――(撮影された画像を見ながら)これは、この絵画調の作風が好きな人にはたまらないでしょうね! HDRはブログや写真共有サイトで作品を発表する熱狂的なファンも多いですし。
今村「日本国内はもちろん、海外でも大きな支持を集めていますね。美しい作品の数々には、私たちも強くインスパイアされました。シャッターを切るだけでこの絵が撮れれば、大きな驚きを持っていただけるのではないか、と。
今回は絵画的にアプローチしていますが、元々は写真表現の一手段、個性を表現する手段と捉えています。たとえば、プレミアムオートもかなりアグレッシブに絵を作っているので、本物の正確な描写ではないかもしれない。けれど、見た方に驚いていただいたり、キレイだねと喜んでいただいたりできるエンターテインメント的側面を持っている。今回のHDRアートも、王道の写真と一線を画して、撮っていて楽しい、あるいは驚きがある、そんな写真の楽しみ方を提案しています」
――一般的なカメラを使ってこういった画像を作る場合、明るさを変えて撮影した2~3点の画像をPCのソフトで合成しますよね。でも、それではなかなかこれほどの次元に到達できません。色やコントラストの調整アルゴリズムはどうなっているのでしょうか。
今村「少し勉強された方にはおわかりいただけると思うんですが、HDRアート風の画像を作ろうとすると、非常に調整すべきパラメータが多い。少し変えただけで被写体にそぐわない表現になってしまったり、色や線が破綻してしまったりします。これはカメラ内部の処理でも同じで、単純なパラメータ設定でできるものではないんです。よって、処理のアルゴリズムは一律ではなく、被写体や撮影環境によって変わります。蓄積された大量のサンプルを参照して、被写体の状況に応じて処理している、という感じですね。
極端なトーンジャンプやノイズの上昇を防ぎつつ、かつ驚きのある絵作りという落としどころを探って処理しているために、処理にはちょっと時間がかかってしまいます。とにかく、繊細微妙なさじ加減が必要でして」
――従来のアートショットはあくまで画像にフィルターをかけたもの。でも、これはハードウェアと画像処理エンジンの根幹を駆使した写真表現なんですね。
今村「その通りです。ただのレタッチとは一線を画した機能なので、ぜひ店頭で試し撮りしてください。一枚の画像をレタッチしただけでは、決して到達できない高みを目指して作ってきましたので」
――熟練のHDRアーティストが作った画像、という雰囲気がありますよね。確かに、これは実際に体感してもらわないと楽しさがわからないと思います。写真撮影にマンネリを感じている人も、いい刺激になるでしょうね。
今村「お子さんを撮られたりしても面白いですよ。濃淡が濃くなるので、中年男性はひげのそり跡が強調されたりしますが(笑)、子どもが被写体だと味のある写真になるんです」
――お話を伺って、カシオが"デジタルならではの遊び"に一番近いメーカーだと改めて思いました。
今村「ありがとうございます。もちろん、正統派の写真撮影をおろそかにしてはいけません。でも同時に、写真の新しい楽しみ方、新しい見せ方、その発想と視点を大切にした製品を今後もどんどん展開していきたいですね」