パナソニック ヘルスケアは、ヘルスケア事業への取り組みについて明らかにするとともに、2011年4月から稼働する最新工場の血糖値測定センサー工場の様子を公開した。
同社は1948年に設立。1969年に松下寿電子工業として発足後、2005年からはパナソニック四国エレクトロニクスに社名を変更。今年10月1日付けで現社名に変更した。「従来はAV関連、PCペリフェラルなどの製品を生産していた時期もあったが、ここ数年でヘルスケア事業へと転換を図り、今回、名実ともにヘルスケアへとシフトした。ヘルスケア事業の中核を担う立場を明確にした」と、パナソニック ヘルスケアの山根健司社長は語る。
パナソニックグループでは、次代の柱事業のひとつにヘルスケア事業を掲げており、2015年度にはグループ全体で4,500億円以上の事業規模を目指す。
パナソニック ヘルスケアでは、ヘルスケア事業として、医療の適正コスト化を担う「院内業務支援」、家での健康維持・回復の実現を目指す「在宅へルスケア」、患者の負荷および負担の軽減を実現する「早期診断・治療」の3分野を中心に取り組みを推進。2010年度計画では、前年度売上高の1,157億円から1,000億円に売上高を減らすが、ヘルスケア事業については構成比を拡大。2009年度は約600億円規模のヘルスケア事業の売上高は、2012年度には1,000億円規模に拡大する。「ヘルスケア事業におけるビジョンは、『世界に、健やかなくらしを』。アフォーダブル・ヘルスケアをキーワードに社会貢献を目指す」(山根社長)としている。アフォーダブル・ヘルスケアとは、先進国の医療費削減、新興国への医療普及、衛生向上などの社会課題に対して、世界中の人々に手が届くヘルスケア事業の姿を指すという。
パナソニック ヘルスケアの組織体制は、血糖値測定シテテムや乳酸値測定システムなどを手掛けるバイオ診断BU(ビジネスユニット)、超音波判断装置や4Dプローブ、POD半導体レーザーを担当する画像診断BU、ONWAブランドで展開する各種補聴器に取り組む補聴器BU、人口歯一次加工事業や注射薬払い出しロボットなどの医療機器システムBU、ADA(アドバンスド・データ・アーカイブ=医療用データストレージ)などを担当する医療デバイスBUで構成。本社部門がある愛媛県の松山地区をはじめ、同じく愛媛県の西条地区、徳島県の脇町地区に拠点を設置。さらに、大阪地区や横浜地区、東京オフィスなどを持ち、国内従業員数は約3,000人の体制となる。そのほか、インドネシアの生産拠点など、海外にも4拠点を持つ。
3つの事業領域のひとつである院内業務支援分野では、これまでOEMで展開していた術野・内視鏡向けLCDモニターに、パナソニックブランドの製品を新たに投入。今年8月から32型、37型モニター製品の出荷を開始した。「フルHD対応のIPSパネルを使用していることから、3画面の分割表示や、広い視野角による横からの視聴などにも適している。現在、3Dによる立体表示を開発中である」とした。また、ADAでは国内市場向けにMRI用やCT用としてのデファクトを狙うほか、今後は海外展開も視野に入れる。
さらにこの領域では三洋電機とのコラボレーションも展開しやすい。今年5月に大阪府内の病院に導入したのをはじめ、海外展開の地盤づくりにも取り組んでいる注射薬払出ロボットでは、三洋電機の調剤関連機器や医薬品保冷機器とも連動させ、クロスセル体制を敷くほか、今後は三洋電機の自動錠剤包装機と組み合わせることが可能な新規製品の開発を共同で行っていく体制を整える。同様に医療情報システムでは、三洋電機の電子カルテと、パナソニックのPHCやPACS(ピクチャー・アーカイブ・コミュニケーションシステム=医用画像保管システム)との共同製品も開発するという。
「院内業務支援分野においては、病院まるごとロボット化を目指す。とくに、薬剤業務分野に対しては、薬剤分封、薬剤払出、薬剤鑑査、薬剤保管、注射薬混合、搬送までの業務プロセス全般をサポート。錠剤鑑査ロボットでは、ヒューマンエラーによる鑑査ミスを撲滅するとともに、薬剤業務の20%を占める鑑査業務時間を50%も削減することが可能で、薬剤士が薬剤業務に集中できる」(パナソニック ヘルスケア・中矢一也代表取締役常務)という。
在宅ヘルスケア分野においては、補聴器ではこれまでの設計、開発、部品を見直した製品を2011年2月に投入予定であるほか、2010年度上期に北米、欧州、シンガポールでの販売体制を構築。海外での販売も本格化する考えだ。
また、パナソニックの社内ベンチャーであるファンコムが開発した言語障害者および上肢障害者向けの携帯用会話補助装置のレッツ・チャットを同社で継続的に販売。ピクセルオプティクスと共同で開発した、遠近を瞬時に切り替える電子メガネも2010年度第4四半期に販売を開始するとした。
早期診断・治療分野では、歯科事業として、パナソニック電工が開発した生体親和性が高い素材であるナノジルコニアを利用した人工歯一次加工事業を開始。歯科技工所から送られてくる設計データをもとに、同社ミリングセンターで人工歯の一次加工を行い、歯科技工所に納めるビジネスを行う。
さらに歯科領域においては、歯科用光干渉断層計(OCT)システムの臨床評価研究を、独立行政法人国立長寿医療研究センター、国立大学法人東京医科歯科大学と共同で実施。初期の虫歯発見や、X線を利用せずに小児や妊婦などの被曝の心配がないなどのメリットを追求する。そのほか、全国29の歯科大学、大学歯学部の卒業生を対象にした表彰制度「パナソニック ヘルスケア賞(仮称)」を新設。学業成績が優秀であるなどの要件に合致する優秀者を各校から選出し、表彰盾や記念品を授与。優秀な人材の輩出に貢献するとした。
また、ぜん息管理用測定機器ではエアロクラインと共同開発を行い、2012年度に製品化。病院や家庭での手軽なぜん息管理の実現を目指す。
さらに同社では、米国市場向けに動脈硬化の進行を早期にスクリーニングする特定疾病専用超音波診断装置を開発。クリニック向けに販売する計画もこのほど明らかにした。