後期運用ではよりアグレッシブな挑戦を実施

IKAROSの後期運用は、現時点では2012年3月末ころまでの期間を想定しているが、その時点で継続運用が可能かどうかの判断を再び行うことが予定されている。これは、IKAROSに搭載されている燃料(IKAROSを回転させるための代替フロンなど。液晶デバイスを使っても、向きは変えられるが回転力は得られない)の残量や、通信機器などの状況で判断される。この後期運用は臼田の64mアンテナを用いて運用され、その目的を「ソーラー電力セイル技術の基盤となりうる、航法誘導等に関する、より深い知見を得ること及び後継機の開発に寄与する技術実証と観測を実施する」というもの。

主な対象となるのは、「ソーラー電力セイルミッション」として定常運用から引き続き行われる3テーマのほか、新たに4テーマが追加される。また、オプション機器として搭載されている「GAP(GAmma-ray burst Polarimeter:ガンマ線バースト偏光検出器)」、「ALDN(Arrayed Large-Area Dust Detector for INterplanetary space:大面積薄膜ダスト検出アレイ)」、「VLBI(Very Long Baseline Interferometry)」の各ミッションの継続および新規開発機器である「気液平衡スラスタ」や「中利得アンテナ」、「ミッション系エレキ」の評価などが行われる計画。

定常運用でも用いられた主ミッションである4つの主なカテゴリそのものには変更はなく、膜面の展開・展張、加速実証、航行技術獲得のそれぞれの項目に新規テーマが追加されることとなる。新規テーマ4点は以下のとおり。

  1. 展張状態の力学モデルを構築する
  2. 膜面の光学パラメータモデルを構築する
  3. 光子加速下の軌道決定精度を評価する
  4. 長期的な誘導制御性を評価する

後期運用計画における主ミッションのテーマ(提供:JAXA)

この内1および2がソーラーセイルの太陽角とスピンレートを大きく変化させるというもの。定常運用時もそれらは変化させていたが、後期運用では「燃料の残りなど考えると怖くて定常運用では積極的に色々とできなかった。例えば、スピンレートを0になると宇宙空間でどういった膜面形状になるかは分からないし、0に近づくだけでも皺が増えて予測できなくなる。そのため、従来は1~2rpmで維持していた。今後、後期運用に入ったことで、我々が予測できる範囲を超えて、多少皺ができても、挙動が予想範囲を超えるリスクを抱えても、少しスピンレートを上下させて状況が変化するかを見てみたい」(JAXA 月・惑星探査プログラムグループ IKAROSデモンストレーションチーム チームサブリーダである津田雄一氏)としており、これにより様々な状況でのパラメータ取得につなげ、IKAROSの実証で得られた技術の本来の使いどころである木星への挑戦に向けたさらなる大型膜面の開発につなげたいとする。

後期運用における新規テーマに関する補足(提供:JAXA)

一方の3および4のテーマは、後期運用に入ったことで、これまでとは大きく変化する軌道決定などを実際に行おうというもの。IKAROSの現在の軌道は、太陽と地球双方から0.8AU程度の位置に居り、2012年10月に最遠点として地球から見て太陽の裏側に到着するというものとなっている。これまでの計画した軌道と異なる軌道となることで、そうしたこれまで以上の遠い距離での運用を行うことで、軌道決定精度の向上と、その評価を行うほか、長期的運用による信頼性の向上なども行う計画。

後期運用計画におけるIKAROSの経路予測(提供:JAXA)