電子書籍の売り上げはこのように配分された
船山氏の話で特に興味深かったのは、電子書籍が発売された後の「コストと配分」に関する話。船山氏は「作品の売り上げは本人に還元されるべき」と持論を語った上で、「制作にかかる費用・かかった費用はスタッフ全員が正直に話し、売り上げ配分はしっかり決めておくことが重要」と言う。船山氏によると『歌うクジラ』の電子書籍の制作費は約150万円。プログラマーやデザイナーなど、どうしても制作に人件費は発生する。そこで、売り上げが発生してから150万円が回収されるまでは村上氏には印税は入らず、150万円を超えてから配分されると決められた。
制作費回収後は著者印税率40パーセント
具体的な利益配分の内訳はこうだ。App Storeの場合(※『歌うクジラ』の価格は1,500円)、売り上げの30パーセントがアップル、70パーセントが制作者に入る仕組みになっている。この70パーセント分が制作費の150万円に達するまでは、船山氏の会社に入る。これ以降の売り上げ分が、利益として配分されるのだ。制作費回収以降は、アップルの取り分を除いた売り上げの70パーセントを、村上龍氏 40パーセント、船山氏の会社 20パーセント、坂本龍一氏 10パーセントと配分したという。
船山氏はセミナー会場に集まった関係者に向け、「電子書籍だから売れるという考えだけで制作するのは苦しいだけなのでやめたほうがいい。文章にパワーがない作品を電子書籍にしたからといって、売れることはない」と苦言を呈した。また、「電子書籍は確かにブームになっているが、まだデバイスの普及率も低く、販路も限られている。そのため、現状では実際の書店よりも競争率は高い。顧客の目に触れる可能性が低いので、一極集中型になる恐れがある」と市場を分析した。