角川書店などの角川グループホールディングスは12日、参加の角川コンテンツゲートを通じて電子書籍配信のプラットフォーム『BOOK☆WALKER』を12月から開始すると発表した。まずはプレオープンとしてiPhone、iPad向けに約100作品の電子書籍を配信する。毎週20作品を追加していき、来年7月には約1,000タイトルを用意、AndroidやPCでも利用可能にする。2014年にはBOOK☆WALKERのプラットフォームで100億円の売り上げを目指す。
オープンな電子書籍プラットフォームを軸に展開
BOOK☆WALKERの電子書籍配信に参加する出版社は、角川グループの角川書店、角川マーケティング、アスキー・メディアワークス、富士見書房、エンターブレインなど10社に加え、魔法のiらんどや角川映画、キャラアニなどもコンテンツを提供し、全15社が参画する。電子書籍だけでなく映像配信、キャラクタービジネス、ソーシャルゲームといった幅広い展開を計画しており、「ユニークでオンリーワンな電子書籍のオープンなプラットフォーム」(角川グループ佐藤辰男社長)を目指す。
BOOK☆WALKERでは、電子書籍を中心に、複数のデバイスに対応したコンテンツ配信を行う計画で、プレオープン時のiPhone/iPadのiOSに加え、今後Android端末、PCにも対応し、それぞれの端末で購入したコンテンツの閲覧が可能になる。いずれかの端末で購入したコンテンツは、そのまま別の端末でも閲覧できるようになる予定だ。
佐藤社長は、BOOK☆WALKERの特徴として文芸書、コミック、実用書、雑誌など、幅広く特徴のある10社の出版社が集結してコンテンツを提供する点を挙げる。以前から角川グループでは映像、ゲーム、グッズなどの商品をあわせて横展開のメディアミックスを行なってきているが、今後はTwitterなどのオープンプラットフォームとの連携も検討。まずはニコニコ動画のドワンゴと連携したサービスを提供する。
オープンプラットフォームとして、ほかの出版社の参加も可能となっており、今後各社との話し合いを進めていく意向だ。さらに書店や販売店とも連携し、「紙の本と電子書籍が共存するビジネスモデルの確立」(角川コンテンツゲート常務取締役・安本洋一氏)を目指す。たとえば紙の本を買った人だけにデジタルコンテンツを提供することで、アイテムのために読者が書店に足を向けるような方法を検討しているという。
プレオープンで用意する約100作品では、大沢在昌「カルテット」、初めて電子化し、特別イラストを収録したダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード Special Illustrated Edition」、デジタルオリジナル文芸誌「デジタル野生時代」、電子オリジナルの秋山文野「「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説」、谷川流「涼宮ハルヒの憂鬱」、葵せきな「生徒会の一存」、吉崎観音「ケロロ軍曹」、貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン」などの作品をリリースする。
とくに大沢在昌氏による「カルテット」は、BOOK☆WALKER上で電子書籍として先行発売し、さらにテレビドラマ化などのマルチ展開も検討している作品で、今回の「目玉作品」(同)だ。
提携するドワンゴでは、ニコニコ動画オリジナルの電子書籍ビューワ「ニコニコビューワ(仮称)」を提供。BOOK☆WALKERの公式ビューワに加えて、ニコニコビューワでは購入した書籍を閲覧できるだけでなく、コメントが画面上に流れるような、ニコニコ動画ならではの本の読み方ができるようになる、としている。なお、ニコニコビューワからはBOOK☆WALKERが公開するAPIを使ってアクセスする形で、BOOK☆WALKERのIDはOpen IDを使ってほかのサービスとの連携を可能にする。
BOOK☆WALKERでは、「ワンコンテンツ・マルチビューワ」という考え方で、1つのコンテンツを複数のビューワで閲覧できることを想定しており、今回「最大のビューワパートナー」(安本氏)がドワンゴだ。
さらに、モーションポートレートと角川が共同開発した「animeroid「涼宮ハルヒのBOOK☆WALKERナビ」を提供。これは、ライトノベルの主人公涼宮ハルヒをアニメロイドでモーションを加え、BOOK☆WALKERコンテンツを推薦してくれる、といった機能を備えている。
海外配信も視野に
12月の段階では、iPhone/iPad対応からスタートし、ブックストア、ビューワ、本棚機能を提供する。「本を読む機能に特化した」(同)段階で、決済はiTunes Storeアカウントを使ったアプリ内課金で支払いをする。文芸、新書、ライトノベル、コミックの約100作品をリリースし、約20作品を毎週追加する。
その後、来年4月から対応プラットフォームを増やした試験サービスをスタート。この段階でAndroid、PCへ対応を広げ、クレジットカードやプリペイドカードなどでの支払いをサポートする。ニコニコビューワなどのマルチデバイスに対応し、電子アイテム販売やソーシャルメディアとの連携も追加される。雑誌、実用書、写真集を提供し、オーディオブックも検討するという。この時点で1,000作品を用意する予定だが、他社のコンテンツ提供も期待しており、この数が増える可能性もあるという。また、今後Kindleなどの新しいデバイスが登場すれば、そちらへの対応も検討していく考えだ。
BOOK☆WALKERでは、「コンテンツ一つ一つの価値を高め、新しいコンテンツへ挑戦し、新しいマーケット、新しい顧客の創造」(同)を目指して活動を続けていく考えだ。今後、英語、中国語での配信も検討し、サービスを拡大していきたい意向だ。
電子書籍化の動き、「前向きにやっていくしかない」
テレビドラマ化が決定している「カルテット」を執筆した大沢氏は、今回の作品は10年近く前に構想を始め、執筆に5年をかけた作品だという。氏としては珍しく主人公のうち3人が10代の少年少女。10~20代の若い人に特に共感して欲しいという。「テレビドラマやゲームなどの素材」(大沢氏)としても適しており、「ドラマにして欲しい作品」(同)として執筆したそうだ。
同作品は、書き始めから複数の媒体での展開を想定して書かれていたという。もちろん電子書籍は「当初頭になかった」(同)が、角川側の働きかけで、「何でもやろう」という考えから、新しい動きを作れればいいと期待感を示す。
大沢氏は、iPadに加え、Kindleといった電子書籍リーダーのデバイスが今後出てきたとしても、「たかだか数十万台の(電子書籍の)デバイスが出たとしても、これが大きな産業にはなり得ない」としつつ、かといって電子書籍を「本ではない」として忌避すべきではないと強調。
しかし、電子書籍に飛びついても、1億人以上の日本語の紙の本を読める人がいるにもかかわらず出版不況が叫ばれる状況では、電子化をしても「そんな簡単に夢のような変化が訪れるわけはない」と冷静に指摘する。それでも現状は電子書籍化には「話題の起爆剤がある」ため、それを紙の本や電子書籍の販売につなげるさまざまな取り組みが重要だと話す。
大沢氏は、「前向きにやっていくしかないだろう」と語り、今後も積極的に協力していく意向を示している。
中間フォーマットは"三省懇談会"の動向も見て
角川グループでは、NTTと提携してクラウド型コンテンツ配信サービス「Fan+(ファンプラス)」もスタートさせる。Fan+は映像、音声、テキストを一緒にしたハイブリッド型コンテンツを検討しており、「コンテンツをゼロから作る」(同)もの。こうしたものはFan+で配信し、既存の書籍の電子化といった書籍を読むことに特化した作品はBOOK☆WALKERで配信する方針だ。
安本氏によれば、Twitterとの連携機能は現在開発段階にある。ビューワ上にタイムラインが流れたり、感動した場面などがユーザー間で共有できるような仕組みを作りたいとしている。Twitter連携機能は12月の段階で提供したい意向だ。
なお、今回の電子書籍では中間フォーマットとしてTTXで用意していく考えが示された。iPhone/iPadやKindleなど、さまざまなデバイス向けに最終フォーマットで書き出す方法をとる予定だ。ただ、総務省、経済産業省、文部科学省による、いわゆる三省懇談会での結論が「デファクトになる可能性が高い」ため、その動向も見て進めていくという。