2月4日から劇場公開されているオリバー・ストーン監督の映画「ウォール・ストリート」。同映画は、金融危機後の米国を舞台にしているが、その映画に、本物のヘッジファンドマネージャー、クリスチャン・バハ氏が出演している。今回は、スーパーファンドの創立者であるバハ氏に、映画に出演したきっかけや、金融危機とは何だったのかについてインタビューした。

スーパーファンド創立者兼オーナーのクリスチャン・バハ氏

クリスチャン・バハ氏は、1968年オーストリア生まれ。1995年にファンド運用会社であるスーパーファンドを設立し、現在そのオーナー。スーパーファンドは、すべてのファンドに完全自動化トレーディング・システムを採用し、運用から人間の感情を排除している。また、最低投資金額を引き下げることにより、個人投資家によるシステム運用ファンドへの投資を可能にした。世界の主要都市に14のオフィスを構え、国際展開を実現している。

自身の職業と同じ「ヘッジファンドマネージャー」の役として出演

――映画『ウォール・ストリート』に、ご自身の職業と同じヘッジファンドマネージャーの役として出演されていますが、出演されるきっかけは何だったのでしょうか?

2年前にイタリア・ベネチア国際映画祭でオリバー・ストーン監督と会ったのがきっかけです。実は私は、1987年に公開された監督の作品『ウォール街』を見て、ヘッジファンドマネージャーになりたいと思った経験がありました。そういう事もあって、私のほうから話しかけました。

オリバー・ストーン監督(左)とクリスチャン・バハ氏(写真提供:スーパーファンド)

すると、監督から、金融市場やヘッジファンドマネージャーなどについて、多くの質問があり、二人で1時間以上話し込みました。特に、金についての話や、インフレーションやハイパー・インフレーションの話をした時に、監督は非常に興味深く聞いていました。その後、映画に出てみてはどうかという話をいただき、出演することにしました。

――映画に出演するということで、どのように演じようとされましたか?

自分自身と同じ役をしているので、演じたという意識はありませんでした。

――具体的には、どのようなシーンで演じたのでしょう?

ヘッジファンド会社のオフィスにいて、部下に対して大声で怒鳴るというシーンを演じました。大勢の人やたくさんのカメラの前で、自分の気持ちを込めて怒るというのは、難しかったです。怒るときは、(バハ氏の母国でスーパーファンドの拠点であるオーストリアで話されている)ドイツ語で演じるように、監督から言われましたので、英語版にもかかわらず、ドイツ語で怒りました(笑)。

金融業界の警告を発する2つのシーンが印象に

――映画『ウォール・ストリート』の中で、印象に残っているシーンはどんなシーンでしょうか?

たくさんのシーンがありますが、特に2つのシーンが印象的でした。まず1つ目は、マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーが大学で、自分の本を手にしながら、スピーチをするシーンがありました。ABS(アセット・バックト・セキュリティ、資産担保証券)やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が、金融市場において、まさにステロイド剤ーつまり薬ではあるが劇薬ーであるということを、学生の前で話しています。特に、大学生に向かって、君達は"ニンジャ(NINJA)世代"ーNo Income, No Job, no Assets(収入がなく、仕事がなく、資産がない)世代ーであると話す部分は印象的でした。

――印象に残ったもう1つのシーンとは何ですか?

ニューヨークのゴードン・ゲッコーのマンションで、主人公のジャイコブ・ムーアに、チューリップの球根に対するハイパー・インフレーション、オランダのチューリップ・バブルについての話をするシーンも非常に印象に残っています。

――なぜこの2つのシーンが印象に残ったのでしょうか?

これら2つのシーンには、教育的な側面があります。特に、膨大なレバレッジを掛けた負債、インフレーションやハイパー・インフレーションについて、よく説明がなされています。現在の状況に照らし合わせても、欧米と日本を含めた先進国では、自国債の買戻しや紙幣の増発で、危険な状態にあると認識しています。この状態が続けば、より危険な状況になる可能性もあります。そういったことを教育的に説明しているシーンなので、非常に印象深かったのです。

オリバー・ストーン監督の下、家族的な雰囲気の撮影現場に

――撮影現場の雰囲気についてはどうでしたか?

自分の出番がない場面でも、監督はセットに遊びに来いと言ってくれていたので、自分が出ていないシーンの撮影現場を見ることができました。その結果、いろんな人たちと知り合いになれ、現場の皆さんとファミリーのような感じになりました。

バハ氏は、当初1シーンだけ出演する予定が、結果的に複数のシーンに出ることになったと、笑顔で話してくれた

――オリバー・ストーン監督は、どんな人でしたか?

非常に優秀で知識もたくさんあり、特に、歴史や米国そのもの、金融市場、ベトナム戦争などの戦争などについて、造詣の深い方です。一方で、フレンドリーで話しやすい人でもあります。アシスタントディレクターを通じて指示をするのではなく、自分で積極的に話していくというタイプの監督でした。

以上で、スーパーファンド創立者兼オーナーのバハ氏が、『ウォール・ストリート』に出演することになった経緯と、その撮影現場のイメージが、なんとなく分かっていただけたのではないだろうか。また、バハ氏はインタビューの中で、映画で印象に残ったシーンとして、インフレやハイパー・インフレを挙げながら、現在の金融市場や金融政策についての懸念についても述べていた。

次回は、金融危機はなぜ起こったのか、今後金融機関はどうあるべきかについて、バハ氏がスーパーファンド設立で目指したものなどについても交えながら、話していただいた内容を紹介する。

(インタビュー写真 : 高橋淳司)