既報の通り、ThinkPad T410sと同T510に、NVIDIAのGPU切り替え技術である「NVIDIA Optimus」を搭載した新モデルが追加されるという発表があった。それにあわせて、レノボ・ジャパンが技術実装の詳細を解説するプレス向けブリーフィングを開催したので、その内容をお届けする。
NVIDIAが「Optimus」技術を解説
まず、NVIDIA Optimusの概要から。NVIDIA マーケティング本部 テクニカル マーケティング エンジニアのスティーブ ザン氏がこれを解説してくれた。Optimusでは、モバイルノートPCにおいて、どちらも重要だがトレードオフの関係にある、「バッテリ寿命」と「パフォーマンス」の両立が実現するのだと言う。
NVIDIAはノートPC向けのディスクリートGPUにも非常に注力している。ノートPCは2008年のうちに出荷台数でデスクトップPCを上回り、将来もノートPCの需要は大きい。さらに、GPUのパワーを必要とするアプリケーションが数多く登場してきていることにより、ノートPC向けGPUへの要求は今後も高まっていくことが予想されているからだ。現代では、GPUは特定用途に限られたプロセッサでは無くなってきており、例えばWebブラウザで、次世代のInternet Explorer 9やFirefox 4、Chrome 6などは、フロントの描画までもがGPUでアクセラレートできるようになっている。
ノートPCは2008年のうちに出荷台数でデスクトップPCを上回り、将来もノートPCの需要は大きい |
GPUのパワーを必要とするアプリケーションが数多く登場してきていることにより、ノートPC向けGPUへの要求は今後も高まっていく |
NVIDIA Optimusは、利用シーンに応じて、高性能な外付けGPU(ディスクリートGPU)と低消費電力な統合GPU(IGP)を切り替える、いわゆるGPU切り替え技術だが、従来のノートPCで採用されていた「Switchable Graphics」とは仕組みから異なる。
NVIDIAが提供していた前世代のSwitchable Graphicsでは、グラフィックソースを切り替えるための専用チップとして「Mux」と呼ばれるハードウェアチップを実装しており、これでディスプレイに接続されるGPUがIGPとディスクリートGPUのいずれかであるかを明示していた。
OptimusではディスクリートGPUをIGPに直結する形に変更し、ディスプレイ出力は常にIGPを通して行なうように変更。ディスクリートGPUを利用する処理では、ディスクリートGPU側フレームバッファ内の処理結果を、PCI Expressバスを通してIGP側フレームバッファに転送し、出力させる。また、その転送に、ディスクリートGPUが備える非同期の転送エンジン「Copy Engine」を用いることで、処理のストールやパフォーマンス低下を防いでいる。
それにより、Optimusでは、従来のSwitchable Graphicsでのデメリットを改善。Muxを用いたGPU切り替えでは発生していた画面のブラックアウト時間や、再起動の必要などは無くなり、シームレスなGPU切り替えが可能となっている。同じデスクトップ上で、IGP処理中のアプリケーションが立ち上がったままでも、ディスクリートGPU処理のアプリケーションを起動させるといった動作も可能となった。
Optimusはアプリケーション単位でIGPとディスクリートGPUを切り替えるが、これは、アプリケーションを指定する設定プロファイルやCudaのコール、DirectXのコールなどに基づいて自動で実行されるので、ユーザーは切り替えを意識すること無く、常に「バッテリ寿命」と「パフォーマンス」が最適な状態でPCを利用できるとされる。なお、設定プロファイルはユーザー自身が手動編集することも可能となっている。
ThinkPadへのOptimus搭載で何が変わる?
続いて、レノボ・ジャパンの大和事業所から、ノートブック開発研究所 サブシステム技術 表示技術担当部員の久保田徹氏が、Oputimasを搭載するThinkPadの新機能を説明した。
同氏によれば、従来のSwitchable Graphicsの世代では、ユーザーから、「切り替え方法がよく分からない」「切り替えに時間がかかる」など、機能の利用を躊躇するような反応があったのだという。Optimus搭載モデルでは、切り替えを意識しないほどのシームレスな切り替えが可能で、さらにバッテリ寿命が33%改善、パフォーマンスは内蔵グラフィックス比で70%アップと、上記の懸念を払拭できる成果を実現できたことが紹介された。
また、Optimus搭載ThinkPadの新たな機能として、IGPとディスクリートGPUを同時稼動させることで、4画面までのマルチディスプレイも可能となったことが紹介された。IGPで2画面、ディスクリートGPUで2画面を出力しており、出力ポートとしてはThinkPadの専用ドッキングステーションの出力端子を利用し、これを実現している。
ところで、現行Switchable Graphics世代のThinkPad Tを、Optimus対応にできるのか、という話題もあった。結論から言うと、現時点で対応の予定は無い。主に製品の住み分けやサポートの問題なのだそうだが、例えばThinkPad T410sなどは、ハードウェアとしては、Muxチップが実装されている以外はOptimus世代と同じ構成だけに、なんとかなりそうにも思える。サポート外の自己責任でも良いので、アップデートを用意して貰えると嬉しいところだ。