にわたって低迷を続けています。これに対して、欧米株はまだ高値に近く、低迷期は10年ほどです。つまり、日本の市場には、力強い投資家しか残っておらず、脆弱(ぜいじゃく)な投資家は日本市場からすでに離れていると考えられます。日本市場がこれから回復する余地は、欧米に比べて大きく見えますし、これから3~5年の間には、相対的な回復が見られると思っています。

――日本市場はこれから期待が持てるということですね。ありがとうございました。

(インタビュー写真 : 高橋淳司)