ヒストリーチャンネルでは、11月、さまざまな未確認生物にスポットをあてた番組を特集放送中。そのなかで11月27日(土)の21時~22時、オリジナル番組『日本の未確認モンスターを追え! ~ツチノコ~』が放送される。
番組のナビゲーターを務める荒俣宏氏 拡大画像を見る |
数多くの未確認生物(UMA)の中でも、もっとも日本人になじみ深いと言われるUMA、ツチノコ。果たしてその正体は何なのか、そしてツチノコと人は歴史の中でどのような関わりを持ってきたのか。番組では数々の目撃証言や科学的研究の成果を織り交ぜつつ、未だ見ぬツチノコの全容に深く切り込んでいくという。
今回、番組を見る上で知っておきたいツチノコに関する基本的な知識や、番組の見どころなどについて、ナビゲーターを務める博物学者の荒俣宏氏に伺うことができた。
――70年代にツチノコブームがあったそうですが。
荒俣「あの頃の未確認生物(UMA)ブームというのは、町おこしを兼ねていたんです。オオウナギとかタキタロウとか、他にはヒバゴンにクッシー、イッシーというのもいましたね。世界的にUMAがブームでしたからね。おそらくツチノコもそれに便乗したんだと思いますよ」
――世界のUMAというと、真っ先にネッシーが思い浮かびます。
荒俣「基本的にはネッシーブームの延長だったと思います。日本からも石原慎太郎さんを隊長として探検隊が出たくらいですからね。雪男の場合は東京大学が探検隊を作って行きましたし。当時は日本人の科学的関心の高さを見せるために、それまで発見されていない不思議な生物を捕まえて調査するというのが一つの選択肢だったわけです。我々の世代は、今と違って海外で一旗揚げようっていう人が多くて、そのロマンの形にネッシーや雪男を捕まえるというのがあったんですね。それは国内でも同じで、そういったUMAを捕まえようという動きの中で、一番代表的なのがツチノコだったわけです。直接的なブームのきっかけはTVで紹介されたり矢口高雄が漫画で描いた『幻の怪蛇バチヘビ』だと思いますけどね」
――ブームはいつか終わるものですよね。しかしツチノコは現在でも忘れられてはいません
荒俣「先ほど言ったように、町おこしが絡んでいたのが大きかったんだと思います。村は大金をかけているので、ツチノコが見つからないからといってこのまま終わったんじゃダメだと継続的に色々やっていったわけです。それに時々は目撃談や証拠写真が出てきましたしね。そういうのがあって、ツチノコ人気は上下はしても、完全に忘れられることはなかったのだと思います」
――イッシーやクッシーのように場所が特定されていないのも要因としてありそうですね
荒俣「そうですね。その気になればどこにでもいる可能性があるという。いわば河童みたいなものですよね。江戸時代には河童はちゃんと生物の一種だという位置づけでしたし、色んな地域が河童の捜索をやっていましたからね」
――そう考えると、日本人は昔からUMAが好きなんですね。
荒俣「昔から、特に東洋人はUMAが好きですよね。これはなぜかというと、珍しい動物を見つけるのって、東洋では多くの場合が吉兆探しに関わっているのですよ。これは西洋にはない特徴です。西洋は基本的に寄生物の出現は悪いことが起きる前兆と考える。だから怖がって手を出さないんだけど、日本人はめったに見られない動物が出てくると良いことがあるかもしれないというんで、一所懸命探索し始めるんですね。特に龍や麒麟なんかはそうですよね。龍なんて(地面を)掘ると骨が出てくるんですよ。竜骨というんですが、それを刻んだのが風邪やなんかに効いたんですよ。実際にはほ乳類の骨なわけですから、一種のサポニン効果やカルシウム効果で効いたのでしょうけど。とにかくそれくらいUMAは身近な存在で、ツチノコもそうだったんじゃないかな」
――しかし、現在では河童や龍とツチノコの立ち位置はずいぶん違っています。
荒俣「明治維新以降、迷信追放というキャンペーンが張られたせいなんですよ。それで、お化けとか河童とか人魚はインチキだってことになったんだけど、ツチノコだけはイメージがハッキリしなかったので、民話や噂という形で流されることについては問題なかったんです。ところが戦後、ツチノコを発見したという話があり、中には解剖図まで出てきた。それでにわかにリアリティが出て、本当なのか嘘なのかとみんなが興味を持ち始めたんです。だからツチノコはやっぱり戦後のUMAなんですよ。河童や人魚は有名になりすぎたんだけど、ツチノコは「これまだ出てないや」という、一種の埋蔵金だったわけですね」
――そこまで人々の心をとらえたツチノコの魅力とは何なのでしょう。
荒俣「一番大きな魅力は何のために出てくるのかよくわからんということじゃないでしょうか(笑)。人間と接触してこないんだけど、たまに発見される。そこが好奇心の的になるのでしょう。河童や人魚は出てくる理由も含めて既知のものになってしまったんだけど、ツチノコだけは江戸時代から伝わっているにも関わらず今も未知の状態をキープできているんです。それが現代人の関心を惹く大きな要素なんだと思います」
――河童や人魚はいないとわかった時代においても「いるかもしれない」と思われ続けているのはすごいことですね。
荒俣「(ツチノコがいる)可能性はなきにしもあらずなんですよ。なぜなら世界中に脚のあるヘビというのはたくさんいるし、ツチノコみたいにぴょんぴょん飛ぶわけじゃないけど、木から木へ飛んで渡るヘビだっている。世界を眺めるとツチノコと似たような特徴を持つヘビやトカゲって確かにいるんです。似たようなのが海外にいるのなら日本にいそうなんですけどね。でも捕まらない。そういえば以前ブラジルを探検したときに、"脚のないトカゲ"を見つけたんです。最初は大きなミミズだと思っていたらウロコが生えていたので違うなと気付いて、研究者に尋ねたらそれは脚のないトカゲだと。もしツチノコを見つけたとしたら、そのとき感じたのと同じ驚きがあるんじゃないかと思います」
――番組の見どころを教えてください。
荒俣「見どころは二つあります。一つはいるいないの問題ではなく、人間とツチノコは歴史を作ってきたわけです。少なくとも3、400年に渡って存在するその歴史に、色々なアプローチをしていくところがなかなか面白い。ネッシーなんかだとどうしても考古学、あるいは生物学的なアプローチにかたよりますけど、ツチノコの場合は江戸時代の文献などを引っ張りながら、イメージが作り上げられてきた歴史を語ることができる。これは博物学的なアプローチなんです。博物学って面白くて、(対象が)いてもいなくても研究できるんですよ。あとは純粋に、UMA学の観点で、どうやったら捕まるのかとかどういう姿をした存在なのかとかを推定する楽しみですよね。そういうアプローチの仕方が、ロマンのある好奇心をかきたてるのだと思いますよ」