携帯電話の普及率が飽和に近付いたと言われて久しいが、テクノロジーの進化と同時に人々は音声通話を利用する機会が減り、むしろメール送受信やWebなど、データ通信を利用する傾向が強まっている。こうしたなか、いまだに世間のトレンドに取り残されているといえるのが110/119番といった緊急ダイヤル番号だ。米国ではデジタル世代の利用を想定して、こうした緊急ダイヤルでのテキストメール受け付けを可能にする仕組み構築に向けた取り組みが進みつつある。

日本でいう110番や119番といった緊急ダイヤルの番号は米国では「911」となっており、何か非常事態が起きたときはまず911をダイヤルするのがルールだ。だが米国でも前述のように音声通話を利用するユーザーは若い世代を中心に減りつつあり、SMSと呼ばれるテキストメールやFacebookのようなSNSを利用するユーザーが急増、運転中での利用や過度のテキスティング依存症が社会問題になっていたりもする。SMSは、電話番号さえ指定すれば相手の携帯電話のキャリアがどこであっても気にせずメールのやり取りが可能な点が特徴だが、一方で今回のテーマとなっている911にはメールを送信できない。なぜなら911のコールセンターがSMSに非対応だからだ。米連邦通信委員会(Federal Communications Commission: FCC)は11月23日(現地時間)、同会長のJulius Genachowski氏が米バージニア州アーリントンのArlington County Emergency Centerで講演し、こうしたデジタル新世代に向けた911の新しいビジョン「Next-Generation 9-1-1」について説明した。

Genachowski氏によれば、現在911の呼び出し件数は1日当たり65万件あり、そのうちの45万件が携帯電話経由のもので、約7割を占めている。それにも関わらず、その携帯電話の特徴であるテキストメールは911で利用できないのだ。同氏は会場となったバージニア州にあるバージニア工科大学での2007年の銃乱射事件(詳細はWikipediaの「Virginia Tech Massacre」を参照)を引き合いに出し、現地の学生や目撃者が当時911へのテキストメール送信を試みて、それが届かずに対応できなかった事例での教訓から「緊急時にはいつでも誰もが911へとアクセスできる状態にするべき」との見解を出し、こうしたデジタル世代への911の新サービスの提供を行っていく計画を発表した。

911の利用は電話の普及とともに1950年代から全米での運用が始まったとされるが、それから60年、テクノロジーは携帯電話へと進化して利用形態も変わってきており、多くの犠牲者を出した悲劇を教訓に次のステップへと進もうとしている。