中国におけるデータセンター選びのポイント

この規制緩和で中国市場でのチャンスが広がる状況となったわけだが、中国国内でネット通販事業などを安定的に展開するには、サービス提供基盤となるITインフラの中国国内への設置を検討する場合もあるだろう。

この場合、現地のデータセンター事業者、または天津TIS海泰のような日系企業と現地企業の合弁会社が運営するデータセンターなどとの契約が必要となるが、丸井氏によると、中国でのデータセンター選びには、立地条件やスペックだけではなく、中国ならではの知っておくべきポイントがあるという。

日系ITベンダーのデータセンターの利用料金は、現地企業が運営するそれと比べると割高にはなる。そのため、コストを優先して現地のデータセンター事業者を利用していくという選択肢もあるだろう。

しかし同氏は、日系企業が現地のデータセンター事業者を利用するという場合は、「いくらコスト面でのメリットがあると言っても、品質やセキュリティといった側面において、地場リスクということを常に考えた方がよい」と指摘する。

例えば、現地のデータセンターには、オフィスビルを改装してデータセンターとして利用しているものも少なくないほか、セキュリティ面でも、カメラによる入退室管理しか行ってないデータセンターもあるという。コストを優先すれば仕方のない部分かもしれないが、新たに中国で事業展開する場合は、このような地場リスクを認識していくことも重要だろう。

ちなみに同社(天津TIS海泰)の天津データセンター(天津濱海高新IDC)は、床下80cm以上のフリーアクセス高や2.5メートルの天井高、冗長化された電源供給や発電機、排熱設計など、Tier 3以上とされる高度なデータセンター専用設計がウリとなっている。

また、365日24時間の警備体制と5段階によるセキュリティ対策(手荷物ロッカー、ID等による個人確認、サーバルームにおける2重扉、ラックごとに異なる鍵で管理、VIPルーム)が施されているほか、入退室についてはログによる履歴管理も行われる。

「セキュリティについては信頼性の高い"日本仕様"をそのまま持ち込んでいる」(同氏)ということも、同センターが「金融機関や多国籍企業の製造業などの品質にこだわりのある企業からITインフラの運用の受注」という実績にもつながっている。

サーバルームや監視ルームの入口

監視ルームの様子

ラックの様子

なお、中国国内のインターネット回線は、中国電信、中国聯通という2大キャリアによって供給されることとなっているが、天津TIS海泰はこれに加えて香港系のキャリアであるパックネットと提携。

BGP(Border Gateway Protocol)と呼ばれるIX(インターネットエクスチェンジ)のような仕組みによって3つのインターネット網を接続することで、マルチキャリア接続による回線の信頼性を確保している(動的な切り替えが可能であるため、ユーザーが回線の切り替えを意識する必要はない)。

中国ならではの特殊事情について

余談になるが、中国では、Webサイトはすべて政府の管理下に置かれ、サイトはすべて検閲の対象となる。これは一般的に知られていることではあるが、実際にはどのような手続きで検閲が行われるのだろうか?

丸井氏によると、データセンター事業者は、中国政府の指導のもとで規制対象となる用語などをサーチエンジンによるクロールを行い、対象となるサイトが発見された場合はその程度によってサイトを閉鎖させるかどうかといった判断を行っているという。

そして現地のデータセンターでは、中国国内で違法とされるWebサイトのコンテンツが発見された場合、対象となるサーバだけではなく、無関係なサーバも含めて丸ごと電源を落としてしまうこともあるそうだ。

丸井氏は、「われわれのような外資系のセンターであれば、現地の規制には従いつつも、しっかりとしたSLAのもとで対応するので、そのようなトラブルの危険性は少ない」と語る。

また中国では、電力の供給が瞬間的に途絶える「瞬断」がしばしば発生するという。サービスの品質保証に関わる問題につながりかねないため、日本の感覚だと電力会社にクレームをつけたくなるところだが、中国においてはデータセンター側でこのリスクに対する担保も考える必要があるそうだ。

天津TIS海泰では、異なる変電所から電源を引き込むことで電源の供給系統を冗長化しているほか、48時間の供給が可能とされる自家発電機、15分の電源供給が可能なUPS(無停電電源装置)によってこのようなリスクに対応している。

48時間の電力供給を可能にする発電機