第144回芥川・直木賞選考委員会が17日、東京・築地の新喜楽にて開かれた。芥川賞を受賞したのは、朝吹真理子氏の『きことわ』(新潮9月号)、西村賢太氏の『苦役列車』(新潮12月号)の2作。直木賞は、道尾秀介氏の『月と蟹』(文藝春秋)と木内昇氏の『漂砂のうたう』(集英社)が受賞した。両賞ともに受賞作が2作品となったのは、第130回以来7年ぶりとなる。

選考過程について語る芥川賞選考委員会・島田雅彦氏(左)と直木賞選考委員会・宮部みゆき氏(右)

芥川賞の選考概要については、選考委員である島田雅彦氏が発表した。受賞作である朝吹氏の『きことわ』は、25年ぶりに再開した2人の人物の人生を描いた作品。最初の投票で、朝吹氏の作品が多数票を獲得し異論なく受賞が決定したとのこと。「過去・現在・未来といった時間軸の処理が巧み。卓越した技術を持っている作家」と、高い評価を得た。

また、西村氏の『苦役列車』は、その日暮らしの労働で生計を立てている19歳の男の、孤独や貧困、怨嗟、因業などを描いたもの。「身近に1人はいそうな、物事を周囲の所為にしたりする最低な人物が描かれていて、人物の描き方に賛否両論ありました」(島田氏)という。しかしながら、「ゆるぎない芸風で、エンタテインメントとしての完成度が高い。独特のユーモアを持っている」と高く評価する意見もあり、最終的な決選で過半数の票を得て受賞が決まった。

直木賞の選考概要は、選考委員の宮部みゆき氏が発表。受賞作の道尾氏の『月と蟹』は、親の離婚や虐待、いじめなどに直面した小学5年生の少年少女たちの揺れ動く心情を描いた作品。「10歳の子供の目線に限定し、大人の視点に逃げずに書ききったのは、新しく前向きなチャレンジ」と、高評価を受けた。

木内氏の『漂砂のうたう』は、明治10年の根津遊郭を舞台に、時代に翻弄されながら生きる男女の姿を描いている。選考委員会では、「難しい時代・舞台を扱っていてハードルの高い素材でありながら、資料に振り回されていないのは素晴らしい」「言葉の取捨選択が正しく、バランス感覚が良い作家」と、技術の高さを評価する意見が多く挙がったといい、「最終決戦で(道尾氏と)見事同点となり、2作品の受賞が決まりました」(宮部氏)とした。

なお、芥川賞の選考委員は、池澤夏樹氏、石原慎太郎氏、小川洋子氏、川上弘美氏、黒井千次氏、島田雅彦氏、高樹のぶ子氏、宮本輝氏、村上龍氏、山田詠美氏。直木賞の選考委員は浅田次郎氏、阿刀田高氏、伊集院静氏、北方謙三氏、桐野夏生氏、林真理子氏、宮城谷昌光氏、宮部みゆき氏、渡辺淳一氏が務めた。

芥川賞候補5作品

著者名 作品タイトル 掲載誌
朝吹真理子 きことわ 新潮9月号
小谷野敦 母子寮前 文学界9月号
田中慎弥 第三紀層の魚 すばる12月号
西村賢太 苦役列車 新潮12月号
穂田川洋山 あぶらびれ 文学界11月号

直木賞候補5作品

著者名 作品タイトル 出版社
犬飼六岐 講談社
荻原浩 砂の王国 講談社
木内昇 漂砂のうたう 集英社
貴志祐介 悪の経典 文藝春秋
道尾秀介 月と蟹 文藝春秋