ウイルスなどの抗体を作成するのに、一般的には鶏の卵やウサギの血液などが使用されている。ダチョウ抗体は、ダチョウに無毒化したウイルスを接種することで、鶏の卵よりも格段に大きいダチョウの卵の卵黄から、より大量の抗体を作るというもの。京都府立大学の塚本康浩教授が開発、富士フイルムが製品化し、マスクなどに利用されている。2010年モデルのクリエア7には、このダチョウ抗体を使ったフィルターが搭載されており、容器内の実験レベルにおいてウイルスの活動を抑制する効果があったことを確認している。
――空気清浄機には、ウイルスの抑制効果があると言われていますが、空気清浄機に一般的に使用されているHEPAフィルターの目は、ウイルスのサイズに比べて大きいのではないでしょうか?
「HEPAフィルターは、0.3μm以上の粒子を99.97%補集するというものです。確かにHEPAフィルターの目の粗さはウイルスのサイズよりも大きいのですが、今年、日立で試験したところ、25m3(6畳相当)の試験空間内ですが、水分に覆われた飛沫等でクラスター状になったウイルスは、HEPAフィルターで99%以上除去可能という試験結果が出ています。
それ以外のウイルスはHEPAフィルターを通り抜けてしまいます。今回、ダチョウ抗体フィルターを採用しているのですが、HEPAフィルターでは、ウイルスが網目に引っかかることで、補集するのに対して、ダチョウ抗体フィルターでは、ウイルスが抗体に触れると抗原抗体反応でウイルスを抑制します」
――抗体というのは、何らかの抗原に対する抗体ということになると思うのですが、何に対する抗体なのでしょうか?
「5種類のウイルスに対応した抗体です。ただし、薬事法の絡みで、どのウイルスの抗体を使って実験したかは開示していません」
――ダチョウ抗体フィルターは、製品に付属してくるものなのでしょうか
「製品に付属してくるのは、フィルターの発送を依頼するためのハガキです。これに送り先を記入して投函していただくと、1週間程度で、お手元にダチョウ抗体フィルターが届きます」
――製品に同梱しなかったのには何か理由があるのでしょうか?
「抗体フィルターの抗体は基本的にタンパク質のため、鮮度にも配慮しています。流通の過程で劣化するのを防ぐため、工場で作ったものをそのままお客様にお届けするという方法をとっています」
――フィルターの寿命はどのくらいなのでしょうか?
「開封後約1年です。交換フィルターの入手方法は、2通りあります。1つは販売店に注文して取り寄せるというもので、もう1つは店頭でダチョウ抗体フィルターの発送を依頼するためのハガキを購入するというものです。販売店によって、この2種類の方法のうちのどちらかを採用しています(価格は4,830円)」
――多くのメーカーでは、イオンなどによって、ウイルスを抑制するという手法を採用していますが、なぜ、ダチョウ抗体フィルターを採用したのでしょうか?
「イオンだと、空気中にあるウイルスにイオンを当てる必要があります。それには、部屋の中でどの程度イオンの密度があるか、そしてイオンがウイルスと出会う確率は、という問題が付きまといます。日立では、それよりも部屋の空気を集めてきて、フィルターで処理をするという方法が効率的だと考えているのです」
何よりも重要な空気清浄機の基本性能
――今年のクリエア7は、ダチョウ抗体フィルターの搭載だけでなく、脱臭能力の強化も大きな特徴となっていますが。
「新しく採用した『ナノパワー脱臭フィルター』で、脱臭力を向上させています。ナノパワー脱臭フィルターは、従来から採用しているシーキュラス(人工ゼオライト)に新たな活性炭を加えたもので、高密度で、非常に重量もあります。脱臭フィルターの重量が500gというのは、あまり聞かないでしょう」
――クリエア7は、最大風量が7.0m3/分ですが、他社の空気清浄機には、8.0m3/分を超えるものもあります。これは、フィルターの密度が高く、風が通るときに抵抗になっているということなのでしょうか?
「空気清浄機の性能では、最大風量も重要ですが、それよりも重要になるのが適用床面積です。フィルターの密度が高ければ高いほど風は弱くなります。一方、フィルターの密度が低ければ、例えば、8.0m3/分以上の風量を実現するのも簡単です。
シーキュラスに新たな活性炭をプラスすることで、より効果的にニオイをキャッチする「ナノパワー脱臭フィルター」 |
3つのフィルターを縦に並べたところ。右からプレフィルター、ナノパワー脱臭フィルター、HEPAフィルターの順。脱臭フィルターは、厚みもあり、重たい |
ただし、その場合、適用床面積は狭くなります(適用床面積は、タバコ5本分の煙を30分で除去できる広さ)。風の勢いとフィルターの密度で適用床面積が決まってくるのですが、むやみにハイパワーなモーターを搭載するというわけにもいきません。
モーターのパワーが大きくなれば、それだけ発生する騒音も大きくなりますし、消費電力も大きくなります。この兼ね合いが、空気清浄機の設計で頭を悩ませるところです。2010年モデルのクリエア7の適用床面積は、昨年モデルと同様に29畳ですが、新しいファンの採用と本体の気密性向上、流路の最適化などにより、最大風量時の作動音は、昨年モデルの52dBから48dBに低下しています(ちなみに最低風量時は15dB)」
クリエア7は、ダチョウ抗体フィルターやナノパワー脱臭フィルター、多くの機能を1つにまとめることによる、複合機ならではの可能性の追求など、新しい試みが注目されやすいモデルだが、それらは着実に積み上げてきた基本性能に裏打ちされているものだということが、今回のインタビューではっきりしたのではないだろうか。