オスピスの取締役、井上義教氏は、元銀行の為替ディーラー。前々回は、いわゆるプロ中のプロトレーダーの井上氏が上梓した『FXチャートリーディングマスターブック~為替のプロが実践する本当に勝てる技を大公開!』の内容を紹介。前回は、同書の中で井上氏が伝えきれなかった、チャートの見方、FXに対する考え方について、「プロと一般投資家の違い」をテーマに、インタビューした。
今回も引き続き、同書では書ききれなかったお話を伺うが、今回はさらに詳細に井上氏がどのようなトレードを行っているかを明らかにした上で、「なぜ出口の決済が重要か」「出口決済をどうすればいいか」などをテーマに、「勝つためのトレード手法」について考える。
プロは、ポジションを持つ時よりも「出口決済」を真剣に考慮
「これはセミナーでも、本の中にも書いてきたことですけど、プロは恐らく一般投資家の方よりも、ものすごくシンプルに考えていると思います」。
井上氏の考え方は、「相場の流れに逆らわない」「成行き順張りでポジションを取る」である。そして、「ファンダメンタルズは考えず、チャートを読むことに集中する」。月足、週足などの長期間のチャートで、相場が上がるのか下がるのか、大きな流れを読む。そして、日足、時間足などで、相場の流れに乗る動きが現れたら、成行きで順張りをする。
「上がるのだったら買って、下がるのだったら売って、横ばいなら休む。それだけです」。
しかし、前回触れたように、これだけでは「負けないFX」にはなるかもしれないが、「勝てるFX」にはならない。例えば、20pipsで損切り、40pipsで利益確定をする場合、もし相場がランダムに動くとすると、上に行くか、下に行くかの確率は50%、50%だが、20pips下、40pips上に達する確率は、正規分布に従い、ほぼ66%、33%になる(これがピンと来ない方は、損切り10pips、利益確定100pipsでどのぐらいの勝率になるのかを考えていただきたい。少なくても50%、50%にはならないだろう)。
負け2回、勝ち1回で、合計の損益は0になる。つまり、損切り幅、利益確定幅をいくらに設定しようとも、何度もトレードすれば、結局損益は0になるようにできている。
井上氏は、「プロでも勝率は50%です」という。これを多くの人は、「プロでもその程度の勝率でしかないのだ」と考えるかもしれないが、実は普通に利益を取ろうと思って、相場の流れを読まずにポジションを入れたら、勝率は33%が計算上の期待値なのだから、50%というのは、ある意味"驚異的"な数字といえるだろう。よく勝率が70%以上あると自慢する人がいるが、それは1pipの勝ち、2pipsの勝ちも勝ちトレードとして数えているからで、トータルで利益が出ているのかどうかは別の話になる。
「プロは、ポジションを持つ時よりも、出口にあたる決済について、ものすごく考えます。たとえば、買いポジションを持っていて、ある程度上がった。ここで一般の人は、利益を確定するか、持ち続けて引っ張るかの二つを考えますが、本当は、選択肢は三つあるのです。利益確定か、持ち続けるか、買い増すかです」。
「利益確定は、実は損切りよりも難しい」
今、例として、ものすごく分かりやすい相場を考えてみよう。買いポジションを持ったら、1円上がって踊り場があり、さらに1円上がって踊り場があり、と繰り返して、3円あがったとする。1単位のポジションなら3円の利益、2単位のポジションなら6円の利益だ。しかし、なかなかこううまくいかないのは、みなさんよくご存知だろう。1円あがった時点で「利益確定するか、もう少し引っ張るか」と悩むからである。
「ある意味、損切りは簡単なんです。損をしたくないという気持ちと合った行動だからです。でも、利益確定は、もっと得をしたいという気持ちにフタをする行動ですから、実は損切りよりも難しい」。
3円の上昇幅を下から上まで利益をまるごと取ることはとても難しい。多くの場合、2円も取れれば御の字だろう。途中の踊り場で、悩み、そして利益が大きくなってくると、「大反転するのではないか」という恐怖がわいてくるからだ。しかし、プロはここで、確実に4円を取ってしまうのだ。ここがプロと一般投資家の最大の違いだろう。
「最初は、誰もが1単位を買います。しかし、プロは1円上がった後で、利益確定か、持ち続けるか、買い増すかを考えます。相場がまだ上昇すると思えば、ここでさらに1単位を買い増します。さらに1円上がった。さすがに相場の上昇の勢いもなくなってきて、方向感が見えづらくなってきます。ここで1単位を売り決済してしまいます。さらにもう1円上がったところで、そろそろ相場が下落に反転すると考えたら、さらに残っている1単位を売り決済して、ポジションを切ります」。
これでいくらの利益になったのかを計算してみると、4円の利益が出ている。3円の幅で4円の利益を出してしまう。もちろん、最初から2単位を入れておけば、6円の利益がでるわけだが、予想に反して途中で反転してしまうと、全滅することになってしまう。この買い増しの方法では、もし途中で反転しても、損失も小さく抑えられることに注意していただきたい。
"生つば"を思わず飲みこみたくなる「プロの手法」とは?
「ちょうど今のドル円相場では、多くのプロトレーダーが同じことをやっているはずです。直近の最安値を更新したところで売る。また最安値を更新したら売る。これを繰り返して、売りポジションを多くもっていると思います。相場が反転上昇しだしたら、様子を見ながら、1単位ずつ買い戻していけば、大きな利益になるわけです」。
プロは、このような資金コントロールを10倍ぐらいの幅で、きめ細かく行うという。最小単位が10単位のトレーダーであれば、いけるときは100単位ぐらいまで買い増し、売り増しを重ねていき、大きな利益を生み出していく。
一方で、プロが勝負を控える相場とは、一体どういったものだろうか?
「レンジ相場とかボックス相場と呼ばれる相場がありますね。一定の幅で、上がり下がりを繰り返している相場です。個人トレーダーの方の中には、これが分かりやすい相場だと思われている方が多いようです」。
サポートラインとレジスタンスラインがはっきりしているので、サポートラインの少し下に買い、レジスタンスラインの少し上に売りの指値を入れておけば、振幅するたびに利益を積み重ねていける。
「ところが、これは分かりづらい相場なんです。利益も小さいし、少しの手違いで、逆に損失を出してしまう。苦労して格闘しても、終わってみたら、損益はプラスマイナス0でしたということも多いのです。プロはこういう場では最小単位でトレードをします。一方で、トレンドがはっきりしている相場では、状況次第で10倍ぐらいまで増やして、大きな利益を一気に取りにいきます」。
生つばを思わず飲みこみたくなる手法だ。これがプロが利益を出し、一般投資家がなかなか利益を出せない違いなのだろう。
「こういう手法は、セミナーでも何回も話しましたし、本の中にも書きました。だから、プロだけの方法とか、そういうものではないんですよ(笑)。FXは、欲張りすぎないのであれば、きちんと勉強をすれば誰でも勝てる投資です。ただ、勉強といっても、指標がクロスしたら買いとか売りとかいう機械的な暗記ではなくて、チャートや指標を使って、相場のトレンドを読む勉強が必要なんです。私の本を読んで頂いたり、セミナーをご覧頂いて、そういう勉強をして頂けたらうれしいですね」。
重要なのは、FXには、「プロだけが知っているトレード手法」「プロだけが知っている指標」などというものは存在しないということである。正攻法しか存在しない。そして、その正攻法を学ぶのは、決して難しくはない。本やオンラインセミナーで、十分学んでいける。