自宅でいつでも漫画喫茶気分が味わえる電子貸本「Renta!」ですが、「メディアファクトリー」とのコラボにより、『COMIC CYUTT(コミックキュット)』という電子漫画雑誌の販売も行っています。

創刊したのは2009年12月11日。シリアスからギャグまでバラエティ豊かな作品が連載されているのですが、なかでも僕が注目しているのは『わるいこと』という作品です。

わるいこと

舞台となるのは昭和30年代、戦後の荒廃からようやく立ち直ってきた日本。観察が趣味の変わり者刑事・進藤千尋と、狂気じみた少年・迫忍の二人を中心に展開される本格サスペンスドラマ。

『わるいこと』(善内美景)

といっても二人がコンビを組んで事件解決にあたるとか、そういうストーリーではありません。面白いのは進藤と迫の関係で、彼らは"刑事と容疑者"なのです。

まずは冒頭、刃物を持った少年・迫が「人を殺した」と駐在所に自首してくる衝撃的な場面から物語がスタートします。

当然のごとく逮捕され取り調べを受けることになる迫でしたが、自首してきたくせに完全黙秘を貫いて何も喋らず、警察も手を焼くばかり。

そこへ現れたのが進藤刑事で、ひょうひょうとしていてつかみどころのない彼と話すことで迫は次第に心を開き始めるのですが、しかし身元が明らかになったらなったで、今度は「動機がわからない」などの新たな謎が浮上してくることになります。この1歩進んで2歩下がっている感じ、これを味わえるのがミステリーの醍醐味ですよね。

とはいえ全体的には謎解きというよりも、二人の主人公が心を通わせることで次第に事件の全貌がはっきりしていくという、ヒューマンドラマとしての側面が強い作品です。迫はなぜ人を殺したのか。タイトルにある『わるいこと』とは何を指しているのか。そのあたりに注目しつつ読んでみてください。

それにしてもまだ4話までしか連載が進んでいないのに、この濃度はすごいなあ。

そして、この『わるいこと』の他にも、現在『COMIC CYUTT』では3作品が連載されています。

カードマスター

『カードマスター』(原作・夜光花/画・ときわ銀)

タロットカードの精霊と契約し、その守護を受ける不老不死のカードマスター。……なんかこう書くとバトル物っぽい雰囲気もありますが、本作はどちらかというとロードムービーに近い、数話完結のゴシックファンタジーです。たとえば1話から3話まではとある平穏な村を舞台にした悲恋の物語が語られますが、4話からは舞台をイギリスに移し、まったく別の話が展開していきます。

各章に共通して登場するのは、カードマスターであるアレクとキース。主人公であると同時に、狂言回しでもあるといえばわかりやすいでしょうか。二人は一緒に旅をしていて、その目的は各地に散らばった精霊の書を探し出すこと。彼らの行く先々で起こるドラマを、本作では描いていくわけです。

全体を通じてのポイントは、カードマスターが不老不死であるということ。永遠の時を生きることの残酷さについては、第二幕である「歌姫礼賛」で少し触れられていますが、今後はさらに物語の根幹を成していくことになるのではないかと思います。

星和学園弁当部っ!

『星和学園弁当部っ!』(うみたまこ)

イケメン男子たちによる「弁当部」と、貧乏少女で常にお腹を空かせている少女・小夜子による学園グルメコメディ。

「弁当部」って何だよと思われるかもしれませんが、弁当部は弁当部です。その名の通り、弁当を作ることが活動の内容の部活なのです。

全体的にはわりとコメディ路線ではあるものの、途中途中で出てくる料理の内容やうんちくはちゃんとしていて、時にはちょっとホロッとくる良いエピソードも。

現在は第4話まで掲載されていて、グルメ漫画ではお約束ともいえる料理コンテストに向け、各部員がそれぞれの勝負メニューを考えているところです。

主人公で紅一点の小夜子自身は料理がまったくできないのですが、その大食ぶりと味覚の鋭さで部員をサポート。グルメ漫画でいうところの"リアクション役"ですね。

「美食会」や「四天王」まで出てきて、思わずニヤニヤしてしまう展開が続いている本作。次にどんな料理が登場するのかが楽しみです。

パンドラレストラン!

今まで色々と擬人化モノの作品は読んできたのですが、調理器具の擬人化は意外と盲点でした。

その擬人化も、単に「鍋」とか「まな板」というだけではなくて、「雪平鍋」だったり「プラスチック製のまな板」だったりと設定が細かい! こういうディテールにこだわるとグッとリアリティも出るし、読者の共感を呼ぶこともできますよね。

主人公はレストラン「パンドラ」に新人としてやってきたまな板で、主にツッコミを担当。他には気分屋の料理長である「三徳包丁」や、卑屈で自虐的な「鉄製フライパン」、フライパンの相棒で軽い性格の「フライ返し」に、気遣いのできる良い人「雪平鍋」、そして物腰柔らかなまとめ役ながらも裏の顔を持つ「スポンジ」など、個性豊かな面々が顔をそろえます。

最近では食器メンバーも登場するなどさらにレストランが賑やかに。こうして見ると、調理場って擬人化向きのモチーフなんですね。

【レポート】ディープ・コミック調査隊 - 残暑にぴったりのホラー・サスペンス漫画特集

(c)善内美景/メディアファクトリー