8ミリカメラって何だ?
家庭向けのビデオカメラですらハイビジョン撮影が可能な時代に、いまさら8ミリ映画の雰囲気を再現して何か意味があるのかと問われると困ってしまうが、だからこそこのアプリは面白いと言える。8ミリカメラ独特のレトロな映像を簡単に撮影できるだけでなく、フィルムやレンズの種類も選択可能で、なんとジッターまで表現できるという涙もの。iPhoneで楽しむだけでなく、データをパソコンに移動して、素材として使用することもできる。
ビデオテープという便利なものが世の中に登場するまでは、あらゆる動画はフィルムを使って撮影されていた。もちろん、いまで言うところのホームビデオの作成もフィルムで撮影しなくてはならなかった。しかし、フィルムで動画を撮影するにはかなりのお金が必要だった。例えば、まったく同じではないが、映画館の上映に使用しているフィルムは写真用のリバーサルフィルムと同じ35ミリ幅である。36枚撮りで1000円ぐらいだから、あれが1秒間に24コマというものすごい速度で消費されていくような感じだ。映画1本を制作するのに必要なフィルム代は考えるだけでも恐ろしい。また、35ミリの動画用カメラは巨大で、とてもではないがホームユースで使用できるような代物ではなかった。フィルム幅が半分以下の16ミリカメラというのもあったが、やはりそれなりに高価で大きかった。
こちらは実物の8ミリカメラ「FUJICA single8 SOUND ZM800」。8倍電動ズームを搭載し、録音もできるモデルだ。最上位モデルのZC1000は72コマのスローモーションといった撮影も可能だった |
シングル8のアフレコ用フィルムを挿入した状態。現像後に映写機で録音をする。同時録音用のフィルムもあったが、映像と音の位置が異なっているため、フィルムをカットして編集すると映像と音がずれてしまうという悩みがあった |
そこで家庭用の動画カメラとして登場したのが8ミリカメラである。現在のビデオカメラとほぼ同じ大きさで手軽に撮影ができ、フィルムも1本2,000円前後で3分ほど撮れた。安くはないが、どこでも気軽に動画が撮影できるこのカメラは憧れの製品だった。規格は、フジフイルムのシングル8、コダックのスーパー8が有名で、実はまだ両方とも販売されている。しかし、シングル8は2012年3月に出荷が終了し、2013年9月に現像も終わる予定となっており、8ミリカメラで撮影できなくなる日も近いかもしれない。
現像前のフィルムは感光剤が塗布されている(左)。パーフォレーションと呼ばれるフィルムを搬送するための穴が空いている。中央は、現像して編集および録音してリールに巻かれた状態。右はその拡大写真で、ステレオ対応のため磁気トラックが両側にあるのがわかる |
懐かしの映像を再現
iPhoneアプリには、懐かしの製品を再現しているものが多い。この「8ミリカメラ」も可能な限り8ミリ映画を再現しようとがんばっている開発者の気持ちが伝わってくる。周辺減光や画像のざらつき、色褪せた雰囲気やキズや汚れがチラチラ見える効果など、8ミリ映画を体験したことのない世代でも古くささと懐かしい感じることができるだろう。しかも、ジッターというフィルムの枠が画面に映ってしまう現象を再現できるのも心憎い演出だ。
フィルムは「1920」「70s」「Sakura」「XPro」「Siena」の5種類から、レンズは「クリア」「ちらつくフレーム」「スポットライト」「光漏れ」「カラーフリンジング」の5種類から選択できる。さらにフラッシュのオンオフやカメラのフロントとバックの切り替えも可能だ。フィルムとレンズについては文字で説明するよりも動画を見ていただいたほうがわかりやすいと思うので次ページにサンプルを掲載した。