社会的に重いテーマを喜劇として描きたい

――小林監督の作品では、不幸な事に対する人間の姿勢が妙にポジティブという印象があります。

小林「お金を頂いて観せる映画で、深刻な事を深刻に描いても仕方ないというのはありますね」

――『かぞくのひけつ』も『毎日かあさん』も、厳しい状況に置かれた人間の姿が明るく描かれています。小林監督が家族、男女、人間の繋がりなどを描くとき、この明るさは、こだわっている部分なのでしょうか。

小林「家族、男女に限らず、僕は人間不信というか、人間関係に関して悲観的な部分があります。だから悲観的な自分に言い聞かせて、明るく描いているような気もします」

――そんな小林監督はこの『毎日かあさん』で何を一番伝えたかったのでしょうか。

小林「やや話がずれるかもしれませんが、ポーランドのアウシュビッツに行く機会があり、事前に色々本を読みました。なかでも印象に残ったエピソードが、収容所内にあった『病院』に入院した話です。働けなくなるほど体調が悪くなると2週間だけ入院期間が与えられて、その間に健康が回復しないとガス室で「処理」され焼かれてしまう。幸運なことに著者は3、4日ベッドで過ごして少し健康になって人間性を取り戻したそうなのですが、その途端、不幸を感じた、絶望が襲ってきたというんですね。それまでは、悪状況で麻痺して悲しみを感じることもできなかった、と。その感覚に興味深いものを感じました。何というか、嫌な事ばかりな人生で、それを感じられることも幸せなんだと、思ったんです。現在、普通に生きていても、みんな大変な毎日です。でも苦しくても、笑ってみたら、面白かったとか、後から理由が出来てくる部分もある。自分が支配しているはずの身体ですが、逆に身体のほうが自分を支配しているということもあるそうですし。とりあえず面白いと思ってみたら、日々は面白くなってくるんじゃないでしょうか。日々、自分にも言い聞かせてるんですが、そういったことをこの映画では伝えたかったのです」

――これからも小林監督は家族を描いていくのでしょうか。

小林「ジャンルにこだわりはないです。お金があればクライム・サスペンスでも、SFでもやってみたいですよ。職人監督的に『何でもやります』とまでは言えないのですが、その作品に関して何かしらひとつでも自分がやる意味や面白いと思える箇所があれば、監督したいです。ただ、今村昌平監督の初期作品のような重喜劇は是非やりたいですね。社会的に重いテーマを喜劇として描きたいです」

映画『毎日かあさん』は2011年2月5日より全国ロードショー

(c)2011映画「毎日かあさん」製作委員会
(c)Rieko Saibara

撮影:糠野伸