実践に即したテスト項目をPinP+スーパーと設定

番組編集の実際をお話ししたところで、これをもとに、実践の場で行われるであろう作業を想定し、5点の調査項目を設定してみた。用意したのは尺が3分間のHDVとAVCHD、ふたつの映像素材である。番組制作の現場で最も使われているHDCAMは、基本的にリニア編集または中間コーデックを使用するSDIベースのノンリニア編集となるため除外した。

検証項目1:HD素材のスムーズな再生
インポートした素材、あるいはタイムラインに貼り付けた素材の確認(プレビュー)がスムーズに行えるかどうか、これはビデオ編集には欠かせない用件となる。HDVやAVCHDなどのHDフォーマットは複雑な計算処理が必要なLong GOP方式の圧縮を採用しているため、PC内での再生が重くなり、1秒間に30コマあるはずの映像が、まともに再生できない現象が起こりがちとなる。いわゆる「コマ落ち」だが、これでは正確なカット編集は行いにくい。プロビデオ制作では編集ポイントの決定にも1フレームの精度が求められるため、まずはコマ落ちのない滑らかな再生が可能かどうかを観察することにした。

検証項目2:ダウンコンバートの性能
最近のビデオ制作では、ワンソース・マルチユースが唱えられており、完パケはSDでも、素材はHDで撮影して欲しいという依頼が普通になりつつある。そこでHDVやAVCHD素材を取り込んでDVファイル化する作業を想定してみた。プロジェクトをSDベースで立ち上げ、タイムラインに3分間のHDV、AVCHDの各素材を貼り付ける。するとPremiereProの場合は画素to画素で表示されるために、画面の一部が拡大されて見える状態となる。そこで45%のリサイズをかけ、サイドカットのSD映像を得る設定を施す。この3分間の素材が、未レンダリングの状態から何秒でDV圧縮のファイルとして書き出せるかを測定した。

検証項目3:カラーコレクションの速度
 AVCHD素材であってもCore2クラスのCPUを使えば、一応秒間30コマの再生がなんとか行えることは、CS4の使用で確認している。そのためエフェクトをかけた場合でも軽快に動作できるかどうかが、今後のHDノンリニア編集の課題となるだろう。そこで実用的なエフェクトとしてカラーコレクションを選び、3分間の素材にこれをかけた状態での再生状況、レンダリングにかかる時間を測定した。

検証項目4:2ストリーム、2エフェクト、2スーパーでの再生
 一般的な番組制作では、3つも4つもの映像が同時に画面に現れることはまずない。せいぜいV出し映像の画面の隅に、出演者の顔がPinP(ピクチャー・イン・ピクチャー)で表示される程度だ。しかしサイドスーパーなど、画面上への文字表示は年々増える傾向にある。そこで情報系番組で考えられる、2ストリームの再生映像をPinPで合成し、さらにカラコレをかけ、テロップを2個乗せた状態について、再生状況とレンダリングにかかる時間を調査することにした。

実際の編集作業を想定した編集後の画面。ベースとなるバックグラウンドの映像にはカラコレを施し、フォアグラウンドの映像はリサイズで小さくした上でPinP合成を施す。その上にPhotoshopで作成したサイドスーパー(アルファチャンネル付き画像)と、PremiereProのタイトル機能で作成したスーパーを乗せた

検証項目5:ファイル書き出し
 現在のHD制作では、番組の場合はHDCAM納品、VP制作ではBlu-ray納品(※1)が主流である。今後はVP制作分野で、DVDに代わってBlu-ray納品の頻度が高まることが予想されると同時に、番組納品についても、MXFラッパー(※2)によるファイルベース納品が注目されている。現状では具体的なフォーマットについて、MPEG-2ベースのXDCAMになるのか、H.264ベースのAVC-INTRAになるのかなどが決まっていないが、テープへのデジタルカットが減り、ファイルベースでの書き出し処理が多くなってくることは確かだろう。  そこでファイルベースのマスタリング作業を意識して、WMVへのエンコードではなく、ファイル書き出しに要する時間を測定してみた。ファイル形式については、具体的な納品フォーマットが統一されていないことから、上記項目4で作成した3分間の未レンダリングタイムラインに対し、HDV素材はHDVに、AVCHD素材はBlu-ray用のH.264にコンバートする設定とした。

検証にはPremierePro CS5をインストールしたZ800(※3)を使うと同時に、比較実験のためにPremierePro CS4をインストールしたPC(※4)も用意し、各々の項目について同じ条件で測定した。これによりCS5単体の性能の他に、CS4との性能差が見えてきたのである。

※1:VP制作の多くはSD制作によるDVD納品、またはテープによるDVCAM納品であり、Blu-ray納品はまだ少数派である。
※2:放送関係者とビデオ機器メーカーにより制定された、ノンリニア編集用外郭フォーマットの標準形式のひとつ。SMPTE(米国映画テレビ技術者協会)により規格化されている。格納されるビデオフォーマットにはXDCAM-HD、AVC-INTRA、DVCPRO-HD、AVID-DNxHDなどがあり、HDV、AVCHD、XDCAM-EXはMXF形式以外の独自ラッパーとなる。
※3:動作環境/CPU:Xeon X5570(2.93GHz ~max3.33GHz / 4コア)×2基 / Memory:12GB / OS:Windows7 Pro (64bit)
※4:動作環境/CPU:Core2 Quad Q6600(2.4GHz / 4コア) / Memory:2GB / OS:Windows XP Pro (32bit)

次回、実験結果を表にまとめて紹介していく。