10月初旬に米国で開催された携帯電話業界カンファレンス「CTIA Enterprise & Applications 2010」における最大のトピックは米Verizon WirelessによるLTEサービスの具体的な展開プランについてだった。来年初頭での提供が予定されているLTE対応携帯についての発表こそ行われなかったものの、日本のNTTドコモなどと並んで2010年内に世界に先駆けて同市場へと参入することになる。一方でVerizonの最大のライバルである米AT&Tは、こうしたライバルの動きにどう対応していくのだろうか?

AT&TとVerizonは過去数年にわたって加入者数を僅差で争っており、もともと全米トップだったVerizon WirelessをAT&T Wirelessの吸収合併でCingular Wireless(現在のAT&T)が抜き、さらにAlltelの買収でVerizonが抜き返すなど、両社の関係は拮抗している。一時期はiPhoneの独占販売契約権を獲得したAT&Tが有利に思われたが、通信負荷の増大によるネットワーク回線の破綻に加え、VerizonがMotorola DroidといったAndroid端末を前面プッシュして成功するなど、両社の関係は再び均衡を取りつつある。CTIAの最新のデータによれば、米国における携帯電話普及率は93%に達しており、もはや加入者はほぼ飽和状態になっている。今後ビジネス機会を増やそうとするならば、データ通信などよりARPUの高いビジネスを強化する、あるいは以前にVerizon Wirelessが主張していたように「携帯の2台目需要や自販機/各種携帯デバイスへの組み込みで普及率500%を目指す」といった手法が考えられる。

米AT&T Business Solutions (ABS)プレジデント兼CEOのJohn Stankey氏

これに対するAT&Tの回答はシンプルだ。CTIA Enterprise & Applications 2010の最終日にあたる10月8日(現地時間)に基調講演を行った米AT&T Business Solutions(ABS)プレジデント兼CEOのJohn Stankey氏によれば、同社が目指す次なる携帯電話業界のフロンティアはエンタープライズ市場にあるという。「世界的経済低迷からの回復に世間が苦しむなか、企業はより高い生産性を実現するソリューションを求めている。この鍵となるのがモバイルであり、ビジネスを変革する可能性を秘めている」と同氏は述べ、タブレットなどのビジネス現場での活用、そしてiPhoneを用いたカード決済ソリューションなど、モバイルネットワークを組み合わせたビジネスソリューションの数々を紹介した。米ワシントン州でのセンサーネットワークやスマートフォン上での管理アプリを組み合わせた農園の効率的な運営や、日産の電気自動車であるLeafでのモバイルネットワークとバッテリ残量センサーを組み合わせたシステムの構築なども行われているという。

電気自動車の日産Leafではバッテリ残量メーターとモバイルネットワークを組み合わせた充電警告システムを構築

AT&T USBConnect Adrenaline。製造元はLGで、AT&T初となるLTE対応製品だ

Verizon対抗となるLTEサービスの展開計画についての詳細は語られなかったが、高速データ通信を必要とするユーザーに対してHSPA+とLTEの2つのネットワークに対応したPC向けUSBモデム装置「AT&T USBConnect Adrenaline」を使うことで、現在はHSPA+、将来的には同じ装置でLTEがそのまま利用できるようになることがStankey氏によって説明されている。AT&Tは10月5日、AdrenalineをはじめとするUSBモデム装置の新製品3機種を発表している。AT&T USBConnect 900はプリペイドプラン用の製品、USBConnect ShockwaveがHSPA+対応のポストペイド契約向けの製品、そしてAdrenalineがポストペイド用のHSPA+/LTE両対応製品となる。Adrenalineは同社初のLTE対応製品ということになるが、その他のLTE対応端末についてはVerizon同様説明されておらず、LTEサービスの具体的な開始時期についても説明されていない。ただAT&Tでは「2011年中に一部都市限定でサービスを開始する」とアナウンスが行われており、Verizonには若干出遅れるものの比較的早い時期に具体的なロールアウト計画が公開されるものとみられる。