既報の通り、ThinkPad T410sと同T510に、NVIDIAのGPU切り替え技術である「NVIDIA Optimus」を搭載した新モデルが追加されるという発表があった。それにあわせて、レノボ・ジャパンが技術実装の詳細を解説するプレス向けブリーフィングを開催したので、その内容をお届けする。

レノボ・ジャパン 製品事業部 ThinkPad担当の土居憲太郎氏が、Optimus搭載ThinkPadの特徴を紹介。製品は10月15日より発売を開始している

NVIDIAが「Optimus」技術を解説

まず、NVIDIA Optimusの概要から。NVIDIA マーケティング本部 テクニカル マーケティング エンジニアのスティーブ ザン氏がこれを解説してくれた。Optimusでは、モバイルノートPCにおいて、どちらも重要だがトレードオフの関係にある、「バッテリ寿命」と「パフォーマンス」の両立が実現するのだと言う。

NVIDIA マーケティング本部 テクニカル マーケティング エンジニアのスティーブ ザン氏。Optimusで、「バッテリ寿命」と「パフォーマンス」の両立が実現するという

NVIDIAはノートPC向けのディスクリートGPUにも非常に注力している。ノートPCは2008年のうちに出荷台数でデスクトップPCを上回り、将来もノートPCの需要は大きい。さらに、GPUのパワーを必要とするアプリケーションが数多く登場してきていることにより、ノートPC向けGPUへの要求は今後も高まっていくことが予想されているからだ。現代では、GPUは特定用途に限られたプロセッサでは無くなってきており、例えばWebブラウザで、次世代のInternet Explorer 9やFirefox 4、Chrome 6などは、フロントの描画までもがGPUでアクセラレートできるようになっている。

ノートPCは2008年のうちに出荷台数でデスクトップPCを上回り、将来もノートPCの需要は大きい

GPUのパワーを必要とするアプリケーションが数多く登場してきていることにより、ノートPC向けGPUへの要求は今後も高まっていく

Internet Explorer 9やFirefox 4、Chrome 6などの次世代Webブラウザでは、GPUアクセラレートの恩恵が大きくなる

NVIDIA Optimusは、利用シーンに応じて、高性能な外付けGPU(ディスクリートGPU)と低消費電力な統合GPU(IGP)を切り替える、いわゆるGPU切り替え技術だが、従来のノートPCで採用されていた「Switchable Graphics」とは仕組みから異なる。

NVIDIAが提供していた前世代のSwitchable Graphicsでは、グラフィックソースを切り替えるための専用チップとして「Mux」と呼ばれるハードウェアチップを実装しており、これでディスプレイに接続されるGPUがIGPとディスクリートGPUのいずれかであるかを明示していた。

Switchable Graphicsでは、「Mux」と呼ばれるハードウェアチップでGPUを切り替えていた

OptimusではディスクリートGPUをIGPに直結する形に変更し、ディスプレイ出力は常にIGPを通して行なうように変更。ディスクリートGPUを利用する処理では、ディスクリートGPU側フレームバッファ内の処理結果を、PCI Expressバスを通してIGP側フレームバッファに転送し、出力させる。また、その転送に、ディスクリートGPUが備える非同期の転送エンジン「Copy Engine」を用いることで、処理のストールやパフォーマンス低下を防いでいる。

Optimusでは、ディスクリートGPUをIGPに直結する形に変更し、ディスプレイ出力は常にIGPを通して行なう

「Copy Engine」無しではパフォーマンスが低下してしまう

「Copy Engine」の実装でこれを解決

それにより、Optimusでは、従来のSwitchable Graphicsでのデメリットを改善。Muxを用いたGPU切り替えでは発生していた画面のブラックアウト時間や、再起動の必要などは無くなり、シームレスなGPU切り替えが可能となっている。同じデスクトップ上で、IGP処理中のアプリケーションが立ち上がったままでも、ディスクリートGPU処理のアプリケーションを起動させるといった動作も可能となった。

Optimusはアプリケーション単位でIGPとディスクリートGPUを切り替えるが、これは、アプリケーションを指定する設定プロファイルやCudaのコール、DirectXのコールなどに基づいて自動で実行されるので、ユーザーは切り替えを意識すること無く、常に「バッテリ寿命」と「パフォーマンス」が最適な状態でPCを利用できるとされる。なお、設定プロファイルはユーザー自身が手動編集することも可能となっている。

ディスクリートGPU利用の設定プロファイル

IGPとディスクリートGPUを両方同時に認識している

ThinkPadへのOptimus搭載で何が変わる?

続いて、レノボ・ジャパンの大和事業所から、ノートブック開発研究所 サブシステム技術 表示技術担当部員の久保田徹氏が、Oputimasを搭載するThinkPadの新機能を説明した。

レノボ・ジャパン ノートブック開発研究所 サブシステム技術 表示技術担当部員の久保田徹氏

ThinkPadは、これまでも「バッテリ寿命」と「パフォーマンス」の両立を追及してきていた

同氏によれば、従来のSwitchable Graphicsの世代では、ユーザーから、「切り替え方法がよく分からない」「切り替えに時間がかかる」など、機能の利用を躊躇するような反応があったのだという。Optimus搭載モデルでは、切り替えを意識しないほどのシームレスな切り替えが可能で、さらにバッテリ寿命が33%改善、パフォーマンスは内蔵グラフィックス比で70%アップと、上記の懸念を払拭できる成果を実現できたことが紹介された。

Switchable Graphicsに対するユーザーの反応。Optimus搭載モデルで、こういった懸念を払拭する

パフォーマンスアップの例として、IE9のベータ版を用いたベンチマークテスト。左がIGPで15fps、右がディスクリートGPUで36fpsと、パフォーマンスの差は明らか

また、IGP処理のアプリケーションウィンドウと、ディスクリートGPU処理のアプリケーションウィンドウが同一デスクトップ上で起動している点にも注目。Muxで切り替えるSwitchable Graphicsでは、IGPとディスクリートGPUは同時に利用できなかった

また、Optimus搭載ThinkPadの新たな機能として、IGPとディスクリートGPUを同時稼動させることで、4画面までのマルチディスプレイも可能となったことが紹介された。IGPで2画面、ディスクリートGPUで2画面を出力しており、出力ポートとしてはThinkPadの専用ドッキングステーションの出力端子を利用し、これを実現している。

ThinkPadと液晶ディスプレイ×3枚による4画面マルチディスプレイ

ところで、現行Switchable Graphics世代のThinkPad Tを、Optimus対応にできるのか、という話題もあった。結論から言うと、現時点で対応の予定は無い。主に製品の住み分けやサポートの問題なのだそうだが、例えばThinkPad T410sなどは、ハードウェアとしては、Muxチップが実装されている以外はOptimus世代と同じ構成だけに、なんとかなりそうにも思える。サポート外の自己責任でも良いので、アップデートを用意して貰えると嬉しいところだ。