先日、ホリエモンこと堀江貴文氏を主演にしたニコニコミュージカル「クリスマス・キャロル」が開催され話題を呼んだ(詳細はこちら)。

しかし、本当の意味で"ニコニコ"ミュージカルという名にふさわしいのは、今まさに開催されている第二弾のニコニコミュージカル『ニコニコ東方見聞録』のほうだろう。

左から「蛇足」「ぽこた」「百花繚乱」――ニコニコユーザーなら一度は聞いたことがある名前だろう

「クリスマス・キャロル」では本当の素人は堀江氏一人だけであったが、何しろこちらは主演を含むメインキャストのほとんどがニコニコ動画を通じて人気を得たユーザー、つまり一般人なのだ。

およそ演劇経験のない彼らに、果たして有料でチケットを買った観客を満足させるだけの舞台が作れるのか。

期待よりも不安のほうがはるかに勝っていた筆者のようなニコニコ動画ユーザーは、決して少なくなかっただろう。

残り公演はあと2回を残すのみ。彼らの舞台はどんな内容なのか、そして本当に"ちゃんと面白い"のか。

(リアルかネットか)チケットの購入を迷っている方に向けて、ここで実際に舞台を見た立場から感想を述べてみたいと思う。

いったいどんな内容なのか気になっている人も多いはず

まずは気になる演技面だが、メインキャストたちの演技には、やはりまだまだ粗い点が多い。

「クリスマス・キャロル」同様、脇役にはプロの役者陣が出演しているのだが、彼らと比べると台詞の聞きやすさや演技の安定感はどうしても見劣りしてしまうのだ。

しかし、それは決してマイナスではない。なぜなら、そもそも「ニコニコ東方見聞録」は"うまい演技"を期待して見るタイプのミュージカルではないからだ。

それは次のあらすじを見ればよくわかる。

イタリアに住むマルコ・ポコタは、ニコニコ動画が大好きな"ニコ厨"である。そんな彼の夢は、ニコニコ動画があるという幻の島・日本へ行くこと。ところが、天才科学者・堀衛門のロケットで到着した日本は、ニコニコ動画の運営と荒らしが争う戦国時代と化していたのだった――。

誹謗中傷などを書き込む"荒らし"をネタにした演出も

……そもそも物語の舞台が"ニコニコ動画そのもの"なのである。つまりこれは、"ニコニコ動画による壮大な内輪ネタ"なのであり、その時点でキャストに演技力だったり役者としての完成度だったりを求めるのはお門違いというものなのだ。

このあたりは、プロデューサーである片岡氏の舞台哲学が大いに生きている部分だろう。氏がこれまでに手がけた舞台、たとえば「ミュージカル・テニスの王子様」では、技術面よりもむしろ"キャラクターらしさ"を重視してキャスティングしたことが成功の要因となった。内容は違えども、今回のニコニコミュージカルは、そのスタンスに近いと言える。

各キャラクターは非常に個性的だ

と、こんな風に書くと誤解するかもしれないので念のため書いておくが、メインキャストたちの演技は、少なくとも「クリスマス・キャロル」の堀江氏以上に「素人をよくここまで仕上げてきたな」と驚かされるレベルの完成度には達しているので、そこは安心してほしい。

堀江氏は主演と言いつつあまり登場機会は多くなかったが、こちらは「ぽこた」「蛇足」を始めとするニコニコメンバーがちゃんと主役らしい活躍を見せてくれる。

とくに一人二役という難度の高い役に挑戦した「ぽこた」の熱演は素晴らしく、これに「蛇足」の存在感、「野宮あゆみ」の演技力、「やまだん」の歌唱力が加わることでより一層舞台としてのクオリティが高まっている。なるほど、彼らは素人かもしれないが、これなら十分に"お金を取れる"レベルである。

キャストの中でも特に安定した演技で魅せていた野宮あゆみ

さて、先ほど"内輪ネタ"と書いたが、本舞台の見どころとなるのは、まさにその内輪ネタの部分である。

たとえば脚本にはボーカロイドや東方、アイドルマスター、エルシャダイといったニコニコ動画ならではのネタが随所にちりばめられており、ニコニコ動画のヘビーユーザーであればあるほど楽しめる仕組みになっている。また、そのネタの仕込み方も、あからさまなものからさりげないものまでバラエティに富んでおり、おそらく1回見ただけですべてに気付くのは難しいだろうと思えるほどだ。

そう、この舞台は、観客の"ニコ厨度チェック"の場でもあるのだ。

ここまでマニアックな仕掛けと、それでいてちゃんと面白いストーリーとを両立できているのは、脚本と演出を担当した石沢克宜氏の力によるところが大きい。

何しろ石沢氏は、これまでにもボーカロイド曲をモチーフにした舞台を手がけるなどの経歴を持つ、れっきとした"ニコ厨"なのだ。ニコニコ出身俳優の"使い方"もよくわかっており、今回のようなミュージカルを実現するにあたって、彼ほどの適任者はいないと言えるだろう。

TVでは出せないギリギリのネタも満載だ

――まとめよう。

「ニコニコ東方見聞録」は、"ニコニコ動画のヘビーユーザーであればあるほど楽しめる"内容であり、テニミュのように"俳優の成長を見守り、応援する"ことを楽しむミュージカルなのだ。

ここまでニコニコ動画ユーザー向けに特化した内容になると、「クリスマス・キャロル」のように万人に薦められるというわけにはいかないが、"ニコ厨"を自負する方ならきっと値段以上の満足感を得られるはずだ。

個人的に推したいのはメインキャストを差し置いて大歓声を浴びていた時空勇者タマデラス。「エルシャダイ演ってみた」のルシフェル……といえばニコ厨ならピンとくるだろう(【レポート】ニコ動で大ブレイク中の「エルシャダイ」動画をまとめてみたが、大丈夫か?)

『ニコニコ東方見聞録』公演情報

公演期間:2011年1月7日(金)~12日(水) 場所:全労済ホール/スペース・ゼロ(東京・渋谷) チケット価格:3,500円(リアルチケット)、1,000pt(ネットチケット) 詳細はこちら