セミナーB「メイド・イン・ジャパンの音楽」では、アニメ大国日本を代表する劇判の作曲家がずらり顔を揃えた。eAT'11の総合プロデューサーを川井憲次氏が務めたからこその豪華メンバーに、来場した若きクリエイターの眼も輝く。
登壇メンバーは、コーディネーター役の川井憲次氏。ゲストには「新世紀ヱヴァンゲリオン 慟哭へのモノローグ」、JR東海の「そうだ京都行こう」、「天才テレビ君MAX」などあらゆるジャンルの作曲を手がけてきた大森俊之氏。続いて「ヱヴァンゲリオン新劇場版:破」をはじめ、MISIA、平井堅、SMAPなどへの楽曲提供をする作編曲家・音楽プロデューサーの鷺巣詩郎氏。そして「サクラ大戦」、「ワンピース」、「トップをねらえ!」などを代表作とする田中公平氏の4名で行われた。
セミナーは、日本ならではについてから始まった。日本のアニメやアニメソング、漫画はいまや日本の輸出産業のごとく世界へ広がっている。何がそんなにウケているのか? まずは田中氏が海外でアニメソングがウケる理由として、メロディの太さ、熱血、を挙げた。
田中 アニメの曲の多くは外向きであり、外への発信をベースにしている。これが理由として大きいと思います
大森 一方で、昨日の川井さんのステージ。J-POPなどは世界中の音楽を取り入れているけれど、川井さんのステージはいい意味で咀嚼しミックスされている。アニメなどは非現実感を表す緻密感があることも、ウケる大きな理由ではないでしょうか
川井 僕は日本的な音楽をそんなに学んできてはいないんですけど、ただ、感性自体に日本オリジナルのなにかがあるんじゃないかと思います」
大森 どちらもツボを抑える上手さが、メイド・イン・ジャパンのクオリティ感に共通しているのかもしれませんね
鷺巣「これまで日本がやってきたことは、本来、今ある日本をわかってもらうはずのものが、今のものではなかったから勘違いされてしまっていたという部分はあると思います。ただ、アニメやアニメソングにおいては、今ある日本の(文化)、日本人が出そうとしているものと、海外の人が欲しい思うニーズが一致したのは事実ですよね」
川井 「海外のことは考えてやってこなかったなあ。ただ好きでやってきたこの数十年なので(笑)」
大森 「ゲーム音楽も世界的に日本が受けているんですよ。作家の地位が高い。ガラパゴスなんていう言葉はどちらかといえばネガティブなニュアンスで捉えられがちですが、日本が閉鎖された空間で深めたものは日本人的で細密で、海外では真似できない。Otaku Coolとオタクキモイの違い。世界的には超クールに捉えられていると思うなあ」
鷺巣 「漫画やアニメに限らず、日本独自の表現方法だったり日本にあったものが、最近、欧米で増えだしてきていると思います。ファンシーグッズだったり車のシェードだったり。スペインではキティちゃんがすごくウケている。ミッキーマウスに取って代わる日も近いんじゃないかな」
田中 「今ある日常から上のレイヤーで、海外の人は日本の文化をとりいれようとしていると。自信復権ですね。アニメソングは日本語で歌う。これが基本でしょう。これまで権利の関係で、なぜか本来あるべき形とは違う、その国々でウケるであろう形に替えられていたものが多かったんですけど、実は一番望まれている形は本来あるべき形だったりすることは間々あります」
大森 「漫画やアニメは子どもが見るもの、という固定概念がどこの国にも存在していたのかもしれませんね」
日本的な感性、感覚
生業が同業の四者が、仕事を一緒に行うことはまずない。つながりはあっても、それぞれ別々の感性とプロとしての個性をベースがあるからこそ、四者それぞれが現役第一線で作曲活動をこなしている。でもそこには、日本人としての共通した感性、感覚は存在していないのだろうか?
田中 「段取りがいいところが日本人の特性だと思います。それと締切りに対する意識、責任感」
大森 「納品してからも、もうひと頑張りしたいっていう追求心もありますね。基本的にまじめだし、人に迷惑をかけたくない」
川井 「日本人だからということではなく、自分が持っているものが結果的に日本的、なんじゃないかな。自分としては潔いのがいい」
鷺巣 「音楽は勝ち負けじゃなく、それを聞いてくれた人のシンパシーが多いことが大切。それには、長く書き続けること、これが重要ですね」
セミナー中盤では、作曲家の地位について、日本と海外のそれとは違うといった話題から、代表作があるがゆえのレッテル感についての話、劇判の納品システムに関する話など、他ではまず聞けないトークが繰り広げられた。来場者の2/3の人たちは本セミナーを一番の目的に来場していたようなので、とても満足度の高い内容だったと感じたのではないだろうか。