頑張る姿の持つ美しさをしっかりと描く
――この作品では、何というか停滞した人々が、職に真剣に打ち込むことで再生していく姿が描かれています。
深川「そもそも、この作品で何を伝えたいかという初期衝動を考えたのですが、頑張る姿は美しいという事を描きたかったんです。個人的に、頑張るということが15年くらい前から、若い人にとってなんだか恥ずかしいことのようになっているような気がしていました。でも、なにか道を究める時には、人は頑張らなければならない。そういう事を、蒼井優さんを好きな若い人たちに見せたかったというのがあります。人が立ち止まる瞬間に、何か言い訳をしながら生きていくというのもわかるのですが、それだけでは駄目だという事を、大上段ではなくこの映画で伝えたいと思いました」
――「恋愛」や「人の死で泣かせる」という方向に流れることも可能な題材なのですが、そこをあえて「職に打ち込む」ということにフォーカスされていますね。監督はPFF出身で、本当に映画好きの青年から映画監督になられたという経歴の方だと思います。そういう深川監督から観て、「恋愛」や「人の死で泣かせる」が氾濫している日本映画のトレンドというか現状に、何か感じる部分はありますか。
深川「メジャーやインディの垣根を考えたくはないのですが、メジャー作品だとわかり易さを求められるというのはあります。でも、映画ってわかりにくい物を、わかり易く説明するものではないと思いますので、そこは守りたいですね。また、死を泣かせるための道具として使いたくはないという部分も、自分は守りたいと思っています」
映画監督になるために必要な事とは
――監督される題材が、多岐に渡っていますが、深川監督自身はジャンルへのこだわりはないのですか。
深川「僕は映画を観ると9割以上は面白いと思って劇場を出てくる人間なので、ジャンルにはこだわりません。自分が勉強できたり、ゾクゾクできたりする部分がある作品なら監督していきたいと思います。オリジナルや原作ものへのこだわらもありません。原作のないオリジナル作品は、僕の感覚が世の中に一番勝負できるタイミングでやりたいと思います」
――大きな作品が続いていますが、また『狼少女』のような作品を作る可能性もあるのですか。
深川「次の作品は子供映画で、単館映画規模のバジェットで冒険させていただくんです。僕は自主映画・単館映画の出身なので、大きな企画だけでなくそういった部分も育てていきたいと思っています」
――深川監督のように、アマチュアからキャリアを積んでPFFで認められて映画監督になるという方法が、最近は難しくなっているような印象があります。監督自身はどう感じでいますか。
深川「そうですね、映画監督として食べていくなら、映画をディレクションするだけでなく、プロダクトしていくことが必要です。自分の作品を、ただ作るだけでは駄目で、どう作っているのか、どう見せていくのか、それらを理解して作っていかなければならないと思います。自分の武器を理解して作ることが必要ですね。僕自身も自分のプロデュース能力を養いたいと思いながらやってきています。誰かが自分の才能をすくい上げてくれるのではなく、自分のキャリアもプロデュースしていく能力が監督には必要だと思います」
――それが求められるのは時代のせいでしょうか。
深川「時代は関係ないかもしれません。単に、覚悟の問題ですね。映画監督として食べていくのは1万人にひとりかもしれない。そのためには1万人にひとりの努力をしなければならないということです。映画監督になる方法を考える人は1万人いても、実際に行動する人は数百人で、その先のセルフプロデュースまで考えてる人は数十人。選ばれたのではなく、自分で成立するように選んでいく。僕そういう覚悟で、諦めずにやってきたというだけだと思います」
(C)2010「洋菓子店コアンドル」製作委員会
ヘアメイク:加藤恭子(アルール)
撮影:石井健