大きなパノラマ窓から東京タワーが見える、六本木ヒルズ森タワー49階。このフロアにあるのは有名なIT企業でもしゃれた外資系ホテルでもなく、図書館だ。しかしそれは、ごく一般的に想像される"図書館"とは全く異なるコンセプトをもって設立され、他に無い特徴を持って運営されている。公共の場でありながら、自分だけの時間を有意義に過ごすことができる、都会の真ん中にぽっかり浮かぶ希有な場所である。

東京の夜景を一望する高さにある『六本木ライブラリー』

常に新鮮かつ幅広く、"流れる"蔵書

今回訪ねたのは六本木ヒルズでビジネススクール等の文化事業を行う「アカデミーヒルズ」が運営する『六本木ライブラリー』。2003年にオープンした有料の会員制(コミュニティメンバー9,450円/月、オフィスメンバー94,500円/月)ライブラリーで、現在は3,000名を超えるメンバーが在籍。年中無休で朝7時から夜24時まで開館している。

同館の蔵書は約1万4,000冊。図書館としては少ない方だが、その扱い方は独特だ。毎月専門の担当者が選んだ新刊が書店と同じタイミングで入荷し、その分古い本が蔵書から外される。本の総量は変わらないが、一般的な図書館で言う"アーカイブ"という機能を持たず、今のトレンドや今活躍している人たちが見える「フローの図書館」(担当者)というスタイルを明確にしている。利用者に社会人が多いことからビジネス書などが多いが、「すぐに仕事に使えるハウツー本から、文化的な知識・教養、話題の書籍まで」(同)、ビジネスパーソンの仕事や人生に役立つ本が様々な視点で取り入れられた「本のセレクトショップのような」(同)ラインアップとなっている。

政治・経済から哲学、写真集まで幅広く蔵書。棚には番号が振られており、検索で探すことも可能

テーマを設けた特集も。今回は六本木美術館の企画展に提供された環境関連の本

配架も既定の分類法にとらわれず、テーマを持ちつつ独自の視点で並べられている。そこには、仕事で煮詰まった時に思いがけないものと出逢うことで新しい視野が開けるように「書籍に"出逢って"いただく。ネット書店や電子書籍が浸透する社会で、本に囲まれてアイデアを発見できる場を提供することが価値になっていくのでは」(担当者)という考え方がある。データの蓄積に基づくレコメンドとは別の視点から、新しい出会い・発想が得られるかもしれない。同館ではこれらの本の貸し出しを行っておらず、来館者がいつでも読めるよう館内閲覧のみとしている。また、メンバーであれば同館で10%引きで購入することができる。

このほか、50年後・100年後にも残しておきたい名作を集めたエリア「グレートブックスライブラリー」も設けられている。貴重本や外国の本など、こちらも新鮮な出逢いが生まれる場所だ。

今月の新刊が入り口横の書架に並べられている

グレートブックスライブラリーの本も少しずつ入れ替えられている

いつでも一人になれるセカンドオフィスとして

六本木ライブラリーの特徴は蔵書だけでなく施設にも見ることができる。冒頭の夜景の写真は同館のカフェからの眺め。天井が高く外壁側が全面ガラス張りの開放的な空間だ。ここは同ライブラリーメンバーだけでなくスクールなどのアカデミーヒルズ利用者も入れるパブリックスペースで、多くの人が仕事・勉強などに自由に使っている。「メンバー同士のディスカッションの場になることもあります」と、広報室の深町氏が言うように、本の閲覧だけを目的にした場所ではないのだ。

電源・無線LAN完備のラウンジ。カフェでは軽食やビール等も提供されているほか、外からの持ち込みも可能

奥にはコミュニティメンバー専用のワークスペース「マイライブラリー・ゾーン」がある。ここはパーティションの付いたデスクが並んでおり、静かな環境の中、PCや資格取得の参考書に向かっている人が多い。明るすぎず温かい色合いの照明と、ウッドの什器で統一され、機能的ながら落ち着いたインテリアとなっている。辞典やレファレンスなどのビジネス資料も置かれているが、資料を探すというよりワークスペースとしての性格が色濃い。さらにオフィスメンバー専用の「ライブラリーオフィスゾーン」は、よりゆとりのある造りだ。こちらは24時間利用でき、また予約制で半個室の「ワークスペース」や、「ミーティングルーム」「ゲストルーム」も利用可能だ。

メンバーが利用できるマイライブラリー・ゾーン。開館と同時に訪れる人も

オフィスメンバーが利用できる「ワークスペース」(予約制)

会員制ならではのコミュニティ

メンバーを対象にしたアンケートでは、六本木ライブラリーの利用目的として「キャリアアップや資格取得のための勉強(54.0%)」「本・雑誌を読む(45.6%)」「仕事(28.6%)」(複数回答)という回答が上位に挙がっている。活用の仕方は限定されていないが、利用者には「自分の時間をできるだけ豊かに過ごしたいというマインドのある人が多い」(同)という。

六本木ライブラリーのもう一つの特徴は、こうしたメンバーのマインドから生まれた自主運営のサークル活動「メンバーズコミュニティ」だ。語学や資格の勉強から、街歩きなどの課外活動、スポーツ観戦といった気軽なものまで、現在14のコミュニティが活動中。利用者の意見から潜在的なニーズに気付き同館が作った仕組みだが、同館では活動の告知協力と場所のみを提供し、運営はコミュニティの幹事が行っている。ここ数年でさらに活動が盛んになってきているそうだが、ネット上でSNSが広がりを見せた後、ユーザーがネットの限界に気付き始めたことも、そのきっかけとなっているようだ。

同館の会費は決して安くないが、自分の時間を充実させたい人にとっては最高の環境だ。ここ1~2年は不況のあおりで会員数が伸び悩んでいたが、昨年末頃から増加傾向が続いているという。閉塞感に覆われた社会では、自分が向上していかないと社会あるいは会社で取り残されてしまうという危機感から学ぶ機会を求めたが、そのうち「学ぶこと自体が楽しいと気付く人が増えたのではないか」と深町氏は分析する。

六本木ライブラリーは"ライブラリー"の名を冠しているが、これを狭義の"図書館"ととらえてはいけない。自主的に学ぼうとする人を静かにそして強力にサポートする、活動の場であり学びの場なのだ。

■利用案内『六本木ライブラリー』
住所 港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ 森タワー49階
電話番号 03-6406-6650
開館時間 マイライブラリー・ゾーン 7:00~24:00/ライブラリーカフェ 8:00~23:00
休館日 年中無休
料金 コミュニティメンバー 入会金:1万500円・月会費:9,450円/オフィスメンバー 入会金:31万5,000円・月会費:94,500円
アクセス 東京メトロ日比谷線「六本木」駅下車 、C1出口の「メトロハット」直結
Webサイト こちら